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世界的に木材価格が急騰した「ウッドショック」が一転、今後は輸入木材が大量に余り、価格が下落するかもしれない。
2021年3月ごろから表面化しはじめた「ウッドショック」。日本でも木材価格が高騰し、建築費や物件価格が上昇するなど、多くの影響が見られた。
しかし、アメリカでの建築需要が急落したことで、その状況は一変。木材価格は下落へと方向を変え、ウッドショックは解消の兆しが見えてきた。日本でも、東京埠頭などの木材物流基地には大量の在庫が積みあがっている。今後、木材価格は落ち着いてくる可能性が出てきた。
ただ、日本国内の不動産投資家がそれを実感するまでには、まだ時間がかかるとの見方が強いようだ。今回はその理由について、専門家や卸売業者、投資家への取材を踏まえて詳しく見ていきたい。
ウッドショックの現在
まずは、これまでのウッドショックによる影響について振り返っておきたい。
そもそも2021年3月ごろから表面化したウッドショックが発生した原因は、アメリカで急増した建築需要に端を発する需給バランスの崩壊にある。ウッドショック以前の木材需要は横ばい、ないしは下落傾向にあった。そして、コロナショックで経済活動が滞り、木材需要はさらに減るとの大方の予想があり、供給を少なくする動きが木材市場ではあったようだ。
しかし、予想に反して、アメリカでほぼ0に近い低金利政策が行われたことにより建築需要が爆発。新しく家を建てる人が増え、今年3月の住宅着工件数は約179万棟と2006年以来の高水準を記録した。世界の木材がアメリカに集中するようになり、世界的に木材不足に陥ることになった。その影響で木材価格は高騰し、建築費用は上昇を続けた。

2020年末ごろから製材の輸入物価指数が上昇している(経済産業省webサイトより)
しかし、今年6月ごろを境に木材需要の減退へと状況が大きく変わった。背景にあるのは、インフレを抑制するためにアメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が行った利上げだ。FRBは2カ月連続で0.75%の大幅利上げを行い、その影響で住宅ローン金利も上昇した。
アメリカの建築需要は徐々に下落し、米商務省が発表した7月の住宅着工件数は144万6000棟で、3月から2割ほど減少した。その結果を反映するようにして、米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)では、材木先物価格の8月最安値は、5月の最高値から約7割にまで落ち込んだ。
ウッドショックの原因となったアメリカの建築需要が落ち着いてきたことで、木材の需給バランスは徐々に元の状態へと戻りつつある。高騰していた木材価格が適正価格へと下落していく見通しがあるということだ。
日本は新たな問題に直面か
続いて、日本の状況に目を移していきたい。
ウッドショックが発生していた期間中、日本の木材市場で起こっていた状況について、森林ジャーナリストの田中淳夫氏は「製材を中心とする木材のほとんどを輸入に頼っている日本では、ウッドショックの影響は非常に大きかったです」と話す。
特に、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まったころ、すでに高騰していた木材価格はさらに値上がりするという見方が強くなった。国内の木材問屋や卸売業者は、これ以上価格が上がる危険性を見越して、仮需的に木材の大量発注を行った。
しかし、中国のロックダウンやコンテナ不足などで物流が停滞。発注していた木材の入荷は遅れ、国内の木材不足はより深刻になってしまう。「国内での木材価格は、通常時と比べて一時2~3倍にまで膨れ上がりました」と田中氏は当時を振り返る。
そして、アメリカの利上げを契機に、ウッドショックは徐々に解消の見通しが立ってきた。日本でも木材価格は下落に向かうように見えるが、田中氏は別の大きな問題について指摘する。
「コロナショックにより停滞していた流通網が徐々に回復してきたことで、仮需的に発注していた大量の木材が入荷され、日本では現在、過去に例を見ないほど木材在庫が積みあがっている」と話す。実際、首都圏で輸入木材の玄関口となっている東京木材埠頭が管理する15号地木材埠頭には輸入された木材が大量に保管されているという。

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在庫が増えることで木材不足が解消されるように見えるが、問題は日本の建築需要が下落傾向にあるということだ。国交省が発表した7月の新設住宅着工戸数は約7万3000戸と、6月(約7万4600戸)と比べて2.4%の減少となっている。
「大量の在庫があるものの、建築需要は減退している。この木材の在庫は販路が決まっていない仮需的なものであったため、どのように消化していくのかが大きな問題になっています」と田中氏は話す。
在庫の行方は、木材価格の下落はもうすぐか?
製材の輸入を行う卸売業者は、現在の状況についてどのように考えているのだろうか。製材輸入を行う都内のある流通業者の担当者は、「世界的に木材価格が徐々に下がってきているような感触はあります。しかし、円安の影響が大きく、たとえ木材価格が下がったとしても最終的な仕入れコストはそこまで大きく変わっていない」と話す。
とはいえ、多くの問屋や卸売業者が木材の在庫を抱えていることも事実。今後、木材価格が下がる可能性について聞くも、すぐに国内で価格変動が起こることは考えにくいという。
「現在在庫となっている木材は、価格が高騰していた時に買い付けていて、仕入れコストが高いものばかりです。国内の木材需要が減っている状況はあるものの、簡単に売値を下げるわけにもいかないのが実情」と担当者は話す。

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現状は、問屋や卸売業者と工務店や建築会社の間で、価格交渉が難航しており、まだ安い価格での売買はされていない状況のようだ。しかし、それも時間の問題ではないかと担当者は話す。焦点になっているのは、在庫の保管料にある。
海外から輸入した木材は、東京埠頭などの木材物流基地に保管される。売れない在庫を置いておくにも保管料が発生する。「在庫の保管料が膨れ上がれば、業者も次第に耐えられなくなるでしょう。そうなれば、損切りしてでも在庫を吐き出すことになりかねないです」と担当者は話す。
前出の田中氏も「木材価格が下落することは確かだが、そのタイミングを予想することは難しい。ただ、在庫の保管に耐えかねた1つの業者が値下げを始めれば、全体に波及するのは時間の問題ではないだろうか」と話した。
投資家が値下げを実感できるのはまだ先か
では、不動産投資家が木材の値下げを実感するのはまだ先なのだろうか。投資歴20年で新築物件も自ら手掛ける「FIRE大家・テリー隊長」さんは、「木材の値下がりは、まだ現場では感じていない」と話す。「付き合いのある工務店や建築会社に確認しましたが、どこも木材価格は依然高止まりの状況が続いているとの回答でした」。
テリー隊長さんは、「アメリカの状況から、木材不足は徐々に解消されていると思うので、いずれは日本の木材価格が下落すると思います。しかし、流通のプロセスから考えれば、それが現場の販売価格に反映されるにはタイムラグがかなり発生するのは致し方ないでしょう」と話す。
これまで見てきたように、現在は川上の問屋や卸売業者で木材価格が高いまま張り付いている。現場に安い価格の木材が流れてくるまでにはまだ時間がかかるとテリー隊長さんは考えている。
なかなか木材価格が下がらない状況で、新規に新築に取り組むことは難しいのだろうか。テリー隊長さんは、「土地と建築費の両方が高騰している状況では、計画は見送ります。ただ、少しでも土地価格が軟化してくれば、取り組めるチャンスは大いにある。中長期的に運用できる利回りが確保できるのであれば、検討してもいいのではと考えています」と話す。
◇
木材価格の変動を投資家が現場で感じるには、まだ時間がかかりそうだ。今後、在庫となっている大量の木材が安く卸されることで、木材価格の下落、さらには建物の販売価格の下落になるのか。情勢を注視したい。
(楽待新聞編集部)
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