
PHOTO: barman/PIXTA
サラリーマンが「副業」で得た収入などの扱いをめぐり、国税庁は7日、8月に公表した「所得税基本通達」の改正案を修正したと発表した。
年間300万円以下の副業などの収入について、原則として「雑所得」として扱うとした改正案に対し、反発が大きかったことが修正の背景にあるとみられる。修正前の改正案をめぐっては、公表直後からネット上で物議となり、楽待新聞でも取り上げていた。
今回の修正により、収入額で所得区分を判断するのではなく、帳簿書類の保存があれば、原則として、「事業所得」とする方針に変更するようだ。
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改正案に対し7000件超の意見
サラリーマンなどが副業で得た収入は、「事業所得」になるのか「雑所得」になるのか―。
8月に公表された「所得税基本通達」の改正案では、副業の収入額について「年間300万円」という基準を設け、年間300万円以下は原則「雑所得」とすることが示された。
収入が「事業所得」ではなく「雑所得」として扱われると、所得間で赤字と黒字を相殺する「損益通算」ができなくなるなど、副業をするサラリーマンなどにとってデメリットが大きい。
改正案に対し、国税庁にはパブリックコメントで7059件の意見が寄せられた。「今回の通達改正は、副業を推進する政府の方針に逆行するものではないか」「副業の事業収入が300万円を超えない場合が多い」「300万円以下の副業であっても事業所得と取り扱うべき」など、改正案への疑問や反発の声も多かった。
「300万円」の線引きを撤回
「所得税基本通達」の改正案はどのように修正されたのだろうか。7日に公表された資料によると、通達のうち「業務に係る雑所得の例示」の一部を以下の通り修正した。
○修正前
事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。
○修正後
事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。
なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。
修正前は、本業以外の収入(つまり副業収入)が300万円以下の場合は、原則として「雑所得」として扱うことが読み取れる。一方、修正後は、帳簿書類がない場合は「雑所得」として扱われるとなっており、修正前と内容が大きく変わっていることがわかる。
この修正について、和田晃輔税理士は「帳簿の有無だけで、事業所得と雑所得が分けられるわけではない。社会通念上、『事業』といえるかどうかが大前提ということには変わりがない」と指摘する。例えば、毎年赤字で事業として明らかに成立していないような場合、帳簿があるからといってそれだけで事業として認められるわけではないということだ。
そもそも、8月の改正案が公表された背景には、サラリーマンなどの間で、副業の事業所得を意図的に赤字にして所得税を減らす節税スキームが横行していたことがある。和田税理士は「こうした行為は脱税にあたる。基本通達の改正には、野放しになっていた脱税行為をけん制する狙いがあったはずだが、今回の修正でそれが骨抜きになるのではないか」とみている。
「事業所得」に必要な帳簿とは
今回の修正によって、どのような影響が考えられるのだろうか。国税庁はパブリックコメントに寄せられた意見に対し、国税庁の考え方を示した。それによると、本業か副業かで所得区分を分けるのではなく、「(副業の)収入金額が300万円以下であっても、帳簿書類の保存があれば、原則として、事業所得に区分される」としている。
また、帳簿の保存を「事業所得」の条件とする理由については「一般に帳簿書類の保存がある場合には、営利性や有償性、継続性や反復性、自己の危険と計算における企画遂行性があると考えられる」としている。つまり、帳簿を作成している場合は、一般的な「事業」の要素を備えていると考えられるということだろう。
では、「事業所得」と認められるために必要な「帳簿」とは、どのようなものだろうか。
事業所得や不動産所得がある人が確定申告をする際、「青色申告」と「白色申告」という2種類の方法がある。青色申告は「総勘定帳」「固定資産台帳」などの正式な方法で記帳された書類が必要なのに対し、白色申告は、比較的簡易な方法で帳簿を記載すればよいことになっている。
和田税理士によると、帳簿を作成する際は、国税庁のホームページに掲載されている白色申告の帳簿保存方法が最低限必要な目安になる。
事業に関係する売上げや経費などを網羅的に把握できるものであれば、一般的には家計簿的なものや、ノートにメモしたものでもよいようだ。
◇
「所得税基本通達」の改正案への反発を受けて、国税庁が行った異例の修正。これによって、300万円以下の副業収入があるため胸をなでおろしたという人も多いのではないだろうか。ただ、国税庁が本来やりたかったのは、意図的に収入を赤字にする節税スキームにメスを入れることだ。過度な「副業節税」を、当局がこのまま野放しにするとは考えない方がよいだろう。
(楽待新聞編集部)
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