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米国金融当局は今月20、21日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)で、3会合連続となる0.75ポイントの利上げを決定した。一方、日銀は22日、金融政策を決める会合において、現在の金融緩和策を維持することを決定している。

米国で利上げが進む中、日本では依然として緩和策が取られており、日米の金利差は開く一方だ。こうした状況から、歴史的とも言える低金利政策を背景に住宅ローン市場をけん引してきた「変動金利型住宅ローン」が、転換期を迎えることになるかもしれない。

住宅ローン金利、「今後上昇」が約4割

住宅金融支援機構は、2021年10月から2022年3月にかけ、住宅ローンを借り入れた1500人にアンケート調査を実施。その結果を「住宅ローン利用者の実態調査(2022年4月調査)」として6月に公開した。

これによると、「今後1年間の住宅ローン金利見通し」は、21年10月調査では「変わらない」が63.1%だったのに対し、22年4月調査では17ポイント減少して46.1%となった。半面、「現状よりも上昇する」が16.1ポイント増加し、23.1%から39.2%となっている。半年前に比べ、住宅ローン金利が「今後上昇する」と考える人が大幅に増えている。変動金利型住宅ローンの利用者の回答も同様の傾向だった。

今後1年間の住宅ローン金利について、今後「上昇する」と回答した人が増えている(住宅ローン利用者の実態調査)より

上記は4月に行われたアンケート調査の結果である。先日のFOMCの結果など、直近の金利環境の変化を勘案すれば、現時点では「金利は今後上昇する」と予想する人はさらに増加していると思われる。

金融機関の見方にも、変化が表れている。日本銀行が50の銀行などに調査を行っている「主要銀行貸出動向アンケート調査」の7月調査によると、「住宅ローン資金需要判断DI」は低下傾向にある。DIは、プラス値が大きくなれば住宅ローンの資金需要が増えていることを表す。

2019年12月の「5」から、2020年9月には「-19」まで大きく低下している(=住宅ローンの資金需要が減少している)が、これは新型コロナウイルスの感染拡大による影響によるものだ。その後、DIは2021年3月に「14」まで上昇し、2021年中もプラスで推移、住宅ローンの資金需要が堅調だったことがわかる。

しかし、その後は徐々に低下し、2022年3月には「0」に、6月には「-6」まで低下した。これは、住宅ローン金利の上昇を背景に、住宅ローン資金需要が減少傾向にあるとの見方をしているためであろう。

借入期間も長期化の傾向

住宅ローン金利の上昇は、これから住宅を取得してローンを組もうとしている人にとってはもちろん、現在ローンを返済中の人にも大きな影響を及ぼすことになる。

実際、住宅金融普及協会の「住宅関連データ」によると、民間金融機関などの住宅ローン店頭金利は、日銀の黒田総裁が就任し金融緩和策が拡大した13年には3年の固定金利が3.10%、5年の固定金利が3.40%、10年の固定金利が3.90%だったが、16年にはいずれも2.90%まで低下した。

住宅関連データ | 一般財団法人 住宅金融普及協会 (https://www.sumai-info.com/research/database.html)

ところが2022年の住宅ローン店頭金利は、3年固定金利が3.15%、5年固定金利が3.25%、10年固定金利が3.65%へと上昇している。米欧の利上げ実施の影響で、国内の市場金利が上昇傾向にあることが背景にあると考えられる。固定金利型の住宅ローン金利は、優良企業に対して融資を行う際の長期プライムレート(最優遇貸出金利)を基準にしていると説明されるが、より具体的には、10年物長期国債利回りなどの市場金利が基準になっている。

一方、変動金利型住宅ローン金利は2013年以降、現在まで2.475%が続いている。基準金利は優良企業に対して融資を行う際の短期(1年以内の期間)プライムレートと説明されるが、これは日銀が政策金利としている無担保コール翌日物レート(銀行同士が翌日に返済する資金を無担保で貸借を行う際の金利)に準じている。

したがって、変動金利型の住宅ローン金利は事実上、日銀の政策金利変更に連動しているため、2013年以降、現在まで2.475%が続いている。もっとも、実際の住宅ローンを借りる際の金利は店頭金利よりも低く決まるケースが多い。金融機関同士の競争や、ローンを借りる金融機関との取引状況など、さまざまな条件が加味され、店頭金利から優遇した金利が適用されるためだ。それでも、住宅ローン金利の上昇は住宅取得の際、負担になることに変わりはない。

変動タイプの利用者が増えている

今後の金利上昇で大きな影響が及ぶと考えられるのは、やはり、現在変動金利型の住宅ローンを借りている人たちだろう。

住宅ローン利用者の実態調査(https://www.jhf.go.jp/files/400361299.pdf)より

住宅ローン利用者の実態調査(2022年4月調査)」によると、変動金利型の住宅ローンを選択する借り手は年々増加している。2019年4月から2019年9月までの住宅ローンでは、変動金利型は全体の59.0%だったが、2021年10月から22年3月では73.9%が変動金利型となった。

そのうえ同調査によると、住宅ローンの平均貸出期間も年々延びている。2013年度には契約時に25.1年だった貸出期間は、2019年度には27.0年に延びた。完済時でも、13年度の14.3年から19年度には16.0年に延びている。

背景には、黒田日銀総裁が進めた大規模金融緩和、そして日本の賃金がなかなか上昇していないことが挙げられるのではないだろうか。金融緩和によって住宅取得意欲が高まった一方、賃金の上昇がままならないため、より金利が低い変動金利型の住宅ローンを選択し、家計への負担を軽減した借入行動が表れていると考えられる。

だが、変動金利型住宅ローンは多くの場合、その時の市場金利を反映し、半年ごとに金利が見直される。日銀が金融政策を変更すれば、固定型住宅ローンの金利も上昇するが、変動金利型の住宅ローン金利は半年ごとに引き上げられる可能性があり、固定金利型への借り換えを怠れば、固定型の金利を上回る可能性すらある。

結果として、上昇した金利により増額した返済額を、長くした借入期間で返済し続けなければならなくなる。それは、住宅ローン破綻という最悪の事態に至るかも知れない。

インフレ圧力の上昇を抑え込むため、金融政策を引き締め(利上げ)に動いている米欧の中央銀行に対し、日銀は現時点で、大規模金融緩和を継続する姿勢を崩してはいない。だが、米欧の市場金利上昇の影響は、徐々に、そして確実に国内の市場金利にも及び始めている。

1980年代後半から1990年始めの「バブル経済期」に住宅を取得した筆者から見れば、現在の住宅ローン金利は「信じられない低金利」だ。とはいえ、これから住宅を取得する人、特にいま変動金利型住宅ローンを借りている人にとっては、金利上昇は大問題だろう。

住宅ローン金利が上昇すれば、住宅取得意欲に歯止めがかかる可能性がある。輸入物価高と円安の進行などにより、住宅価格も上昇している。この状況が変化することはあるのか。住宅市場は今、転換点を迎えようとしているのかも知れない。

(鷲尾 香一)