
PHOTO:PIXTOKYO/PIXTA
新築物件を検討する際、つい価格にばかり目が行きがちだ。しかし、建物が予定通りにできあがるのかという「工期」も重要である。工期の遅れは、オーナーだけでなく、入居者やテナント、さらには施工者側にもさまざまな問題を引き起こすためだ。
ところで、工期が遅れる要因の1つに「人手不足」が挙げられる。そして今、建設労働者不足はまさに深刻な状況にある。
そこで今回は、その実態を詳しく知るために、国土交通省の「建設労働需給調査」を確認しながら、建設労働者不足の問題を見ていきたい。
人手不足は深刻化している
本稿で取り上げる「建設労働需給調査」は、建設業における労働者の需要と供給の状況をまとめたものだ。
調査の対象となるのは、建設業法上の許可を受けた法人企業(資本金300万円以上)。調査対象職種の労働者を直用する建設業者のうち、約3000社に調査を行っている。対象となる職種は、型わく工(土木)、型わく工(建築)、左官、とび工、鉄筋工(土木)、鉄筋工(建築)、電工及び配管工の8種である。なお、以降では、建設需給を「過不足率」で示しているが、数値がプラスの場合は不足の%を、マイナスの場合は余剰の%を示している。
さて、まずは過不足率をまとめた以下のグラフを見てほしい。8職種で不足が1.6%となっており、前月比で不足幅が0.5ポイント拡大している。ちなみに前年同月は0.6%の不足だったので、前年同月比でみた場合は1.0ポイント不足幅が拡大していることになる。
電工、配管工を除く6業種では2.2%の不足となり、前月から0.6ポイント不足幅が拡大している。前年同月は0.8%の不足だったので、前年同月比では1.4ポイント不足幅が拡大したことになる。

対象の職種は上記の8種類。直近では不足率が上昇傾向にあり、8月の調査では8職種合計で1.6%の不足となった(国土交通省『建設労働需給調査結果(令和4年8月調査)』より著者作成)
建設労働者不足は慢性化している。2020年1月からの建設労働需給の過不足率を見ると、8職種では2020年4月、2021年4、5月を除いたすべての月で不足状態となっている。2020年に入ると、東京オリンピックに向けた建設需要が終わり、建設労働需給は不足感が薄らいだ。8職種では2020年4月に0.1%の余剰に、6職種では5月に0.0%(過不足なし)まで需給は緩和している。
その後、2021年1月からは、緊急事態宣言や建築資材の高騰に伴う建築費の上昇などと相まって需給が緩み始め、2021年4月には、8職種で0.3%の余剰、6職種では0.5%の余剰となった。
ところが、政府のまん延防止等重点措置が解除され、経済活動が徐々に回復すると、21年9月から労働需給は不足感を強める。12月には8職種で1.8%不足、6職種で2.2%不足まで需給はひっ迫した。その後も需給が緩むことはなく、不足感は高止まりし、22年7月からは再び、ひっ迫感が強まっている。
職種別の需給状況は?
次に職種別の需給状況を見てみよう。
まず、鉄筋コンクリート用の型わくを組み立てる技術者である「型わく工」は、土木工事で前月の0.9%不足から1.3ポイント増加して2.2%の不足に、建築工事で前月の4.1%から0.2ポイント減少して3.9%の不足となっている。
鉄筋コンクリートの骨組みとなる鉄筋を施工する「鉄筋工」は、土木工事で前月の0.8%不足から0.5ポイント増加して1.3%の不足に、建築工事で前月の1.1%不足から1.1ポイント増加して2.2%の不足となっている。

国土交通省『建設労働需給調査結果(令和4年8月調査)』より著者作成
次いで、モルタルや漆喰を塗ったり、タイルを施工したりする「左官」は、前月の1.7%不足から4.7ポイントも大幅増加し6.4%の不足に。要因は不明だが、左官が急激に不足している状況だ。なお、足場や躯体を組み立てる「とび工」は、前月の1.2%不足から0.3ポイント減少して0.9%の不足になっている。

国土交通省『建設労働需給調査結果(令和4年8月調査)』より著者作成
また、電気関係の工事に従事する「電工」は前月の0.4%不足から0.3ポイント増加して0.7%の不足に、水道管やガス管などを扱う「配管工」は前月の0.3%余剰から0.8ポイント増加して0.5%の不足になった。

国土交通省『建設労働需給調査結果(令和4年8月調査)』より著者作成
職種別の需給状況をまとめると、2021年1月からは、建築工事の型わく工、鉄筋工では、型わく工は恒常的に不足状態にはある一報、2022年7月から不足幅が増加している。一方、鉄筋工は例年のことだが、年末・年始の建設ラッシュで2021年12月から2022年4月までは大幅な不足となっていたが、その後は落ち着いた動きとなっている。ただし、不足している水準は例年よりも高い。
左官は21年8月から11月に不足状況が強かったが、その後は余剰状態になっていた。ところが22年4月から再び不足状況となり、前述の通り、8月は6.4%の不足と大幅な不足になっている。一方、とび工は年末の建設ラッシュで21年12月に2%を超える不足状態となったものの、その後は比較的に安定している。
職種の中で不足状況が軽微なのが、「電工」と「配管工」だ。両者とも2021年12月には年末の建設ラッシュで不足感が強まったが、その後は比較的安定している。ただ、電工は2022年7月から、配管工は8月から不足感が強まっている。
まとめ
ここまで見てきたとおり、少子高齢化の影響で、多くの業種で人手不足、特に若手の労働者が不足している。建設労働は肉体的にきつく、また危険を伴う面もあるため、人材不足が深刻化しやすい。
人員不足のままでは、請け負った工事をキャンセルせざるを得ない状況に陥ることもある。また、人員不足のまま工事を始めれば、事故やミスの可能性も高まる。かといって、人員を確保するために質の低い技術者を集めれば、クオリティが低下する、作業スピードが遅く工期に間に合わないなどの弊害が発生する可能性もある。
最後に、調査対象企業から回答があった、8職種における「今後の労働者の確保の見通し」も確認しておこう。11月の見通しについては、「困難」が21.8%と前年同月の19.7%から2.1ポイント増加している。

(国土交通省『建設労働需給調査結果(令和4年8月調査)』より著者作成)8職種の労働者確保の見通し
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建設労働者が不足し、工程通りに工事が進まなければ、次の工程を行う技術者に影響が及ぶ。建設技術者は1か月、2か月先まで工事現場の予定を組んでいるため、作業工程が遅れ、予定がずれると、その工事を飛ばして、次の工事にかかることになる。こうして作業工程が次々に後ずれをし、工期に間に合わない、完成予定に間に合わないという状況が起きることになる。
完成が遅れた場合、テナントの開店日や入居の遅れなどにつながる。そうなれば、オーナーにとっては賃料収入が得られず、また入居者も現在の住居の契約や、引っ越しの日時の変更・費用の増加といった影響が生じる。
また建設を請け負った側にとっても、「建築工事請負契約書」に記載の完成日より工期が遅れれば、違約金が発生するなどの問題が起きる。それを回避するために、遅れた工期を挽回しようとして、技術者を増やせば人件費などの経費の増加につながる。急ぐあまり、作業が雑になったり、手抜きになったりして、質が低下するおそれがある。
また一般的に、人手を確保しようとすれば、賃金の上昇に結び付く。賃金上昇は、建築コストの上昇につながり、建築会社の利益を圧迫することになる。ただ日本の場合には、賃金上昇の前に、そもそも人手(特に腕の良い職人)が不足しており、賃金を上げようが人手が集まらないというのが現実のようだ。
建設労働者の不足は住宅やマンションを取得する上では、非常に大きな影響があるのだ。取得を検討する際には、工事期間や工程、技術者の確保についても十分に建築業者に確認することをお勧めする。
(鷲尾香一)
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