
PHOTO:Jact/PIXTA
沖縄県は出生率・人口増加率ともに全国トップクラスの県である。総務省の人口動態調査によれば、2022年1月1日時点の人口は146万7606人と、前年比で0.10%増加。人口が増加しているのは、47都道府県で沖縄県だけだ。地価も上昇傾向にあり、先日発表(2022年9月20日)された基準地価においても沖縄県は福岡県に次いで全国2位の上昇率(全用途)だった。
そうした中、将来のニーズを見据えて、地元の「琉球銀行」「沖縄銀行」「沖縄海邦銀行」の3行は、住宅ローン、リフォームローン、アパートローンなどを展開している。本稿では、そんな沖縄の金融機関事情に注目してみたい。
沖縄の住宅事情、金融機関事情
沖縄は、概して家族間の結びつきが強いとされる。そのため、地元銀行などによると、沖縄の住宅は、2世帯、3世帯で新築を検討する顧客の相談も多いようだ。台風などに備えるためコンクリート住宅が多く、建物価格が高くなり、借入金額も大きくなる傾向があるという。
また本土と比べると、借入の金利は高い状況にある。帝国データバンクが実施した「全国平均借入金利動向調査(2018年度)」によれば、沖縄県は47都道府県中、最も借り入れ金利が高い。

帝国データバンク「全国平均借入金利動向調査(2018年度)」より
ちなみに、沖縄では長らく地元3行による事実上の寡占市場が続いていた。そうした中、2015年9月、九州FG傘下の「鹿児島銀行」が沖縄支店と沖縄事務所を開設した。県外地銀の沖縄での支店開設は戦後初である。
住宅ローン、アパートローンに続き、法人向け貸し出しも順調に増加し、2018年には沖縄2店目となる新都心支店を新設している。2018年度末は434億円だった貸出残高も、2021年度末には1540億円にまで拡大している。
セカンドハウスローンと移住ローン
気候が温暖でビーチリゾートも豊富な沖縄は、旅行先としてだけでなく、移住や別荘のニーズも高い。富裕層やシニア層などを中心とした、県外からのセカンドハウス需要もある。
こうしたニーズに応えるため、沖縄銀行では「おきぎんセカンドハウスローン」を用意している。融資金額1億円以内、融資期間3年以上40年以内で、セカンドハウスの建築・購入・増改築資金、住宅ローンの借り換え資金などに応じている。
また、「おきぎん美ら海移住ローン」では、県外の移住希望者の居住用資金、移住のために利用した他金融機関住宅ローンの借り換えなどのニーズに応えている。勤続3年以上で税込年収150万以上、所要資金のうち自己資金30パーセント超といった条件のもと、融資金額1億円以内、融資期間3年以上40年以内で応じている。東日本大震災のあった2011年度以降、件数、残高ともに、順調に推移しているという。
琉球銀行でも、沖縄県外からの移住や、県内在住者のセカンドハウス取得のためのセカンドステージローン「沖縄大好き暮らす」や、アパートローン「沖縄大好き夢」といったローン商品を揃えている。
ラグジュアリーホテル、新築ホテルコンドミニアムも
コロナ禍ではあるが、りゅうぎん調査(2022年9月号)によると、沖縄への観光客数、県内主要ホテルの稼働率、売上高、宿泊収入は7カ月連続で前年を上回った(2022年6月)。10月11日以降、1日当たりの入国者数制限の撤廃など水際対策も緩和される予定だ。那覇空港においてもインバウンドの受け入れが段階的に再開され、観光需要は徐々に回復に向かうとみられる。
こうした中、最低でも1人1泊5万円前後の宿泊料がかかる、外資系ラグジュアリーブランドホテル(外資系最高級ホテル)が、沖縄でも続々と誕生している。
2012年に開業した「ザ・リッツカールトン沖縄」を皮切りに、「イラフSUIラグジュアリーコレクションホテル沖縄宮古」(2018年)、「ハレクラニ沖縄」(2019年)と続き、2024年には、「フォーシーズンズリゾートアンドプライベートレジデンス沖縄」と「ローズウッド宮古島」が開業予定である。
また外資系最高級ホテルの開業ラッシュと並行するように、ホテルの客室を所有し、自身が利用しない時は貸し出す「ホテルコンドミニアム」が誕生している。こうした動きは沖縄本島だけでなく、石垣島や宮古島などでも見られ、新たな開発計画も動いている。
例えば、東急リゾートによる新築ホテルコンドミニアム「STORYLINE 瀬長島」は、那覇空港より車で約10分の場所に位置し、プール、スパ、フィットネスジム、ラウンジ、レストラン他を備える。ホテルの部屋数は101室、2024年1月引き渡し予定で、52.38平米から55.24平米の部屋が6420万~6740万円で売り出されている。
その他、沖縄本島のホテルコンドミニアムでは、「HIYORIオーシャンリゾート」、「ホテルサンセットヒル」、「グランディスタイル沖縄読谷ホテル&リゾート」、「カフーリゾートフチャクコンド・ホテルレジデンス棟」などがある。
沖縄本島だけでなく、石垣島でも初の新築ホテルコンドミニアム「ホテルコンド VIVOVIVA 石垣島」が誕生する予定(2024年2月下旬)であり、販売代理の東急リゾートによると、全98室のうち、例えば、A棟6室(占有面積56.40~85.77平米)が、販売価格6840万~1億1710万円で募集されている。
ホテルコンドミニアムとは
先に紹介した「ホテルコンドミニアム」は、分譲マンションのように完成前からホテル客室が部屋ごとに販売される。一部屋の所有権を購入し、オーナーとなる。その際、別途、ホテル運営会社と管理契約を結び、オーナー自身が利用しないときは、一般客にホテルの一室として貸し出し、経費を差し引いた宿泊料金を客室レンタル収入(インカムゲイン)として得ることができる。
なお、所有者であるオーナーももちろん、自己保有する部屋を利用することができる。通常はホテルとして運用されているため、ホテルとしての快適なサービスを享受できる。物件によっては、一部のホテルコンドミニアムは流通市場において販売当初の価格よりも高値で取引されており、キャピタルゲインが狙える場合もある。
ただし当然、ホテル宿泊需要が低迷したままで、インカムゲインの減少が続けば、管理費や積立金が持ち出しになったり、資産価値の下落により、含み損や売却損が発生するリスクも出てくる。
こうしたニーズを受けて、西京銀行が、東急リゾートが購入を斡旋する沖縄県内ホテルコンドミニアム(新築物件・仲介物件)の購入資金限定ながら、個人向けのホテルコンドミニアムローンを導入している。融資限度額最大1億円(販売価格の70%を上限)、借入年数は最長35年、融資金利は1.98~2.45%である。
沖縄独自の「軍用地」の存在
沖縄といえば基地問題も忘れてはならない。沖縄本島の14.6%が米軍基地で占められており、自衛隊基地もある。また沖縄防衛局・沖縄県の資料によると、米軍基地・自衛隊基地ともに約77%は民公有地で、土地所有者はあわせて5万4726人(2021年3月末)にのぼる。
国は、これら地主と賃貸借契約を締結し、軍用地として米軍や自衛隊に提供・使用している。地主に国から支払われる賃借料は、毎年1%程度上昇しており、合計では約1012億円の借地料が支払われている(2020年3月末)。
軍用地にはアパートのような修繕費用がなく、固定資産税も低い。国が借主であり、毎年賃借料が上昇していることから、老後や沖縄移住後のための収入物件としても人気がある。
なお、軍用地の売買価格は、「年間借地料×倍率」という特殊な方法で算出されている。
例えば、極東最大の米軍基地である嘉手納飛行場の面積は約2000ヘクタールと成田空港の約2倍。土地所有者は、1万3436人、年間借料額は約299億円にのぼる。皮肉にも日本への返還可能性が低く、その広大な面積と地主数から流通量も多い嘉手納飛行場の軍用地では、倍率が50倍から60倍を超えるケースも多く、高値で取引されている。
軍用地ローンも提供
こうしたなか、地元の銀行では、独自の担保評価ノウハウを駆使しながら、軍用地のオーナー向けにローンを展開している。
例えば沖縄銀行では、軍用地を担保に借入する「軍用地ローン」と「枠々軍用地ローン」を用意している。前者は、借入金額2億円以内、期間25年以内で、資金使途自由。後者は、当座貸越のカードローンで極度額5000万円以内、3年ごとの自動更新だ。また沖縄海邦銀行では「軍用地主ローン」を用意しており、借入金額1億円以内、期間25年以内で、資金使途自由となっている。
人口増加が続き、旅行先や移住先としても選択肢となる沖縄では、地元の銀行などによるローン商品も豊富ではある。
もっとも、ホテルコンドミニアムや軍用地などは特殊性もあり、多くの不動産投資家がすぐに参入できる市場ではないかもしれない。しかしながら、コロナ禍にも関わらず、沖縄の不動産にはなぜ国内外から投資が集まるのか、そのからくりを知ることで、何らかの投資の参考になれば幸いだ。
(高橋克英)
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