皆様、はじめまして。不動産鑑定士・公認会計士・税理士の冨田建と申します。

普段は不動産鑑定士として鑑定業務をしつつ、相続税や固定資産税などの不動産に関連する税金の業務もしています。

正直に書くと、不動産に関する税金の話は他の媒体で色々寄稿しているので、こちらの楽待さんのサイトでは、主に「税金とは無関係の不動産の話」について寄稿していきたいと考えています。

不動産は「一にも二にも現場の調査」が必須ですので、特定の不動産に関する具体的な話の場合は現地調査も交えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、初回ですが、さっそく、楽待編集部さんから「最近、Twitterで話題になった不動産が銀座にあるので、取材してみませんか?」というご連絡をいただきました。こちらが、きっかけとなったTweetのようです(編集部注:ご本人の許可をいただき、Tweetを紹介しています)。

概要としては、銀座にある、まあ、なんと言いますか、独特な、おそらく古くからあるであろう建物です。この建物について、「何か思うところを」との指令です。

まずは現地に行ってみた

筆者が現地に足を運んだのは9月9日。その日は夕方から、友人の公認会計士や司法書士、弁理士らと神宮球場で野球観戦をすることになっていて、その前にちょっと時間的余裕があったため、銀座に赴いてみることにしました。

具体的な場所は、銀座5丁目6番8号付近です。午後4時頃でしたが、いかにも銀座を思わせる、着飾った女性も歩いており、レンガで敷き詰められた道路も洒落た雰囲気を醸し出しています。

ここだけを切り取れば、まさに銀座そのものなのですが、そのような一角に、更地化した上で、建築看板が立てかけられた一画がありました。建築看板を見ると、今年解体され、これから建物が建てられるようです。警備のおじさんもいらっしゃいます。

ただ、今回のターゲットは、その更地そのものではありません。「すずらん通り」と名付けられた道路から見て、その更地の奥に位置する、独特な建物です。

どんな建物かと言いますと、(大変失礼な言い方で、あくまでも個人的な見え方ですが)今にも崩れ落ちそうな建物です。正直なところ、廃屋かと思いました。以降はこの建物を「バラック」(仮設の小屋という意味)と呼びます。

道路に面した建物が解体された銀座の一画に、突如姿を現したバラック。周囲を建物に囲まれ、今まではその姿が通りから見えることはなかった

今回の不動産調査は楽待さんの記事用ですから、いつもの不動産鑑定で建物占有者の協力が得られないときのように「誰にもバレないように、守秘義務モードで」遂行する必要はありません。

と、いうことで、件の警備のおじさんに「あの建物は誰か住んでいるのですか」と問うと、意外なことに酒類を提供する「バー」だと言います。

「バー?」

思わず筆者は聞き返しました。周囲にバーの看板らしきものは見当たりません。そもそも、更地を突っ切る以外、敷地の奥にあるそのバーへの行き方も一見してわかりません。おそらくは更地の反対側にある建物の間を通り抜けてたどり着くのでしょうが、いすれにしても外観だけであのバラックでバーが営業していると思える人はいないでしょう。

どうやら、現在は更地化されたその場所に今までは別の建物があったため、バラックは表通りからは目に付かなかったのでしょう。たまたま道路側の建物が更地化されたため、あの独特な外観が露呈した…というのが真相のようでした。

あのバラックでバーが営業しているなら、バラックと表通りをつなぐ通路があるはずです。気になったので、更地とは反対側の建物が建ち並ぶ側の「西五番街」側の道路にも回ってみました。こちらも「いかにも銀座」という建物の並びでしたけれども、件のバラックにはどの建物を経由して行くのかは、さらっと見た限りでは判明しませんでした。

言い換えると、煌びやかな建物のいずれかを通り抜けた先に、まさかあのようなバラックがあり、しかも、バーまで営業しているとは思えない状況です。もし、バーがあのバラックではなく、「いかにも銀座」という外観の建物の中にあったら、「入りにくい」と思う客もいるでしょう。しかし、あのバラックにあるからこそ、銀座のバーというイメージから来る「入りにくさ」を払拭できていたのではないか、と個人的には感じ取れました。まあ、誤解かもしれませんが。

区役所で建築確認の状況を調査

更地の奥、かつ、他の建物を経由しないといけないと思われる建物ですから、不動産鑑定士として一番に気になったのは、「建築基準法上の接道要件を充足しているのか?」という点です。

本来、建物を建築する場合、その敷地は、建築基準法上の認定を受けた道に接している必要があります。例えば、幅員4メートル以上の国道や都道府県道、市区町村道や一定のしっかりした私道などであれば通常は該当します。この道路に原則として2メートル以上を接している必要があります。

しかし、件の建物はそもそも道路に接していないように見えます。どう見ても、建築基準法上の接道要件を充足しているようには見えません。このあたりはどうなっているのか。銀座は東京都中央区の所在ですから、中央区役所の建築指導担当にも行ってみました。

まず、更地となった部分に新築される建物について「実はバラックが建っている敷地も含まれていて、これからバラックを取り壊す予定があるのか」という点を調べました。

しかし、立て看板を設置した際の届出資料によると、バラックは敷地の範囲に含まれていません。つまり、更地化された部分に新築予定の建物と、バラックは隣同士なだけで、全く無関係ということが判明しました。

また、バラックそのものの建築確認、いわば「建物を建築する前に、建築基準法に照らしてこのような建物を建ててもよいかという点の、建築指導部署への確認」が出ているのか…という点も重要です。しかし、この建物には建築確認の記録は、少なくとも中央区役所での記録の限りでは発見できませんでした。

また、登記関連も調べたのですが、判然としないというのが結論でした。バラックは見るからに古いので、そもそも建築基準法施行の昭和25年以前の可能性もあります。この場合は法施行前ですから、既存不適格建築物として建築確認も不要ということになります。

このあたりは、少なくとも区役所での調査の限りでは判明しませんでした。ただ、現況ではバーのある建物それ自体は、単体ではその敷地が建築基準法上の接道要件を充足していないと推察されました。

いろいろ調査をして思うこと

もしかしてバラックは既存不適格建築物に該当するかもしれませんし、あるいは実は法施行後の新築で、単に違法建築物の可能性も否定できません。いずれにせよ、「現況の建物の範囲で再建築をしようとしても、接道要件を充足しない」がために、建物を解体して再建築をすることは、隣地と一体化するなどの状況がない限りは不可能です。

しかし、周囲の相続税路線価は、すずらん通り側で1平米あたり1435万円(2022年時点)。実勢相場だと更にその倍くらいになるでしょう。

周辺の相続税路線価が1平米あたり1435万円の銀座5丁目「すずらん通り」

無道路地とは言え、隣地と併合すれば建築基準法上の接道要件を充足しますから、それこそとんでもない価値を出します。しかも、手前側はバラックの存在のおかげで、不整形地になっており、バラックの敷地を併合できれば、より有効利用ができます。

思うに、あくまでも推定の限りですが、もしかしたら更地を建築・開発中の業者も、バラックをもしかして買収して一体開発しようとも考えたのではないでしょうか。しかし、バラックの賃借人がいれば、借地借家法をタテに立ち退きに応じないということもあり得ます。

ここからは、もうそうだとしたらとの前提で述べることをご容赦いただければと思います。

その場合、それは2つの意味で不合理があります。1つは、有効利用度の低い建物の存在により、銀座という土地、もっと言うと、国土の有効利用の阻害となっている点です。いま1つは、見るからに耐震性がなさそうな、老朽化した建物であり、安全面に問題がある点です。

定期借地権、定期借家権の制度が出来て、ある程度は「過度の賃借人保護」は解消されましたが、それでも、昔からの不動産の賃貸借に関する「過度の賃借人保護」にはメスは入っていません。

けれども、このような2つの欠点があることは、前述の通りです。昔からの不動産の賃貸借に関する「過度の賃借人保護」について見直すべきではないか…。筆者は、このバラックを見るに、そう思うのでした。

(冨田建)