PHOTO: haku

みなさんはじめまして。一級建築士の満山堅太郎と申します。私は以前、地方の某市役所で、違反建築物に対する指導や建築確認審査などの業務に携わっていました。現在は独立して、建築法規やまちづくりのコンサルタントとして活動しています。どうぞよろしくお願いします。

突然ですが、みなさんは「違反建築物」というと、どういった建築物をイメージしますか? おそらく、建築物の一部が朽ちていたり、損傷が著しかったりといった建築物をイメージするのではないでしょうか?

実は、違反建築物は一見しては分からないことが多いです。ちょっとした不注意や建築基準法の確認を怠ったことで生じてしまうことも多いのが実情です。不動産オーナーが、意図せずして物件を違反建築にしてしまったり、気づかずに違反建築物を購入してしまうリスクもあると言えます。

この記事では、私がこれまでに行政指導の現場で見てきた違反建築物の事例を取り上げていきたいと思います。違反建築物のリスクを回避するための参考にしていただければ幸いです。

違反指導件数は年間約5800件

まず、違反建築物が実際にどのぐらいあるのかをみていきましょう。

国土交通省が毎年度まとめている報告書によると、2020年度における行政指導を受けた建築物などの数は5765件となっています。行政が実施する「違反建築パトロール」や近隣住民からの通報で行われた行政指導の件数です。

行政指導をした建築物等件数及び建築基準法第9条に基づく命令を行った建築物等件数の推移(出典:国土交通省)

この数値をみてどう感じますか? 意外と多い印象でしょうか。

年々減少傾向にはあるものの、依然として行政指導を受ける建築物などは一定程度生じています。

パトロールや通報で見つからない建築もあるため、実際にはさらに多い違反建築物があると考えられます。

確認申請書提出指示等の行政指導を受けた件数の推移(出典:国土交通省)

次にどのような理由で違反建築物として指導を受けるのかを見てみましょう。2022年度の行政指導の内訳をみると、建築確認申請をせずに着工した建物が対象となる「確認申請書提出指示」が479件となっています。

「建物を建てる場合、建築確認が必ず必要なのになぜ?」と疑問に思った方もいるのではないでしょうか。

 用語解説 

建築確認

建築計画が建築基準法やその他の関連法規に適合しているかどうかを着工前に審査する手続き。新築だけでなく、床面積が10平米を超える増築、改築なども着工前に建築確認を受けなければならない。

増築に多い「建築確認漏れ」

本来必要な建築確認申請をせずに着工してしまうとは、一体どういうことでしょうか。アパートやマンションのような規模の大きい建築物であれば、建築確認申請を行わないで建てようだなんて考える方はそうそういません。

では、物置や車庫、自転車置き場などはどうでしょうか。実は、これらを敷地内に設置する場合も建築確認申請が必要な場合があるのです。

実際に私が違反指導で遭遇する率が高かったのも、建築確認申請手続きを経ずにこれらを増築しているケースです。こうしたケースは、近隣からの通報で発覚することが多いのですが、当の本人は建築基準法に違反している事実に気づいていないことも珍しくありません。

特に規模の小さな建築物、例えばホームセンターで売っているような物置などは、建築士に依頼せずに設置することが多いのではないでしょうか。また、建築士の資格を有さない業者さんに丸投げした場合も、同様に意図せず違法な工事を行ってしまう可能性があるので注意が必要です。

また、最近は個人が配信するDIY動画などを真似した結果、違法建築物になってしまうケースもあるのではないかと思います。こうした動画の中には、違法性がある方法を紹介しているものも散見されます。DIYでできるような小規模な工事でも、インターネット上の誤った情報を鵜呑みしてしまうと、思わぬリスクを負ってしまう場合があるので注意しましょう。

違反建築物に対しては罰則規定があり、罰則内容によっては罰金などが科される可能性もあります。

増築が違反につながりやすい理由

不動産オーナーの方が最も注意すべきなのは、敷地内に倉庫や駐輪場などを「増築」するケースです。建物を増築すると、市街地などでは建物の密集度が高まり、火災が発生した場合の延焼などのリスクが高まります。このため、無闇に増築が行われないように行政が監督する必要があります。安易な増築は、建築基準法などに違反してしまう可能性があるため注意が必要です。

増築について話を進める前に、まずは増築と関係が深い「敷地」について整理しておきましょう。

建築基準法には、「1つの敷地」に建てることができる建築物は「1つの建築物のみ」という大原則があります。ただし、「住宅」と「住宅に付属する倉庫」のような関係(用途上不可分の関係といいます)のように無くてはならない関係の場合には1つの「敷地」に「複数の建築物」を建築することができます。

一方で、「住宅」と「飲食店」のような関係(用途上可分の関係といいます)のようにそれぞれが独立して用途が成立する場合には「同一敷地」とすることができないルールとなっています。

賃貸住宅の場合、敷地に物置や車庫、自転車置き場などを設置する場合があるかと思います。これらは用途上不可分に分類され、同じ敷地内への増築となります。

ここからは、賃貸住宅オーナーがやってしまう可能性がある違反増築事例を3つご紹介していきたいと思います。

会員限定記事です

この記事の続きを読むには、会員登録が必要です
会員登録(無料) ログインする