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昨今、投資人口は増加傾向にある。国が投資を推奨していることも背景にあるが、中には「投資とは何か」を理解せずに始めている人もいることだろう。場合によっては、「投資はギャンブルと一緒だ」と考えている人もいるかもしれない。
そこで今回は、証券アナリストの清水洋介さんに、投資初心者がぜひ知っておくべき心得について聞いた。これから投資に挑戦しようと考えている人や、不動産投資以外の投資にあまり触れてこなかった人は、この機会に「投資とは何か」について考えてみてほしい。
「投資」はさらに身近な存在へ
日本では政府が主導するような形で、「貯蓄から投資へ」と言われて久しい。貯蓄だけでは将来必要になる資産を形成することは現実的ではなく、また年金だけで賄うことも厳しい。自らの裁量で「投資」を行いながら、資産形成を行っていくことが求められている。
その支援策として、NISA(少額投資非課税制度)の拡充などの施策が進んでいる。また、高校では「金融教育」も本格的に始まるなど、徐々に投資が身近なものになりつつあるように感じる。
しかし、中には投資という単語を聞いただけで胡散臭いと感じる人や、証券会社や商品取引会社に騙されるのではと勘ぐってしまう人も一定数いるのも事実だろう。とはいえ、資産形成のために投資から目を背けるわけにはいかない。
昨今、投資という言葉を誤って認識している人が増えているような印象がある。そのため、まずは「本来の投資とは何か」を改めて理解したい。そして、投資初心者がファーストステップとして取り組める投資手法を紹介する。投資の入口として参考にしてほしい。
「投機」ではなく「投資」を
多くの人は、投資といえば「株式投資」を思い浮かべるのではないだろうか。今回は、イメージのしやすい株式投資を例に、投資とは何かということについて考えていきたい。
まず、株式投資の基本構造は「購入した株価が上がれば儲かり、下がれば損をする」というもので、不動産投資と似た構造だ。ただし、その株価の変動を予想することは簡単ではない。企業業績のほか、景気や金利などの経済的要因、政治動向など、さまざまな外部要因の影響を受けるからだ。
昨今、株式投資を新たに始める人は徐々に増えてきている印象がある。日本証券業協会の集計では、2021年9月末時点の国内の個人証券口座数は約2876万で、2022年には3000万を突破する見通しがある。
しかし、その中には目先の利益を得るために、直近の値動きだけを参考に株の売り買いをしている人がいるようだ。売買の理由を聞いても、「きっと上がると思ったから」と、明確な理由がない人もいた。
では、ここで改めて本来の投資とは何かを考えてみたい。投資とは、長期的な視点で資金を投じ、利益や配当の増加を期待する取引のことを意味する。決して、1日や2~3カ月ほどの短期間で得られるようなリターンを求めるものではない。少なくとも2~3年かけて、場合によっては十数年かけてリターンを得ていくものである。
株式投資であれば、企業のビジネスモデルや業績、現状の実力や潜在能力に対する株価の割安感などを調べる。具体的には、利益から見た株価の割安性を表す「PER」や、純資産から見た株価の割安性を表す「PBR」といった指標だ。そのうえで、株価の上昇が今後期待できる企業であれば、株式を購入して資本を提供する。
時間経過とともに投資した企業が期待通りに成長すれば、利益を確保できる。もちろんリスクもあり、予想を見誤れば損をする可能性もあるだろう。
他の例では、「設備投資」も投資の1つだ。企業が行う設備投資は、多額の資金を費やして設備を購入する。その設備を運用して、徐々に利益を生み出していく。
要するに、投資した資金と長期的に得られる利益が釣り合うかを考え、お金を出すのが投資ということだ。
一方、目先の利益を追い求めて短期間で売買するようなお金の使い方は、もはや「投機」である。まるで「ゲーム感覚の株式投資」だ。1日、2~3カ月でリターンを得ようとしており、「儲かれば嬉しい、損すれば悲しい」という状態である。
投機とは、相場の変動などを利用して短期売買を繰り返すことで、差益を狙う取引のことだ。例えば、手元の資金で1日に何回も株式売買を繰り替えるデイトレードも投機に分類される。デイトレードは企業の価値を判断材料にせず、現在の株価に着目して利ざやを狙う。当日中に利益を確定させるような取引だ。
多くの人が求めているのは、将来自身の生活を支えてくれるような資産を形成できる手段だろう。資産形成にお金を使うのであれば、ギャンブルのような投機ではなく、長期的に資産を築く投資に重きを置くべきことがわかる。
実例から、投資の基礎を学ぶ
では、投資初心者は何から始めるべきなのだろうか。まずは、投資の基本を押さえるための勉強を自身で行ってほしい。
例えば、今年8月26日に米国株式が暴落した。報道では、金利の上昇が続いているため、株式が暴落したと報じられている。では、なぜ株式が暴落したのかを金利との関係性から説明できるだろうか。
投資初心者には、まずは大きなお金の流れを理解してほしい。今回の出来事であれば、なぜアメリカでは現在、金利上昇が続いているのか、なぜ金利が上昇すると株価が下がるのか、金利上昇が終わると株価にどのような影響があるのかなどを調べると理解は深まる。
とはいえ、すべてを詳細に理解する必要はない。お金の流れだけでなく、企業業績の分析や各国の政治動向なども知っておくべきだが、それは機関投資家などプロの役割だ。投資初心者には、根本の仕組みを理解して、投資の基礎から学んでもらいたい。
投資初心者は「投資信託」から
そして、投資初心者におすすめできる投資方法は、「投資信託」だ。投資信託とは、投資家から集めたお金を一つの大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品のことだ。
国債や社債など債権を中心に運用するものや、株式を組み込んで運用するものなど、種類は多様だ。その中でも、日経平均やTOPIX、米国市場であればNYダウやS&P500などの株価指数に連動するような投資信託に、毎月定額を積み立てていくインデックス投資がお勧めだろう。
この投資方法の良いところは、日々の株価の値動きに一喜一憂する必要がない点だ。株価指数は取引所全体や特定の銘柄群の株価の動きを表しているので、「ゼロ」になるリスクがかなり少ない。
また「ドルコスト平均法」という積み立て方法である点も初心者向きだ。毎月購入する金額を一定に保つことで、株価が安い時は購入する口数が多く、株価が高い時は購入する口数が少ない。つまり、全体の購入単価を平準化させる効果があり、損失が出る可能性を低くすることができる。
また、投資信託は自分で投資対象の企業を選ぶわけではない。投資信託の運用会社(ファンド)が、集まった資金をどのように投資するかを考え、運用を行う。運用は任せる形になるが、どの投資信託に投資するかは慎重に判断したい。
その際に覚えておいてほしいことは、過去の実績が必ずしも参考になるわけではないということだ。ここ数年で「AI(人工知能)投資」というものが出現しているが、筆者の知る限り好成績を上げているものは少ない。
つまり、相場は常に波乱が起きているということであり、未来を予想することは相当難しいということだ。単にこれまでの業績が良いという理由だけで選択せず、さまざまな情報を集めて判断したい。
◇
不動産投資にも共通する考えだと思うが、今すぐに価値が上昇する商品を購入できたり、最安値で購入できたりすることは必ずしもできるわけではない。重要なのは、自分の求めるリターンが得られるかどうかという視点だろう。
例えば、10年後に5倍になっていればいい、数年後に毎年の配当が5万円得られればいいなど、個々人で目標は異なる。株価、物件価格などの単一の評価軸にとらわれすぎないことも重要だろう。
最後に現在「投資」で一番の成功者とされている、米国の著名投資家であるウォーレン・バフェット氏とその盟友である、チャーリー・マンガー氏の言葉を引用しておく。
「投資で成功するには、そこそこの会社を割安で買うのではなく、良い会社を少し安いところ(適正価格)で買って持ち続ければいい」
(清水洋介)
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