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住宅設備・建材メーカー各社が続々と値上げに踏み切っている。
今年4月以降から多くのメーカーが値上げを行ってきた。さらに10月には、LIXILやTOTOなど大手メーカーも価格改定を実施する予定。20~30%の値上げとなる商品もある。新築価格やリフォーム費用に影響が出れば、不動産投資においても収支が悪化する可能性がある。
実際、投資家の中には、すでに値上げの影響を受けていると訴える人も多い。築古物件など、修繕費が高くなりがちなケースほどその影響も大きくなる。
投資家として、この値上げに対してどのような対応ができるのか。実際に値上げを実感しているという投資家に話を聞いた。
今秋、値上げに踏み切る企業は
以下は、今秋値上げを行う主要な建材メーカーと、値上げ率の一覧をまとめたものだ。水回り、内外装材、塗料、ガラス、断熱材などの各建材で、数%から40%の値上げとなっている。
キッチンやトイレ、バスルームなど水回り設備を扱うLIXILは、10月3日受注分から値上げを実施する。具体的には、トイレは2~14%、水栓金具は4~19%、ユニットバスルームは5~24%、キッチンは5~10%、洗面化粧台は1~12%、金属サイディングは15~27%の値上げとなる(インテリア建材のみ9月1日受注分から値上げ)。
LIXILが今年7月に実施した2022年4~6月期決算説明会で、瀬戸欣哉社長は「値上げの原因は原材料価格などの高騰にある」と説明。さらに、コスト上昇への対応費用は約1420億円にのぼると明らかにした。

※三協立山の住宅 商品全般とエクステリア商品全般は11月11日受注分より価格改定
決算説明会で瀬戸社長は「コスト上昇の半分は、サプライチェーン寸断への対応によるものだ。コロナの影響で、海上貨物からエアフレート(航空貨物)を使わなければならず、またベトナムのロックダウンにより国内の工場で商品を作らざるを得ない状況にもなった」などと背景を述べた
外装材メーカーも値上げを実施する。旭化成子会社の旭化成建材は、建物の壁や床に使う軽量気泡コンクリート(ALC)の価格を10月出荷分から15%引き上げる。同社担当者によれば、「社会情勢における資材価格の高騰の影響が大きい」と話す。主原料の鉄やセメントなどが高騰しており、値上げに踏み切る形となった。
内装材のメーカーも8月ごろから値上げが続く。内装材大手のサンゲツは、10月1日受注分から、壁装材や床材、椅子生地などの価格を7~12%程度値上げする。2021年9月21日、2022年4月1日の価格改定に続き、3度目の値上げとなった。
IR広報室の担当者は「ここまで原材料費の高騰が続き、3回目の価格改定になるとは全く想定していなかった」と話す。特に、壁紙や床材の原材料であるポリ塩化ビニル(塩ビ)、ナイロンなどの化学製品の高騰が著しいという。

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一方で同社は、今回の値上げは「業界の将来のために必要なもの」という見方も示している。壁紙などの内装材は、近年値上げができておらず、むしろ徐々に単価が下がってきていた。そのため一部の製造業者が事業から撤退するなど、業界全体で利益が得にくい構造となっていた。
「長期的な事業の継続という観点からも、値上げすることで利益を確保して安定供給を目指していきたい」とサンゲツの担当者は話す。そういった背景もあり、「たとえ原材料費の高騰が落ち着いたとしても、長期的に事業を継続していくため、今後の値下げは基本的にしない方針」という。
中小工務店は危機的状況に
各メーカーの値上げを受け、リフォーム業者などの工務店にはどのような影響が及んでいるのだろうか。住宅不動産関連に詳しいライターの高幡和也氏は、特に中小の工務店は窮地に陥っていると話す。
「2年前から続く建材価格の値上げに対して、工務店はこれまで、建物価格やリフォーム価格にコストを上乗せする形で対応してきました。しかし、当初坪単価3万~5万円程度の値上げだったものが、直近では坪単価8万~10万円、最大で坪単価15万円にまで値上げせざるを得ないようなケースもあります。実際、東京や神奈川などでは、30~40坪の土地で、新築戸建ての販売価格はおおよそ600万円近く上昇しているようなこともあります」という。
多少の値上げであれば許容できても、コストの上昇幅がここまで大きくなると、購入を諦める人も増える。結果的に、建物を売ることができない工務店も出てきているという。資材の仕入れが困難なため、中には新築建売や建築条件付き土地での販売をあきらめ、土地の売買のみを行っている工務店もあるという。「できることを考えて、なんとか食いつないでいる状況」と高幡氏は話す。
建材価格の高騰がいつ落ち着くのか、全く先は見えていない。高幡氏は「木材価格の高騰、いわゆるウッドショックは、在庫が増えてきたことで徐々に落ち着いてきているように感じます。木材価格が値下がることで、その他建材価格の値上げ分をいくらか吸収してくれる可能性もあるでしょう」と語る。
値上げがあっても、家賃に転嫁できず
では、実際にリフォームなどを行う不動産投資家は、建材価格の値上げを実感しているのか。また、値上げに対してどのような対応を行っているのだろうか。
築古物件を多く所有する実践大家コラムニストの「築古大家のコージー」さんは、「2割ほど価格が上がっていると感じます」と話す。
現在コージーさんは、今年8月に購入した重量鉄骨造アパート(築43年)の2部屋をリノベーションしている。3点ユニットの分離工事やキッチン設備の取り換えなどだ。特に、単価の高いユニットバス関連の値上がりにはかなり打撃を受けているようだ。
「前々から値上げの話は聞いていましたが、実際の見積もり金額を見た時はため息が出ました。仕方がないことなので割り切っていますが…。大家として難しいのは、この値上げを家賃に転嫁できないことです。いかにして現状の家賃を維持するか。細かい支出を抑え、リフォームの方法も費用を削減できるよう模索していくしかない」(コージーさん)
また、今後は傷みのかなり激しいボロボロの中古物件が市場に出てくる可能性も考えられるという。
「リフォーム費用があまりに高いので、修繕を一切行わずに売却するような案件も出てくることでしょう。リフォーム経験の少ない初心者が手を出すにはハードルが非常に高いので、購入判断は慎重にしてほしい」と話す。
同じく実践大家コラムニストの「しげお@」さんも、建材価格の値上げを実感しているという。キッチンやトイレなどの水回り設備の交換を最近行い、以前に比べて1割程度値上がっていたようだ。
「新築や築浅物件の場合は、入居希望者のニーズに合わせて新品を仕入れるべきでしょう。しかし、中古物件であれば、型落ちの中古品でも十分だと思います。価格は格段に下がるので、新古品に代替するようにしています」(しげお@さん)
また、完全無借金で物件購入をしている実践大家コラムニストの「ゆたちゃん」さんも、想定以上の値上がりに困惑している。
「保有物件の空き部屋で、畳をフローリングに変えて洋室化することを検討していました。しかし、業者に見積もりを取ると、以前より3万円以上も値上がりしていました。今回は2部屋分の洋室化を実施予定だったので、バカにならない出費です」
ゆたちゃんさんは検討の末、木材加工の経験豊富な大家仲間に協力を仰ぎ、DIYで洋室化することに。4日ほどで工事は完了し、2部屋で約8万円の費用削減になったという。
「同じ工事内容でも、以前と同じ費用ではもう工事できない。私は専業大家で幸い時間があるので、一部DIYをすることでコストの削減を行っています」と話す。「特に、フローリング材やコンパネの値上がりが顕著で、コンパネ材は以前から2倍ほどに価格が上がっている」という。

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◇
原材料の高騰などで、大手メーカーも想定していなかった値上がりが続いている。今後も値上がりが続く可能性を見越して、先輩大家が実践しているような対策を参考に対応していきたい。
新型コロナウイルスによって発生した流通網の混乱が徐々に解消されることで、価格上昇は落ち着くのか。引き続き情勢を注視したい。
(楽待新聞編集部)
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