「新築一棟RCマンション」に絞って投資をする、「新築RC不動産」さん。これまで6棟を新築し、総投資額9億5300万円、年間家賃収入は5960万円の投資家だ。会社員として働きながら、資産形成のために不動産投資を始めたと話す。
そんな新築RC不動産さんが独自の投資方針に行き着いたのは、「会社員でありながら、不動産投資で資産を形成するための勝ち筋」を探した結果だったという。 「新築一棟RCマンション」に1棟目からこだわったのには、どんな理由があったのか。
きっかけは「会社員を辞めたい」
大学卒業後、第一志望だった大手企業に就職することができた新築RC不動産さん。だが仕事は想像以上に激務。朝から晩まで働き、その疲れから土曜日は寝て過ごし、日曜日の夜には「また月曜日が始まるのか」落ち込む毎日だった。60歳までずっとこうなのか、この人生は本当に理想なのか…と悩む中で、とうとう「会社員を辞めたい」と思うようになったと話す。
幼い頃から、自分の人生を自分でコントロールしたい、自分にしかできないことに挑戦してみたいという願望を持っていた。会社に縛られない自由な生活を手に入れたいという思いが強まり、資産形成の必要性を意識するようになった。
不動産投資に出合ったのは、資産形成の方法を模索してさまざまな人の話を聞いていたときのことだ。それまで出会った中で「この人は尊敬できる」と感じた人物が不動産投資で成功していることを知り、興味を持ったという。
ところが、勉強しようと参加したセミナーでは、30人以上の参加者のうち、自分と同じ会社員は3人だけ。 ほかは経営者や資産家ばかりで、会社員が資産形成として不動産投資を行うケースは一般的ではないように思えたという。
しかし、この事実にかえって背中を押されたと新築RC不動産さんは話す。「もし、会社員が不動産投資をするのが当たり前な世界に暮らしていたら、自分は不動産投資家にはならなかったと思います。普通そんなことやらないじゃん、という部分にこそやる気が出るんです」。そうして、不動産投資家への一歩を踏み出した。
言葉を覚え、「実践」で学ぶ
現在の総投資額は約9億5000万円ほどになるが、不動産投資に興味を持った時点ではもちろん全くの素人。どのようにして知識をつけ、投資をスタートしたのだろうか。
「不動産投資を行うには、まずは不動産投資の世界の言葉を覚えることが大切だと考えた」という新築RC不動産さん。そのため、中古の不動産投資関連書籍を50冊買って読むことから勉強を始めた。
ある程度言葉を理解したら、次は不動産会社や金融機関と話すことに重きを置いた。実際に話してみることで、足りない部分を自覚することができたと語る。また、本で知識は学べても、業界特有の相場観を養うことは難しかったといい、希望物件の伝え方ひとつとっても、経験を通して知ることは多かった。
「何もわからないまま『いい物件がほしいです!』と言ってみたら相手をしてもらえず、エリアと利回りで答えなければいけなかったんだなと気づいて。次は『23区で利回り10%以上の築浅物件がいいです!』と言ってみたら、また相手をしてもらえませんでした」と振り返る。
こうした経験を経て、希望の数値に現実味があるかを考えるようになる。「『利回りは6%で』と伝えたところ、『でしたら、こうした物件をご紹介できますよ』と初めて話が進みました」
「究極の築浅」を目指して
会社員として働きながら不動産投資をするとなると、時間をはじめ、活動にさまざまな制約がかかる。そのような中で資産を拡大しようとたどり着いたのが、「新築一棟RCマンションに投資する」というやり方だ。
RC造の一棟ものは価格が張り、さらに新築ともなれば考慮すべきポイントも格段に増える。初心者にはレベルが高いようにも思えるが、なぜ「新築一棟RCマンション」にこだわるようになったのだろうか。
メリットは、「競合の少なさと出口の広さ」だったという。現在は新築一棟RC物件に投資する人も増えてきたというが、当初はこうした物件を狙う人は少なかった。新築RC不動産さん自身も、はじめから「新築一棟RCマンション」を狙っていたわけではないと語る。
物件探しを始めた当初は、「築浅RC物件」を軸にしていた。耐用年数が残っていたほうが売却しやすいと、セミナーで勧められたためだ。しかし、いくらポータルサイトを探してもそのような物件は掲載されていない。あまりに見つからないので、「勧められはしたものの、築浅RCなんて本当に売っているのか?」と疑問が芽生えたという。
実態を確かめようと、築浅RC物件を購入した人に直撃してみた。すると、「ポータルサイトに情報が掲載された15分後には問い合わせを入れ、スピード勝負で物件を抑えた」との答えが。「それでは、時間の縛りがある会社員が同じ戦い方をするのは無理だ」と実感し、別の方法を探すことになった。
次に目をつけたのが「新築物件」。四苦八苦して築浅物件を探すうちに、「新築物件も、築年数0の『究極の築浅』と考えることができるのでは?」と思い立ったのだ。当初は「自分でも買えそうなライン」として新築木造物件の購入を目指す。
ところが、ある時、不動産会社から偶然新築のRC物件を紹介されたことがあったという。当時は「自分には新築RC物件なんて買えない」と思いこんでいたため、非常に驚いたと話す。
「物件資料が間違っているのだと思って、『木造の間違いですよね?』と指摘の電話をしてしまいました」。だが、情報は間違いではなく、そこで初めて自分でもRC物件が買えると知った。そこで、その後「新築RC物件」に照準を合わせることとなった。
はじめから「一棟もの」に投資したワケ
試行錯誤しながら狙う物件を変えてきた新築RC不動産さんだが、変わらず持っていたというもう1つの基準が「一棟ものであること」だ。土地が手に入る点と、自分でコントロールできる範囲が多い点に惹かれたと話す。
一棟ものであれば、購入した物件の土地はすべて自分が所有できる。また、デザインや設備を工夫して、自ら物件をプロデュースすることが可能だ。
一方、区分物件の場合は、自分が購入した部屋の割合に応じて部分的に土地を持つ形となる。加えて、決まった額の修繕積立金を支払う必要があるなどの制限がかかるため、「自分の物件のことは自分で決めたい」という気持ちが強い自分には合わない物件だと考えたのだ。
ただ、区分マンションのほうが価格が低めで、初心者が参入しやすい印象があることも事実だ。実際、「1棟目から一棟マンション希望」と仲介担当者に伝えるたびに何度も驚かれたという。
担当者から「一棟ものだと1億円超えの借金をすることになるが、怖くないのか。3000万円程度の区分から始めたほうが安心できるのではないか」と尋ねられたこともある。
しかし、「大事なのは借金の額ではなく、利益が出るように資金を動かす見通しがついているかどうか」だと考えていたため、担当者の考えには共感できなかった。
「個人的には、借金への恐怖感が額によって変わるようではお金との向き合い方が甘いと思っていました。徹底的に考え抜いて決めたことだったので、不安はありませんでした」 と振り返る。
こうして新築RC不動産さんは、「新築一棟RCマンション」を軸に投資を拡大していくこととなる。
「いい物件を買う方法は3つあると思っています。まず、とにかくいい物件をスピード勝負で買う。次に、売主と交渉して希望の条件に当てはまる状態にした物件を買う。そして、普通の人があまりやりたがらない難しい物件に挑戦する方法です。新築一棟RCマンションは、3つ目の方法に当てはまるのかなと思います」
入居付けのため工夫をこらす
具体的には、どのような基準で物件を購入していたのか。
■新築RC不動産さんの購入基準
エリア:北区、江戸川区、足立区を除く東京23区
種別:RC造、重量鉄骨造も検討
駅徒歩:8分以内
収支:毎月の最終的な利益が家賃収入の30%(現在は25%)以上
投資エリアは、賃料相場の高い東京23区に絞っているという。北区、江戸川区、足立区は水害リスクを考慮して避ける判断だ。
駅からの距離が徒歩10分を超えると、自転車置き場などを作る必要が出てくる。建物に使える土地が減り、作れる部屋数が想定より少なくなってしまう場合があるのだとか。「そうなった場合にCFが悪化するリスクがあるので、駅徒歩8分以内の場所を選ぶようにしています」と話した。
毎月の収支については、融資の返済、税金、諸経費を差し引いた最終的な利益が家賃収入の30%以上となることを基準に定めた。
23区で新築一棟RCマンションを建てるとしたら、もっとも小さいもので総戸数8戸程度のサイズになる。入退去のタイミングで2戸が空室になったとすると入居率は75%になるが、それでも収支がマイナスにならないようにと設定したという。
コロナ下であることや、投資が軌道に乗ってきた点などを踏まえ、現在は「最終的な利益が家賃収入の25%以上」を基準にしている。
物件のターゲットは「30代以上の単身女性」としている。単身向け物件のほうが収益を取りやすいことに加え、入居者のパイを広げることが狙いだ。近年単身世帯が増えていることをふまえてターゲットを決めたという。
また、「女性が住みたいと思ってもらえるマンションであれば、男性にも住んでもらえる」とも考えた。現状、運営している物件には半分程度は男性が入居しているという。
ターゲットに適した物件にするために、風呂とトイレを別にする、インターホンを必ずつけるなど、設備面でも工夫してきたという。設備によって入居率が変わるのか、実際に検証を行ったことも。
例えば、同じ物件内に「独立洗面台があるが、洗濯機が居住スペースにある部屋」と「独立洗面台はないが、空いたスペースに洗濯機が収まる部屋」を作ったそうだ。
「女性の友人20人に話を聞いてみたのですが、独立洗面台で化粧をしている人は少ないようでした。なくてもいいのかな? と思い、試しました」という。この検証では入居率は変わらなかったとし、「独立洗面台は高いので、オーナー側としても助かりました」と話した。
間取りについても、試行錯誤を繰り返してきた。35平米程度の1LDKを作っていた物件では、「広い部屋があってもいいだろうと思って、1部屋だけワンルームにしてみました。でも、これが全然埋まらないんです」と語る。
物件は最終的には家賃を下げるつもりだというが、「ニッチな需要を狙って待つ」という戦略もある。別の物件に作った30畳の大きなワンルームにYouTuberが入居した例があるといい、ニッチな需要にハマると退去しづらいのがメリットだ。
コロナ禍の影響で以前より入居が付きにくくなったと感じているというが、できる部分でさまざまなパターンを試しながら工夫を続けている。
苦労も多い新築物件
新築物件に投資するためには、中古物件にはない手順を踏む必要がある。新築RC不動産さんの場合、土地だけを扱う会社を探し、話を聞きに行くところから始めるという。
土地の情報を入手したら、どんな物件が建てられるかをシミュレーション。家賃なども計算し、具体的に収支を検討する。金融機関などに提出するためにラフプランは丸ごと専門家に依頼して作成してもらうが、「全て丸投げするのはよくない」という。
自分の中で間取りや部屋数を想定し、どのような物件なら利益が出るのか基準を作っておく必要がある。ラフプランが基準に満たない場合は購入を辞めるなど、適切かつ素早い判断ができる。
新築物件だからこそ注意したいポイントもある。建物を新築する場合、地盤の状態は無視できない。
地盤が弱い場所では、建物の下に打ち込む杭を長くするなどの補強が必要となる。しかしこれには莫大な費用がかかり、「杭が10m伸びるごとに1000万円単位で金額が上がる」と新築RC不動産さん。
川崎市の土地に8階建てのマンションを建てようとした際、「ここは地盤がゆるすぎるので、マンションの高さよりも長い杭を打ち込む必要がある」と言われて諦めた経験があるという。以来、「どれくらいの杭が必要なのか」という視点で地盤を見ておくようにしていると話した。
新築物件ならではのトラブルにも、何度も見舞われているという。1棟目の物件では、大雪で外壁塗装が延期になり、予定通りに工事が終わらなかった。
23区にある、総戸数9戸のRC物件での出来事だ。完成時には6.02%の表面利回りを見込んでいた。しかし、工事の延期を受けて満室となるはずだった入居予定は全てキャンセルに。全空室のまま返済だけが始まってしまうのではと不安に苛まれたそうだ。奇跡的に法人の一括契約が入って助かったと話すが、新築物件のリスクを肌身に感じたと話す。
独自の手順や知識が必要となる新築投資。新築RC不動産さんは、信頼できる人に「任せる」ことで会社員としての仕事と投資を両立させてきた。
たとえば融資ひとつとっても、日中は仕事をしていて銀行に行くことができないという問題点がある。そんな中でフルローンを引くために、「自分の代わりに銀行と話してくれること」を条件に仲介会社を探したそうだ。
信頼の置ける仲介会社に自分の属性情報などをすべて渡しておき、懇意にしている金融機関に紹介してもらうことで融資を組むことができた。管理も同様で、信頼できる管理会社2社に委託しているという。
「大変なこともたくさんあって、死んでしまうかもしれないと思うほどの精神的ストレスを受けたことも何度もあります。でも、私はこの戦略に後悔はしていません。苦労も含めて経験だと思っています」
融資獲得のために128行の金融機関に突撃
新築RC不動産さんのように、会社員として働きながら不動産投資で資産形成を始めるというケースが近年増えてきた。そうした状況で、実績がない中で融資の獲得をするのが難しいと感じている人も多い。
新築RC不動産さんも、融資の獲得には苦労してきた。スルガショックも経験し、「一番厳しいときには、融資してくれる1行を見つけるために128行の金融機関に電話しました」と当時を振り返った。
この経験を踏まえ、「どんな時でも不動産にお金を貸したい銀行は絶対にあるはず」と考えるようになり、根気よく探す重要性を実感しているという。
金融機関と交渉する際は、「どういう融資条件ならやる、という基準を明確にし、根拠を持って打診すること」が大切だと話す。低い金利で長い期間で借りたい、と要望だけ伝えても、担当者は稟議をあげることができない。「こういう物件を考えているから、この基準で借りたい」とロジックで伝えることが有効となる。
より説得力を持って伝えるためには、事業計画書の作り込みも必要だ。新築RC不動産さんの場合、計画はロングスパンで考え、「賃貸業としていつまでに・どのように・どれくらいの収益をあげようとしているのか」がわかるように作るという。例として、「今後物件を買い増したいのか、1棟を強力にしたいのか」という方針を提示することができると話す。
こうしてできた事業計画書を、「こういう物件を考えているから、この基準で借りたい」という希望の裏付けとして提示するのだ。
「会社員でも、投資家でもなく、不動産賃貸業の経営者として経営の展望を話します。『普通の会社員とはなにか違う』『いまは実績がなくても、こいつと付き合っておけば今後いいことがあるかもしれない』と思ってもらえるかどうかが大事です」
「一番大切な資産は、私自身」
自身のこれまでを振り返り、不動産投資について具体的に勉強する前に、コミュニケーションやタイムマネジメントのスキルを磨いたり、お金の勉強をしておいたりすることが必須だと感じていると話す。
不動産投資のメリットは「融資条件や物件価格を交渉によって決定できること」だと新築RC不動産さん。投資ノウハウ以外の勉強をしておいたことが、メリットを生かすために役立ったと実感している。「一番大切な資産は、私自身だと考えています」
今後は売却も考えていきたいと話す新築RC不動産さんの目標は、1棟目のRCマンションで5000万円のキャピタルゲインを得ること。全員が同じことができるというわけではない、とした上で、「フルローンで購入したので、自己資金は1円も使っていません。『自分のお金を使わずに5000万円利益が出せるくらい、不動産投資には夢がある』と言えたら、ちょっと面白そうじゃないですか?」と話した。
最終的な目標は「資産30億を形成する資産家」だというが、その目的は「幸せになること」だ。やりたいことができる属性と生活基盤を確立し、会社員を辞めて自由に生きていきたいという。「夢中になれることや、大切な人との時間を、仕事を理由に諦めたくないんです」と笑った。
(楽待新聞編集部)
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