所有者が分からないために活用できず、放置される「所有者不明土地」が問題になっています。特に深刻なのが、相続時の未登記問題です。

本来行うべき相続登記を怠っていたばかりに相続人が不明で、例えば公共事業などで用地買収を進めたいとなっても、交渉が困難になってしまうのです。

国も、近年になってようやくその対策に乗り出しました。具体的には、民法と不動産登記法の一部改正を含む「民法等の一部を改正する法律」や、いわゆる「相続土地国庫帰属法」などです。相続未登記により放置される土地がこれ以上増えないよう、法整備が進められています。

これらの改正法はいずれも2023年以降の施行ですが、その一方で、所有者不明土地の解消に向けて、2018年にある法律が施行されています。それが今回取り上げる「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(以下、特措法)」です。

特措法は、所有者不明土地の問題の解決に大いに役立つように思えるかもしれません。ところがその実態は、ほとんど誰にも利用されておらず、そればかりか、状況が余計悪化しかねないという問題すらはらんでいたのです。

今回は、筆者自宅の目の前にある空き地の雑草を合法的に刈るために、この「特措法」を活用しようと悪戦苦闘した話をしたいと思います。

誰も知らない、「特措法」のその後

特措法は、法定相続人の所在がつかめないまま放置されている土地の活用促進を目的に制定されました。具体的には、地方公共団体や民間企業、NPO、自治会、町内会などが、地域のための活動の拠点用地として利用する「地域福利増進事業」を想定したものです。利用者の制限はなく、だれでも申請が可能です。

所有者不明土地の問題については、さまざまなメディアで取り上げられていますから、特措法について聞いたことがある人もいるかもしれません。一方、実際にこの特措法が適用され、所有者不明土地が再利用されたという話を耳にした方は、ほとんどいないのではないでしょうか。

私自身はこれまで、千葉県の限界ニュータウンについての諸問題を調べてきました。しかし、「所有者不明土地」の問題については、さほど関心を寄せていませんでした。限界ニュータウンでは、所有者が不明であることがさほど問題にならないためです。

多くの限界ニュータウンは現在、分譲当初の取得者が高齢となり、相続によって世代交代が進んでいます。ただ、仮に登記簿の所有者情報が更新されていなくても、行政は固定資産税徴税のために所有者の所在を把握しているケースが多いのです。要するに、所有者ははっきりしていて、その所有者が土地の処分に困っている、というのが限界ニュータウンの問題点なのです。

そういうわけで、これまで「所有者不明土地」には特別な関心がなかったのですが、先日、思いもよらぬ事情で、この特措法が定めた制度の実情を垣間見る機会があったのです。

空き地の雑草を刈るために

現在、私は千葉県にある横芝光町の旧分譲地に住んでいます。この自宅の向かいに、おそらく分譲地の開発当初、公園として供用されたと思われる空地があります。

しかしその土地は、長年管理もされず放置されています。私がこの分譲地に引っ越してきたときにはすでに、一見しただけでは公園ともわからない、まともに足も踏み入れられないような荒れた雑木林になっていました。

整備前の公園跡地(2019年11月撮影)。まったく足を踏み入れることもできないほど荒れ果てている

雑木の横枝が私道上にまではみ出していて、車両の通行にも難儀するほどの状態です。日常生活にも支障が出るため、放置するわけにはいきません。私はこの土地の管理者に連絡を取り、何らかの対応を取ってもらいたいと考えました。

さっそくその公園跡の登記事項証明書を取得し、所有者を調べてみました。すると、分筆時から現在に至るまで、この分譲地の開発業者と思われる東京の業者名のままになっていたのです。

法人登記簿も確認したところ、すでに休眠会社となって久しいのか、2015年に会社法の規定により「みなし解散」させられていました。5世帯しか住民のいない私の分譲地には管理組合もなく、近隣地域ともほとんど交流はありません。公園の管理者が不在であったがゆえに、荒れるがままになっていたのです。

結局、私は自己判断で横枝を切り落とし、雑草や雑木でジャングル化していた公園跡の整備を進めていました。しかしこの行為は、厳密にいえば他者の私有地に侵入しての無断伐採にあたります。

ただ現実的には、こうした未管理地の雑草を、近隣住民が独断で伐採したり、時には整地したりするのはごくありふれた対処方法です。まったく管理されていない放置区画が多く存在する限界ニュータウンにおいては、それが問題視されることもないのが実情なのです。

実際に私が暮らす分譲地においても、我が家も含め全員が、自宅周りの放置区画(宅地の管理会社によって整備されていない区画)の雑草の刈払いを行っていますが、互いにそれを見咎めることなどありません。

ところが私の場合、こういった整備の模様を、ブログやSNSなどで公開している都合上、法令を黙殺し、無断伐採の模様を公開することには問題があります(実際に読者の方より、法令上の問題を指摘する声はありました)。

しかしだからといって、すでに解散している法人へ連絡を取る手段はありません。2015年に解散といっても、同法人の解散登記は法務局の職権によって行われたみなし解散なので、会社としての実態はそれよりもずっと前から消滅しているものと推測されます。

ちょうどそんな時、SNS上でいただいた助言で、「特措法」が定める「地域福利増進事業」の存在を知りました。この制度を活用すれば、この公園跡を、同事業の用地として利用できるのです。

国土交通省が発行する『所有者不明土地法「地域福利増進事業」紹介パンフレット』。申請窓口は市町村役場だが、自治体によっては備えていないこともある

さっそく、私と妻の二人で、この公園跡地の整備を行うボランティアの任意団体を設立しました。その任意団体名義で申請を行う、という算段です。

国土交通省が発行した『所有者不明土地法「地域福利増進事業」紹介パンフレット』には、申請窓口は各市町村の担当窓口とあるので、まずは横芝光町役場に出向いて相談してみることにしました。

たらい回しの予感

正直なところ、相談先の町役場には、この申請についての手慣れた対応は期待していませんでした。

町役場の職員の方の能力が不足しているという意味ではありません。地価の安い横芝光町は、旧分譲地をはじめ、売地は常に供給過多の状態にあります。そうした中、あえて権利関係が複雑な所有者不明土地を積極的に使う理由がなく、わざわざこんな申請を行う町民が、自分の他にいるとは思えなかったからです。

案の定、町役場の職員さんはこの制度の存在自体をまったく知らず、私が持ち込んだ国土交通省のパンフレットのコピーを始めるありさまでした。

ブログで公開していることも含め、申請を行う事情も一通り説明しました。立場上、職員さんははっきりとは言いませんでしたが、そのような未管理の土地など、黙って勝手に整備しても問題ないのでは、とでも言いたげな様子でした。

それでも千葉県庁に問い合わせてもらったところ、申請窓口は市町村だが、私の申請する利用方法が、特措法が定めるところの「地域福利増進事業」に該当するものであるかどうかを判断するのは千葉県庁の用地課なので、私自身が用地課に出向いて確認してほしいと言われました。

この時点で既に、特措法の利用が一般的ではなく、その有効性に疑問符が付くものであることが容易に察せられます。地域福利増進事業に限らず、通常、一民間人が気軽に利用できる行政上の制度の申請窓口が都道府県庁に設けられていることなどありません。言葉は悪いですが、「たらいまわし」にされる予感がありました。

それでも、一度は県庁に出向いて話を聞いてみるのも後学のためになるかと考え、実際に千葉市中央区にある千葉県庁の用地課に足を運び、地域福利増進事業の申請についての詳細を伺ってみることにしました。

しかし用地課の職員さんは、横芝光町役場の職員さんとは異なり、制度を知らないということはもちろんなかったのですが、あまり浮かなそうな顔をしているというか、やや困惑気味な表情で、特措法が定めた「地域福利増進事業」の実態を語ってくれたのです。

法律施行から2年なのに利用ゼロ?

用地課の職員さんが最初に述べたのは、まずこの「地域福利増進事業」の申請が実際に認可されたケースは、僕が県庁に出向いた2022年3月の時点で、まだ全国で3例しかなく、千葉県内においては前例がないということでした。

しかもその実例も、実態は法制度運用のモデルケースとして行われたもので、現実に民間からの申請で地域福利増進事業が実現した事例はほぼ皆無とのことです。地域福利増進事業の運用開始が2020年ですので、施行開始から約2年間、事実上、ほとんど制度運用の実態がなかったことになります。

なぜそれほど実例が少ないのか。職員さんの話では、まず申請手続きの手順や必要書類の準備が非常に煩雑な点がありそうでした。個人で申請するのは労力や費用面において見合うものではなく、加えて「所有者不明土地」の判定基準が非常に厳格です。利用の申請を受けても、その不動産を精査してみると、所有者不明として認められないケースが大半なのだそうです。実際、千葉県においても、施行開始直後に数件の申請があったものの、すべて所有者不明土地として認定できず、不受理となったとのことでした。

のちに私も、自分が申請する予定だった公園跡の土地が、特措法が定める「所有者不明土地」の要件を満たしているか、「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン」の記載を参考に調べてみました。結果、みなし解散によって解散された法人名義の土地でも、それは再度清算人を立てて、清算人の権限で土地の処分を行うのが原則であるため、所有者不明土地とは認められないとのことでした。

これは到底納得のいく話ではありません。そもそも、本来行われるべきはずの相続登記も行われず、管理者の所在も不明なまま放置されている土地の多くは、所有者を明確化する労力に見合うほどの資産性がないケースがほとんどのはずです。

資産価値が高く、再利用が期待できる土地であれば、その資産をめぐって多数の思惑が絡み合い、権利関係が複雑に入り組むことはあるかもしれません。その一方で、所有者に連絡自体が取れなくなってしまうというケースは少ないのではないでしょうか。

完全に所有者に連絡が取れなくなっている不動産ももちろん多くあるのでしょう。ただ一方で、登記制度が厳格で、ある面で硬直化しているからこそ、所有権の移転が困難となり、放置される無価値の不動産が増加している面もあるはずなのです。そんな不動産に対して、改めて別の厳格な基準を設けるのでは本末転倒です。これではむしろ、よりいっそう土地の放置が進む恐れすらあると言えます。

私の自宅の前の公園跡も同様です。少なくとも十数年前から、事実上会社としての実態がなかった法人名義の土地です。それを今頃になって利害関係者を探し出し、清算人を立て、土地の売却を行ったところで、売却価格などせいぜい数十万円程度が関の山でしょう。これでは実際に清算結了登記に向けて動く者などあるはずもありません。

都市部においては、土地は今でも資産として機能するものです。ですからある意味では、その財産権を侵す性質のものともいえる特措法は、厳格に運用すべきだという理屈もわかります。しかしだからと言って、実効性がほとんどない制度に存在意義はありません。

この特措法は、法務局における実務の現場では一定の効果を上げているそうなので、制定がすべて無意味であったとは言いません。ただ、「地域福利増進事業」が目指した目標に向けて、この数年間に何ひとつ進展が見られないまま、今に至っている状況には暗澹たる気持ちにさせられます。

あくまで私が見ただけの印象ですが、この地域福利増進事業に対しては、申請を受理する県庁職員の方も、実効性のある法制度であると考えているようには見えませんでした。無理に申請手続きを進めようとしても、すべて徒労に終わることがわかりきっていて、最初から実情を話して断念してもらったほうがよい、と判断しているようにしか見えなかったのです。

結局、「地域福利増進事業」による公園跡の適法な活用は、断念せざるを得ませんでした。

その後、再び役場に足を運び、固定資産税の課税情報から、公園跡の現在の所有者情報あてに、連絡をとってもらおうと試みました。

しかし、その法人の代表者はすでに亡くなっていて、ご遺族の方も、既に相続放棄していました。故人が代表を務めていた法人名義の土地について、何かしらの対応をする意思はないとの回答でした。結局、公園跡の適法な整備は完全に行き詰ってしまい、私は今でも、無断で公園跡の除草を繰り返しています。植物は、そんな人間の都合などお構いなしに繁茂しますから、ほかにどうしようもないのです。

今回のこの経験を経て、私はひとつ痛感したことがあります。それは、新たに施行された法律について、私たちは無批判に期待を寄せてしまっているのではないか、ということです。

実態にそぐわない法整備というものは、ほかでも見られるもので、それに対する批判を目にする機会はあります。一方で私たちは、「所有者不明土地特別措置法」のような法制度の施行の報せを聞いた時点で、それですべての問題が解決したかのような期待を寄せてしまいます。そして実際にそれが適切に運用されているかどうかまで、関心を払わないことが多いのではないでしょうか。

所有者不明土地特措法について調べてみても、少なくともネット上では、その制定を知らせる各自治体の広報ばかりがヒットして、制定後、全国でわずか3例しか利用例がないことについて報じる記事は皆無でした。

私自身、自分が申請してみるまで、そんな実態にあることなど想像外の話でした。事業の存在を耳にしたときは、てっきり、すでに制度が活用されているものだと信じ込んでいたのです。そんな、有名無実化した法制度というのは、この特措法のほかにも、これまでにも数知れず存在し、そのまま忘れ去られてきたものがあるのではないでしょうか。

不動産にかかわる法令や制度は頻繁に改正されるもので、そのすべてが広く報じられるわけではありません。実効性に乏しく、形骸化してしまった法制度もあれば、逆にいつの間にか有用なものに変貌していることもあるかもしれません。

とかく複雑極まりない不動産関連の法規ですが、不動産を資産として生かすためにも、こうした法制度への自発的な関心は重要なものであると考えさせられました。

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(吉川祐介)