購入する物件を検討する際、最初に「物件概要書」や「レントロール」を確認してシミュレーションを行ったり、内見に行くかどうか判断したりする不動産投資家は多い。
一方で、資料に書かれた情報をうまく判断できず、悩む人も多いだろう。この連載では、各回1人の不動産投資家に実際に物件資料を見てもらい、物件資料チェックの仕方を確認していく。基準や判断の方法は人によってさまざまだが、参考の1つとしてほしい。
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今回確認するのは以下の3物件だ。いずれも愛知県内にある中古の一棟マンションで、販売価格は7200万~1億6200万円となっている。
本編に入る前に、まずは、読者の皆さま自身でそれぞれの物件概要書とレントロールを読み込んでみてほしい。自分なりの基準で十分に検討した後、「答え合わせ」をするつもりで安藤さんのチェックの仕方を確認しよう。
※注:いずれも、実際の物件をもとに楽待新聞編集部が作成した架空の物件です
■物件1:名古屋市南区一棟マンション
■物件2:名古屋市昭和区一棟マンション
■物件3:愛知県長久手市一棟マンション
今回これらの物件資料をチェックし、「購入を検討するかどうか」を考えてもらったのは、複数の金融機関との取引実績を持つ投資家・安藤新之助さんだ。投資歴は14年で、愛知県のRC物件を中心とした地元密着型の投資スタイルを貫いてきた。現在は12棟195室を保有し、税引き後の年間CFは5000万円だという。
普段物件を購入する際は、「資料で8割判断し、現地調査で残りの2割を固める」という安藤さん。検討すべきポイントはどこなのか、実際の物件資料を見ながら話してもらった。
◯判断のポイントは?
物件資料をチェックする際、安藤さんは次の4点を大切にしているという。
(1)立地
「まず大切なのは、安定的に賃貸経営できる将来性があるかです」と安藤さん。立地がよければ、実勢価格で考えたときに、土地の値段だけで含み益が出る場合もある。整形地で、使いやすい地形をしているかなど、「土地として売れるかどうかも重要なポイントです」と話す。
(2)築年数と構造
安藤さんによると、「出口戦略が取りやすいかどうかを考える指標として重要」だという。また、修繕履歴なども忘れずに確認したいと話す。修繕の実施有無のみならず「どのように行ったのか」「どの会社が施工したのか」まで見ておき、物件を保有した場合の収支シュミレーションの確実性を増すようにしているという。
(3)間取り
競争力のある、人気の間取りかどうかをよく検討するようにしているという安藤さん。エリアの特性や競合物件の間取りと比較し、判断をすすめていくのだという。「レントロールで部屋ごとの賃料の違いは必ず確認します。もし間取りが理由で賃料が低いのであれば、改善すれば収支をよくすることもできます」
(4)現地調査の材料集め
参照する媒体によって、得られる情報が異なる場合もある。「なぜ情報が違うのかを資料から得られる情報をもとに検討することも大切ですが、現場の声が一番重要です」と指摘する。事前に資料を調査して質問事項を洗い出しておき、現場に行った際に的確に質問できるようにしているそうだ。
これらの基準をもとに、どのように購入判断を進めていくのだろうか? 物件資料を見ながら、ポイントを解説してもらった。本記事では1物件の物件チェックを紹介する。その他の物件も気になる方はぜひ動画で確認してほしい。
加えて、こうした一棟物件の購入には欠かせない融資についても話してもらっている。複数の金融機関とやり取りし、15億円超えの取引実績を持つ安藤さんは、融資を引くためにどのように物件をプレゼンするのだろうか。
◯名古屋市南区鉄骨マンションをチェック!
まずチェックしたのは、名古屋市南区の鉄骨マンションだ。安藤さんがまず着目したのは、物件が建つエリアだった。
安藤さんによると、名古屋市南区は場所によって賃貸需要に差があるというが、「この物件の最寄りである本笠寺駅周辺は、ファミリーが多く、2LDKの需要が高いエリアです。2LDKであれば苦戦しないと思います」と話した。
次に、都市計画や用途地域を確認。「ここは市街化区域なので、問題ありませんね。市街化調整区域の物件は金融機関の評価が下がりますし、売りにくいので、私は買いません」と話す。建ぺい率や容積率も計算し、容積オーバーなどがないか確かめた。
この物件の備考欄には「駐車場3台分」とある。「愛知県は車社会ですから、駐車場がどれだけ確保できるかは非常に重要です」と安藤さん。敷地内に駐車場を整備できない場合は、近隣に月極駐車場を確保するなどの対応が必要になるケースもある。
近隣でそうした駐車場を確保できるかどうかは、現地で確認することが重要だ。ただし、「GoogleMapのストリートビューなどで確認もできるので、一次的にはインターネットで調べるようにしています」と安藤さんは話す。
安藤さんいわく、もし周辺に空き地があるなら、駐車場が確保できる確率は高い。だが、密集した住宅地などに物件がある場合は駐車場を押さえづらく、注意が必要だそうだ。「駐車場が用意できないとなると、入居できる方がかなり限定されてしまいます。家賃を下げる原因になる可能性がありますね」と、念入りに確認したいと話した。
続いて目を向けたのは、取引形態だ。「媒介」とあるのを確認し、「自分が買い付けを出しても、通る確率が低いかもしれないです」と指摘した。専任ではないため、売主が他の会社にも媒介を依頼している可能性があるのだ。「できれば、何社に依頼しているのか確認したいです。競合の投資家がどれくらいいるのか確認すれば、1つの判断指標になります」
資料によれば、売却理由は「資産整理」とある。一口に資産整理といっても、考えられる理由はさまざまだと安藤さんは言う。会社オーナー、地主、投資家など、それぞれの立場で、どういう理由で資産整理を行うのかは異なる。これらを明確にすることで、「指値交渉ができそうかのヒント」が得られるという。
「会社オーナーであれば、もしかしたら資金繰りが厳しくなり、物件を現金化して運営資金にしたい…といった考えがあるかもしれません。スピード重視の取引を望んでいる可能性もあるので、指値交渉もしやすいかもしれません」
一方、地主が売主の場合は、あまり売り急いでいない可能性も高いと話した。
◯レントロールの謎を追って
レントロールを見た安藤さんは、この物件の家賃下落の傾向が強いことを指摘した。
101号室と201号室に注目すると、2013〜2019年の6年間で、家賃が1万4000円ほど下落していることがわかる。どちらも2LDKで間取りは同じだが、入居時期によって大きな差が出た。
1LDKの301号室と302号室を比較してみても、傾向は同様。「ここまで家賃が下がるとなるとちょっと厳しいかな。競合物件が出てきているのか、それとも物件に問題があるのかが気になります」と話す。
通常、安藤さんは「ポータルサイト」と「賃貸仲介会社」の2つで、需要や家賃相場を確認するようにしているという。まず、賃貸ポータルサイトを使ってこの物件の近隣エリアの1LDKを検索してみることに。
■安藤さんがポータルサイトで入力した条件
・面積:45平米
・築年数:25年以内
すると、類似の物件では家賃7万2000円に設定されているものもあり、安藤さんは「そう考えると、この物件の5万円台という家賃設定は割安ですね」と指摘。「駐車場が付いていないことで客付けがしづらく、家賃を下げているのかもしれません。あるいは、売主さんと管理会社との関係性が良くないなどの問題もあるのかもしれないですね」と話した。
また、賃貸仲介会社に尋ねることで、実際のエリアの賃貸需要が深く理解できるほか、この物件の状況をより詳しく知ることができる可能性も高まる。「例えばリフォームが不十分だとか、周りに嫌悪施設ができたとか、さらには、売主さんと管理会社の関係性についても教えてくれるかもしれません」。安藤さんも、いつも複数の仲介会社にヒアリングするようにしているという。
「鉄骨造で築22年となると、現況の利回り7.4%でもCFが出にくいですね」と話していた安藤さんだが、家賃下落の傾向があることから、「退去が出た場合、将来的にはこのレントロール通りにいかない可能性がある」とも指摘する。
試しに直近で入居した家賃設定で収入を計算し直すと、年間家賃収入は約525万円と、現況の家賃からさらに40万円ほど下がることに。「購入するなら指値を入れないといけない物件」だと判断した。
一方、この資料からは、ポジティブな要因も読み取れるという。たとえば、この物件は1部屋あたりの面積が57平米と広めだった。安藤さんは、「301号室、302号室の1LDKを2LDKに変更することもできそうです」と話す。
安藤さんの見立てでは、床や天井もあわせてリフォームするとしても、20万~30万円くらいあれば十分足りそうだという。「家賃を上げるプランを確信を持って思い描ければ、指値をせずに購入するのもアリかもしれません」とした。
◯この物件、買う? 買わない?
ここまでさまざまな視点で資料を見てきたこちらの物件だが、安藤さんはどう判断するのか。
「ただCFを取るんだ、という考え方で見ると、この購入価格では利回りが厳しいですね」としながらも、検討に値するポイントがいくつかあるという。
まず注目したいのは、物件の立地だ。安藤さんによれば、このエリアの土地は坪単価60〜65万円で取引されているという。物件の土地面積は131坪なので、もし宅地として売ったとすると、単純計算で7860万円もの値がつくことになる。売買価格は7500万円なため、土地値で考えると割安といえるのだ。
「土地として販売する場合は、形が重要です。ここがきっちりとした整形地で、宅地として売る出口の見通しが立てられれば、この価格でも買いじゃないかと思うんですよね」と、安藤さんも期待感をにじませた。
さらには、「減価償却を多く取って節税に使うという方法もある」と安藤さん。売主の属性によって交渉に応じてもらえる確率は変わるというが、建物の比率を上げて減価償却を多く取れれば、節税効果を狙うこともできる。「専門的な話なので税理士の先生と検討することになりそうですが、さらにお値打ちに購入できる可能性は含んでいます」と話した。
続いて、指値の可能性も考慮すべきポイントだと話す。どれくらい指値が効くのかは売主しかわからないだろう、と思いがちだが、そこで諦めずに仲介会社に聞いてみるのも手だとした。
「具体的な交渉材料としては、この物件の積算価格が6900万であることが使えます」という。「金融機関の考え方としても、評価と乖離のある物件への融資は厳しくなる。だから、せめて積算と同じレベルの価格帯で取得したいんです、というように仲介会社に話してみるんです。買付証明書に書いておくのもいいですね」
別の材料として、収益価格による交渉も有効だと安藤さんは見ている。レントロールを引き直してみると、想定家賃収入が月々2万円ほど少なくなる。これを理由に交渉することができるというのだ。たとえば、引き直し後の収支で利回り8%を達成しようとすると、物件は約6600万円で取得する必要がある。安藤さんも、「この価格なら積算価格を下回って、いい感じですね」とした。
だが、6600万円で購入するとなると、ほぼ1000万円の指値をすることになる。「金額が大きいので、こうした提案に不安を覚える方もいるかもしれません。ただ、金額が大きい・小さいはこちらの感覚にすぎないですよね」と安藤さん。明確な根拠が用意できるのであれば、買い取りの希望価格を思い切ってぶつけてみてもよいかもしれないと話す。
◯金融機関へのプレゼンは?
築22年の鉄骨造であるため、この物件の残存年数は12年だ。そのため、通常であれば、金融機関は「12年の融資でCFが回るか」を見てくるという。しかし、レントロールを引き直した際に確認したように、この条件では到底収支が合わない。こうした中、安藤さんならどのような交渉戦略を取るのか。
それは、「土地にスポットを当ててみる」ことだという。先ほど検討したように、土地の実勢価格で計算すると、この物件は買っただけで360万円の含み益が出ている状態だ。この点をアピールし、「土地を買うため、という視点で、20年~25年くらいで融資を組んでいただけませんか?」と交渉することができそうだという。
ただ、土地として売る場合の物件解体費用について質問される可能性があるため、見積もりを出すなどして準備をしておく必要があると指摘した。
このように交渉すれば、法定耐用年数を超えても融資が可能なアパートローンや、不動産の事業資金としてのプロパーローンを組める可能性があるという。「土地値で見ても含み資産がありますよ、と伝えられれば通りやすいのかなと思います」と解説した。
◇
ここまで、実際の資料を見ながら、安藤さんの「物件資料チェックの極意」を学んできた。立地や築年数から出口戦略を見据え、間取りの検討で物件の競争力を高める。そして、より効果的な現地調査ができるよう、確認すべきポイントを洗い出す。金融機関へのアピールポイントの明確化も忘れない。
これらをふまえて、残りの2物件の資料もチェックしてみてほしい。まずは自分で検討してから、動画で「答え合わせ」をしてみよう。安藤さんが「一番買いたい。資料を見た段階で買い付けを入れると思う」と話した物件もあるが、皆さんはどのように判断するだろうか。
※2棟目・3棟目の物件資料チェックは動画にて!
(楽待新聞編集部)
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