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マンションに住む人の数は、全国で1500万人を超えるとされる。そうした中、築40年を超えるような高経年マンションが増えており、「マンション管理」の重要度が増してきている。

今年4月には「改正マンション管理適正化法」が施行。管理状態の良いマンションに対し、自治体がお墨付きを与える「マンション管理計画認定制度」がスタートするなど、マンション管理を巡る仕組みは変化しつつある。

以前から「マンションは管理を買え」と言われているように、管理状況の善し悪しがマンションの価値にも大きな影響を与える。マンション管理をめぐる課題や制度の現状については、不動産投資家も知っておいて損はないだろう。今回は、マンション管理をめぐる現状について確認しつつ、解決への道のりを探っていきたい。

国が「管理会社」を監督する理由

まずは、マンション管理において重要な役割を担うマンション管理会社について触れておきたい。

分譲マンションの管理会社には、2001年に施行された「マンション管理適正化法」に基づき、登録簿への登録が義務付けられている。その登録数は年々増加傾向にあり、2022年3月末現在で1934社となっている。

マンション管理適正化法では、これらの管理会社に対し、マンション管理業務に関する一定のルールを定めている。国交省は、そのルールが守られているかどうかを調べるため、毎年立ち入り調査を実施している。

昨年度の検査結果は、7月28日に「2021年度のマンション管理業者への全国一斉立入調査結果」で発表された。これによると、全国84社の管理業者に対して立入検査を行い、19社に対して是正指導が行われた。是正指導に至った理由などの詳細には触れられていないが、国交省は「一部のマンション管理業者において、適正化法の各条項に対する理解不足が見られる結果となりました」としている。

ちなみに、今回の是正指導率は22.9%とこれまででもっとも低かった。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、立入検査数は大幅に減少している。2019年度までは150社近い立入検査を行っており、是正指導は50社以上、是正指導率はおおむね40%を超えていた。

各年度の調査結果より著者作成

国がマンション管理会社の監督を行う背景には、建物の保守管理を適切に行うことで、安全性を確保するという狙いもあるだろう。しかし同時に、マンション管理適正化法が定める「財産の分別管理」が適切に行われているかについても、重要な項目として重視していると思われる。

「財産の分別管理」とは、管理組合から預かった修繕積立金などの財産と、管理会社固有の財産とを分けて管理することを定めたものだ。

マンションの老朽化が進む現在、国は、マンションを安全に維持管理し、周辺への危害などを防止したいという認識を強く持っている。実際、2021年末現在で、築50年以上のマンションは21万1000戸、築40年以上は94万5000戸、築30年以上は113万5000戸となっている。そしてこれが20年後の2041年末には、築50年以上が約11.8倍の249万1000戸、築40年以上が約1.9倍の176万3000戸、築30年以上が約1.4倍の163万戸になると予測されているのだ。

国土交通省の資料より著者作成

今後、老朽化や管理組合の担い手不足が顕著な高経年マンションが急増する見込みであり、大規模修繕、建て替えが現実問題となってくるマンションが多く発生する。そうなった際に、「財産の分別管理」が適切に行われていることは、最低限必要な条件となるだろう。

進まぬマンションの建て替え

国交省によると、旧耐震基準のマンションは現在約104万戸ある。そして10年後には、新耐震基準でも築40年を超えるマンションが約94万戸になると予測されている。既存のマンションは、管理組合とマンション管理会社により、修繕・改良が適切に行われながら管理されることが重要になってくる。

ただしそれでも、耐震性能の不足や老朽化により、修繕・改良が困難なケースもあるだろう。そうなれば、建て替え、あるいは売却して敷地を更地化することなどが必要になってくる。

ところが、実際にマンションの建て替えが実施されるケースは非常に稀だ。以下は、マンション建て替え工事の完了件数の推移を示したグラフだ。築50年を超えたマンションは21万1000戸もあるにもかかわらず、2022年の建て替え実績は270件に留まっている。2012年が182件だったから、10年間でわずか88件しか増加していないのだ。

国土交通省の資料より著者作成

このため、2020年には「マンション建替え円滑化法」(マンションの建替え等の円滑化に関する法律)の改正が行われ、マンションの建て替えや敷地売却などに関する仕組みが整備された。

例えば、組合がマンションとその敷地をデベロッパーに一括で売却できる「マンション敷地売却事業」は、それまでは耐震性のないマンションのみが対象だったが、改正により外壁の剥落などにより危険が生じるケースも対象に含まれた(所有者の5分の4の合意が必要)。同様に、耐震性のないマンションのみが対象だった「容積率緩和特例」でも対象が拡大している。

また、複数棟からなるいわゆる「団地型マンション」。マンション総ストックのうち、団地型マンションの割合は約5000団地・約200万戸で、全体の約3分の1を占めているが、この団地型マンションでも、敷地分割によって団地内の一部住棟のみ建て替えたり、売却したりといったことがしやすくなった。

詳細はこちらの資料および以下の参考記事を参照してほしい。

【参考記事】
建替え円滑化法改正、老朽化マンションの再生進むか

これらの新制度がどの程度の実績をあげられるのかは不透明だ。それでも、マンションは着実に老朽化するし、いずれは耐用年数が来ることになる。来るべき時に向けて、マンションでは管理業者の適正な管理と、管理業者と管理組合の連携、管理組合と住民との意思疎通、コミュニケーションが非常に重要だ。

マンションは今やなくてはならない住居形態になっているとされる。そのマンションが迎える老朽化という大きな課題がクリアされ、快適な生活が守られることを期待したい。

(鷲尾香一)