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今年7月以降、再び猛威を振るい始めた新型コロナウイルス。2年以上にわたって続くコロナの影響で、世の中を取り巻く状況はめまぐるしく変化してきた。

不動産業界に目を向けると、「新築戸建て住宅」の販売状況は、社会情勢を反映した特徴的な動きをたどっていることが分かる。そこで今回は、その動きを確認するとともに、要因を紐解いてみたい。

コロナ下で住宅の売れ行きは

まずは、経済産業省の「第3次産業活動指数」を見ていきたい。この指数は経済産業省が毎月発表しているもので、小売業やサービス業などの第3次産業の活動を数値化したもの。不動産業に関する指数も含まれる。

以下のグラフは「新築戸建住宅売買業」の指数について、その推移をまとめたものだ。不動産流通機構による「月例マーケットウォッチ」の新築戸建て成約件数をもとに作成されている。基準年の年平均を「100」として月次で指数化している。

「経済産業省第3次産業活動指数」より著者作成。基準年である2015年を100として指数化

最初の緊急事態宣言が出された2020年4~5月に指数は急落し、大きな影響を受けているが、その後回復している。2020年6月からの急激な指数回復は、緊急事態宣言による外出自粛や行動制限などによる「ペントアップ(鬱積された)需要」が、宣言解除後に現れたものと考えられる。

その後、指数は2020年8月に172.6まで上昇。テレワークが推進されたことにより、戸建住宅のニーズが高まったことが背景にあると見られる。

2021年に入ると、1月から9月の間に緊急事態の宣言と解除が繰り返し行われた。また、まん延防止等重点措置が実施されると指数は失速し、7月にはついに100を割り込み、95.4まで下落した。

2021年の緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除された10月以降も指数は下落を続け、22年1月には84.3にまで下落している。この頃になると、徐々に新型コロナ前の生活に戻り、テレワークから出社へと生活が変化してきたことなどにより、新築戸建て住宅へのニーズが薄れていったことがあると思われる。

着工件数は逆の傾向

一方、住宅着工件数はまったく違った動きを見せている。以下、国土交通省の住宅着工統計を見ていただきたい。

「国土交通省住宅着工統計」より著者作成

2020年4月の緊急事態宣言を受け、分譲一戸建ての着工件数は急激に減少している。新築戸建住宅売買業指数がピークを付けた20年8月には、着工件数はボトムとなり、前年同月比で22.7%減少している。

つまり、新築戸建住宅売買業指数が大幅に上昇した背景には、分譲一戸建ての供給が減少する一方で、需要が拡大したことがあった。ところが着工件数が回復し、前年同月比を大きく上回る件数が着工された2021年5月以降、新築戸建て住宅販売指数は低下している。

この新築戸建て住宅販売指数の低下について、徐々に新型コロナ前の生活に戻り、テレワークから出社へと生活が変化してきたことなどにより、新築戸建て住宅へのニーズが薄れていったと説明したが、もう1つの要因がある。

それは、建設費の上昇とそれに伴う価格上昇だ。建設工事費用の相場を示す指標である、国土交通省の「建設工事費デフレーター」を見ると、21年1月からデフレーターがジリジリと上昇を開始し、同年6月から大きく上昇し始めているのがわかる。

「国土交通省建設工事費デフレーター」より著者作成。基準年である2015年を100として指数化

もちろん、非木造住宅の建設費も上昇しているが、顕著な上昇を示しているのは、木造住宅だ。最初の緊急事態宣言が出されていた2020年5月、木造住宅のデフレーターは105.4だったが、22年3月には121.2にまで上昇した。2年間で約15%も上昇したことになる。

この背景には、米国から始まり世界に波及した建築用木材の受給ひっ迫「ウッドショック」がある。ウッドショックについては、以下の参考記事をご覧いただきたい。

<参考記事>
米国インフレ抑制で利上げへ、日本の不動産に与える影響は
「ウッドショック」だけじゃない、建築資材が軒並み高騰の背景

日本銀行の企業物価指数を見ると、木材・木製品の国内企業物価指数は20年9月に98.7だったが、21年6月からの急激な上昇を受け、直近の22年6月には約79%上昇し177.0となっている。

より上昇が激しいのが木材・木製品の輸入物価指数だ。2020年10月に97.1だった指数は、22年6月には205.3と2倍以上に上昇した。

「日本銀行企業物価指数」より著者作成。基準年である2020年を100として指数化

この企業物価指数の動きは、建設工事費デフレーターとリンクしており、木材・木製品価格の上昇が建設費の上昇に結び付いていることは明らかだと言えよう。

コロナ下の新築住宅販売動向は、テレワークの普及に伴うニーズ拡大などもあってか、感染拡大当初は販売数が増加した。一方、人々が徐々にコロナ以前の生活を取り戻し始めると、販売は減少に転じた。

背景としては、先述したウッドショックによる住宅価格の値上がりのほか、2022年度の住宅ローン減税控除率が引き下げられたことなども影響していると思われる。冒頭の「第3次産業活動指数」のところで紹介した新築戸建住宅売買業が22年1月以降に低下したのは、この影響もあると見られる。

新築戸建住宅売買業は、足元では徐々に回復しており、22年4月には100を超えた。だが、企業物価指数の木材・木製品は上昇を続けており、建設工事費デフレーターも高止まりしている。再び猛威を振るい始めた新型コロナの感染拡大の中にあって、新築戸建て住宅販売が順調に回復を続けるのかは、まだ不透明な状況だ。

(鷲尾香一)