PHOTO:EKAKI/PIXTA

こんにちは。税理士の斎尾です。

9月4日に公開した記事『大家さんの手取りが最大化する「役員報酬額」はこれだ』は多くの方から大変な反響をいただきました。お読みいただき、ありがとうございました。今回は、前回の記事に関連した内容となりますので、読まれていない方はぜひ、前回の記事もご覧ください。

今回のテーマは、「法人成りの損益分岐点」です。前回同様、よくある大家さんからの質問を例に挙げながら解説していきます。


【大家さんからの質問】
私は、すべての物件を個人名義で所有する専業大家です。不動産利益(生活費や税金を支払う前の利益)は1000万円程度となる見込みです。
法人を設立し、利益を役員報酬という形でもらえば、給与所得控除の対象となるため節税になるでしょうか?

【東大卒税理士の回答】
利益を役員報酬でもらうことを目的に法人成りをすると、社会保険料が増えるため、かえって手取りが減ってしまいます。しかし、利益を配当という形でもらうことによって、個人事業よりも手取りを多くすることができます。


どういうことなのか、以降で詳しく見ていきましょう。

個人事業より会社の方が税金が安い?

個人事業から法人成りして、利益を役員報酬にすると、税金が安くなると言われます。本当にそうなのでしょうか? 実際に計算してみましょう。以下の表をご覧ください。

※国民健康保険の保険料は市町村によって異なりますが、所得の10%として計算しています

不動産利益(社長の人件費や税金を支払う前の利益)が1000万円だとしましょう。表左の個人事業主の場合、1000万円の利益に対し、個人事業税が34万円、所得税等と住民税が182万円、合計216万円の税金がかかります(消費税は除く)。

一方表右のように、これを会社の利益として、最大限の役員報酬を支払った場合はどうでしょうか。この場合、年間の役員報酬は867万円、事業税はゼロで、所得税等と住民税を合わせても118万円しかかかりません。つまり、役員報酬の方が約100万円も税金が安いことになります。

これだけ見ると、「よし、さっそく会社を作ろう!」と思いますよね。しかし、会社にすると社会保険に入らなければならない、ということを忘れてはいけません。

表を見ていただければ分かるとおり、健康保険や年金にかかる費用は、個人事業が117万円であるのに対し、役員報酬だと246万円もかかります。129万円の出費増となりますので、トータルでの手取りは31万円のマイナスです。

不動産事業に限らず、一般的に利益が1000万円にもなると、節税のために法人成りを勧められます。しかし、普通に法人成りをすると、このように逆に資金繰りが悪化してしまうことがあります。従業員を雇っていれば、従業員の社会保険料も半分負担しますから、それだけで経営難に陥る可能性もあるのです。

社会保険料を低く抑えるには?

個人事業から法人成りすると、社会保険に加入しなければならないため、かえって手取りが減少してしまうケースがあることをご説明いたしました。では、法人成りはやめた方がよいということなのでしょうか?

実は、前回の記事でご紹介した「役員報酬を減らして配当で受け取る」方法を取ることで、法人成りによって手取りを増やすことができます。

前回の記事で検証しましたが、不動産利益が1000万円のとき、最も手取りが多くなるのは役員報酬が年間111万円(月額9万2500円)のときでしたね。では、この場合と比較してみましょう。

会員限定記事です

この記事の続きを読むには、会員登録が必要です
会員登録(無料) ログインする