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近年、メディアなどで何かと話題に上がる「メタバース」。メタバース上にも不動産の概念があり、投資家らの間で盛んに取引され始めているという。今回はそんな「メタバース不動産」の現在について、仮想通貨をはじめさまざまな投資分野に精通する、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の元FXトレーダー・中島翔氏が解説する。

「メタバース(仮想空間)」上での不動産をやりとりするという、新たな不動産投資の形態が生まれ始めています。実態の存在しない、バーチャル上の世界の土地が、500万ドルなど高額で売り買いされているのです。

最近、このようなニュースを目にすることが増えたという方は多いと思います。一方で、メタバース上で不動産を売り買いするというのは一体どのようなことなのか、よく分からないという方もいるのではないでしょうか。本記事では、「メタバース上での不動産投資」がどのようなものなのか、改めて基本を解説したいと思います。

「メタバース」の基本を確認

メタバースは、一言で言うと「インターネット上の仮想空間」のことです。将来的には、メタバースが現在のSNSに取って代わる存在になると考えられています。これをごく簡単に言い換えると「バーチャル上の世界で、人とのやりとりや経済活動が行えるサービスの総称」といったところでしょう。

2000年前半には似たようなサービスとして「セカンドライフ」が話題となりました。セカンドライフについては、その名前を聞いたことがある方もいるかもしれません。

このメタバースの世界を利用して、現在、世界中の大手企業がサービス展開を行ったり、今後サービスの展開を検討したりしていることは、みなさんもご存知かと思います。

さて、最近では、そのメタバース上で不動産売買が行われている、というようなニュースを目にすることも増えてきました。取引金額も年々大きくなってきている、メタバース上の不動産売買とは、どのようなものなのでしょうか。そもそも、「メタバース上の不動産」はどこに存在しているのでしょうか?

現在、メタバースを利用したさまざまなサービスが存在しています。代表的なものとして、「Decentland」や「Sandbox」などがあります。Decentlandは月間のアクティブユーザー数が約30万人と言われており、1日のアクティブユーザー数も1万人超の大きな仮想世界です。

「Sandbox」や「Decentland」は現実世界の仮想版のゲームのようなものです。その世界ではビルを建てたり、ピクセルアートを作成したり、アバターを作成したり、世界を探索したり、物を売り買いしたりと遊び方は多種多様です。

メタバース上の不動産とは、これらのサービスの中に存在している不動産や土地ということになります。さらに、そのサービスの中で供給される土地や建物を売買することが、「メタバース上の不動産の売買」を意味しています。

「メタバースで不動産を所有する」とは

現実世界の不動産を購入した場合、登記手続きなどさまざまな書類のやりとりを経て、晴れて所有者となることができます。また、土地は現実に存在するものですから、それを「所有する」ということがどんなことなのか、イメージしやすいと思います。

では、メタバース上の土地を「所有する」とはどういうことなのでしょうか。

ここで役に立つのが、ブロックチェーンの技術で提供されている「NFT」というものです。NFTは「non-fungible token」の略であり、「代替不可能なトークン」という意味です。ごく簡単に言うと、NFTとは、「誰でもデジタル上の資産の所有者を確認できるもの」です。そのため、仮想空間でも土地の所有者が判別できるようになっています。

現在、メタバースの不動産売買ではSandboxの土地が2021年11月に5億円近い値段で、Decentlandでも3億円近い価格で取引が成立するなど、仮想空間の土地が高額で取引される例が増えています。

不動産の活用方法も広がりはじめています。たとえばSandboxでは、現実の不動産のように、メタバース上に所有している不動産を賃貸で提供したり、店舗運営を行ったりすることも可能です。また、Decentraland内では、カナダの「TerraZero Technologies社」がメタバース住宅ローンの提供を始めました。

現実の不動産では、都心の一等地の人気が高く、高額で売買されます。一方メタバース上では、通常の不動産のように駅近や移動距離、利便性等が価格に反映されません。メタバース上の不動産の価格を左右するのは、「ユーザー数の集まりやすさ」です。

現在、さまざまな仮想世界の不動産が取引されています。価値が上昇しやすいのは、より多くのユーザー数が集まりやすいと想定される世界の土地です。

現時点でメタバース上の不動産を購入しているのは、投機目的で転売を行う人がほとんどです。あるいは、大手企業が広告や話題性のために購入して建物を作る場合もあります。一方で、現実の不動産のように賃料収入を得る仕組みもできており、今後仮想世界での不動産ファンドができるといった可能性も考えられるでしょう。

市場規模は大幅増加見込み

では、実際にどれくらいのメタバース不動産が取引されているのでしょうか。先ほど例にあげたSandboxのレポートを見てみると、直近の取引高は低下してきているようでした。ピークだった2021 年第4四半期と比べ、2022年第2四半期の取引高は80%程度だった模様です。

メタバース不動産の販売ページ。この不動産は、仮想通貨のイーサリアム(ETH)で取引されています。※1ETH=250,000円(2022年8月13日現在)

一方で、海外市場を中心に調査を行う調査会社のレポートによると、メタバース不動産の市場規模は2022年から2026年にかけて53億7000万ドルの増加となると見込まれています。

予測の背景としては、仮想世界がより高頻度で利用されるようになると考えられていることがあげられます。現実世界では離れた場所に住んでいる人たちも、仮想世界では同じ空間で過ごすことが可能です。時間をかけて移動をしなくても、多くの人と共に仕事や日常生活を営むことができるのです。

参入企業も増加すると期待されており、現にマイクロソフト社、Meta(Facebook)社、アリババグループなど、世界的な企業も続々とメタバースへ参入しています。日本国内では、ソニーグループやパナソニック、KDDIといった企業が取り組みを始めています。

メタバース不動産の将来と注意点

ここまで見てきたことを簡単にまとめてみましょう。

メタバースの不動産の価値はユーザー数によって左右されます。メタバースのユーザー数は今後も増加が見込まれており、それに応じて不動産市場も大きくなっていくだろうと想定されています。

大手企業も積極的に参入する姿勢を見せており、メタバースのニーズは高まってくるでしょう。現在私たちが生活している現実世界とは別に、メタバース上で日常を過ごすという人も増えてくるかもしれません。

では、実際にメタバース上の不動産を購入する場合には、どのようなことに気をつける必要があるのでしょうか。少し先の未来を想像しながら、不動産市場のあり方を予測してみます。

まず注意しなければならないのは、「不動産が存在する仮想世界自体が人気かどうか」ということになりそうです。

私たちが家を探すときに「どの街に住もうか?」と考えるのと同じように、メタバース上で生きる人たちも「どの仮想世界で生活しようか?」と考えます。現実世界の不動産投資では物件のあるエリアの人気が投資判断に大いに関わるはずですが、メタバースでも同様です。メタバース上であっても、人気がない街の土地は当然ながら過疎化するため、価格が暴落するということになるでしょう。

とはいえ、メタバース上の不動産はあくまでデジタル上で出来上がっている産物です。既存の不動産にあるような固定資産税評価額といったものはなく、銀行などがメタバース上の不動産を担保に資金を融資してくれるような概念や仕組みもありません。

ブロックチェーン技術を提供する企業でデジタル不動産やNFTを担保にした融資サービスも一部提供されていますが、掛け目もかなり保守的に設定されており、まだまだ伝統的な金融産業の中の不動産とは全く異なるものという認識が必要です。

さらに、メタバース上の土地価格が高騰しており、参入障壁が高くなりすぎている点も問題です。現在参入しているメタバース不動産投資家のほとんどは投機目的であるため、価格の乱高下は起こると考えておくべきです。

現実の不動産に投資をされている方がメタバース上の不動産に興味を持ち始めているという話も聞きますが、両者は「似て非なるもの」として今は理解しておいていいでしょう。ただ、メタバースは今後も注目が集まりやすい分野ではあるため、情報をアップデートしておくに越したことはありません。

最近では、Meta社のザッカーバーグ氏が、自社で開発中の仮想世界である「Horizon Worlds」で撮影した自撮り写真が話題になりましたね。画像の品質が非常に悪いということで、SNSで炎上する様子も見受けられました。

しかし、メタバースの世界は、画像だけでその価値が判断できるものではありません。その世界を中心にして、自由で社会的な行動や事業をどのように展開していけるかが勝負のポイントだと筆者は考えています。次世代のトレンドの中心となる産業として、Meta社はメタバース事業に1兆円以上の資金を投じています。これを鑑みても、現時点で良し悪しの判断をするのは早計と言えるのではないでしょうか。

(中島翔)