今年1月、政府の地震調査委員会は、「南海トラフ巨大地震」が40年以内に90%の確率で起こるという予測を発表した。被害総額は、東日本大震災の10倍にのぼると推定される。

南海トラフ地震だけでなく、都心で起こる「首都直下地震」も発生が危惧されている。そうした巨大地震に見舞われれば、数十万棟の建物が倒壊する恐れがあり、物件を所有する投資家にとっても他人事ではない。

来る大地震に備え、正しい知識を身につけ、できうる限りの対策を取っておきたい。

そこで今回は、地震予知の専門家・内山義英さんに話を聞いた。内山さんは、大手ゼネコンで高層ビルの免震システム「超高層免震」の技術を開発・実用化した第一人者で、現在は地震予知分野の最前線で研究を進めている。

「南海トラフ」と「首都直下型」の違い

―日本は地震大国と言われ、実際、頻繁に地震が発生しています。そもそも、地震はどのようにして起きるのでしょうか?

地震の原因となるのは、地球の表層を覆う固い「プレート」です。日本の周辺には、異なる4つのプレートがこのように入り交じっています。

日本列島のプレート構造(出典:気象庁ホームページ「地震発生のしくみ」)

プレートはパズルのように組み合わさっているわけではなく、海側のプレートが陸側のプレートの下に、毎年同じスピードで少しずつ潜り込んでいます。それによって陸側のプレートにひずみがたまっていき、エネルギーが限界に達すると跳ね上がり、その衝撃で地震が発生します。

詳しくは後ほどご説明しますが、これが地震が起こる大元の原理です。

地震に関する報道などでは「南海トラフ地震」と並び、「首都直下地震」という言葉もよく耳にします

どちらも巨大地震であることに変わりはないのですが、両者は、地震が発生するメカニズムが異なります。メカニズムの違いによって、緊急地震速報が発せられるまでのスピードや、被害の特徴に違いが出ます。

地震が起きる原理は先ほどお話したとおりですが、地震発生のメカニズムの違いにより、地震は2つに分類されます。

1つは「海溝型地震」。南海トラフ地震は、この海溝型地震に当たります。静岡県の駿河湾から九州の日向灘にかけては、海側のプレートが日本列島のある陸側のプレートの下に沈み込み、溝のような地形になっています。この溝が「南海トラフ」です。この境界にたまったひずみが限界に達すると、プレートが跳ね上がり、地震が起こります。発生すれば、西日本の太平洋側の広い地域で大きな被害が出ます。

海側のプレートが、陸側のプレートの下に沈み込んでいる。陸側のプレートにひずみがたまり、限界が来ると跳ね上がり、その衝撃で地震が起こる(PHOTO : barks / PIXTA)

2011年の東日本大震災も海溝型でした。太平洋プレートと北米プレートの境界にある日本海溝で発生した地震です。海溝型はこのあとご説明する「内陸型」に比べてエネルギーが桁違いに大きく、東日本大震災でも大津波を引き起こしました。

海溝型の特徴は、「長周期地震動」と呼ばれる、大きくゆっくりとした揺れです。これは、高層ビルなどの高い建物や橋、ガソリンタンクなどのインフラ関係に大きな被害をもたらします。こうした建物は、地震が発生したときにゆっくり大きく揺れるという特徴があるからです。建物の周期と地震の周期が重なることで、「共振現象」が発生し、揺れが増幅して被害が拡大します。

―もう1つの「首都直下地震」はどのような地震でしょうか

首都直下地震は「内陸型地震」に分類されます。海のプレートの動きが陸のプレートを圧迫し、内陸部の岩盤にも歪みを生じさせます。歪みが大きくなると、陸のプレートの内部やプレートの境界で岩盤が破壊され、衝撃が起こる。これによって局地的な激震を引き起こすのが、内陸型地震です。

この内陸型地震が都心の真下で起こった場合、「首都直下地震」となります。1995年の阪神淡路大震災や、2004年の新潟県中越地震、2016年の熊本地震も内陸型地震でした。阪神淡路大震災と熊本地震は都市部で発生したため、建物の倒壊、火災によって数千人の死者が出ました。

内陸型の特徴は、「短周期地震動」と呼ばれる短く激しい揺れです。海溝型の長周期地震動とは違い、高さの低い建物が揺れる周期と一致するため、戸建てや中低層のビルなどで共振現象が起き、大きな被害をもたらします。

今後想定されている首都直下地震の場所とメカニズムも確認しておきましょう。政府が想定する首都直下地震の中で、最大規模の被害が予測されているのが「都心南部直下地震」です。これは関東平野の地中で起こります。

関東平野の地中のプレート図。北米プレートの下にフィリピン海プレートがあり、その下に海側の太平洋プレートが沈み込んでいる(出典:中央防災会議 首都直下地震の被害想定と対策について 最終報告 別添資料4)

関東平野の場合、一番上に北米プレート、その下にフィリピン海プレート、さらに下に太平洋プレートが潜り込む3層構造になっています。太平洋プレートとフィリピン海プレートの動きによってそれぞれのプレートとプレート境界がひずみ、破壊が生じることで地震が起こります。このプレート内部の亀裂やプレート同士の境界のことをまとめて「活断層」と呼んでいます。

関東平野ではプレートが3層構造ですので、画像にある(1)から(6)までの6パターンで破壊が起こります。南海トラフなどの通常のトラフは2層構造で、(1)から(3)までの3パターンで破壊が起こるため、関東平野では通常のトラフに比べておよそ2倍の地震リスクがあります。

日本国内には約2000の活断層があると言われており、半分ほどは場所がわかっていると言われています。ただ、確認できていないものも多くあるため、例えば今建っている建物の下にも活断層がある可能性があるんです。

内陸型地震に備える場合、活断層がどこにあるかを知ることが重要になりそうです。活断層の場所はどのように調査するのでしょうか

空中写真で地形を確認する「地形調査」、過去の地震でできた岩盤の食い違いを調べる「トレンチ調査」などがあります。しかし、トレンチ調査の場合は、特に関東平野では調査を進めるのが非常に困難です。

というのも、関東平野の直下には、箱根火山や富士山の火山活動が盛んだったときにできた火山灰の地層「関東ローム層」があるからです。トレンチ調査では、この関東ローム層の下の地層を調べる必要がありますが、関東ローム層は3000メートルほどの厚みがあるため、活断層を確認できる岩盤まで掘り進めるのが難しいんです。

それでも近年の調査によって、関東平野の地下にはおよそ20本の隠れた活断層があることが判明しています。今後のより詳細な活断層調査が待たれるところです。

南海トラフ地震と首都直下地震では、それぞれどんな被害が想定されますか?

南海トラフ地震の場合、政府の想定では、沿岸部には最大で30メートルを超える巨大津波が押し寄せるとしています。238万棟の建物が倒壊、焼失し、死者はおよそ32万人におよぶとされます。予想される被害総額は220兆円です。

一方、首都直下地震については、今年5月、東京都が10年ぶりに被害想定を見直しました。先ほどの「都心南部直下地震」でマグニチュード7.3を想定した場合、19万4000棟の建物が倒壊、焼失し、死者は6100人ほどと言われます。被害総額は100兆円。どちらも国家予算規模です。

ただ、この予測が正しいとは限りません。地震の被害を予想するときは、同じプレートで起きた過去の地震のマグニチュードを基に予測しますが、実際にはマグニチュード0.5ほどばらつきが出ることがあります。その場合、建物の倒壊数や死者数は大きく変わります。