
PHOTO: Ushico /PIXTA
10月16日に行われた2022年度の宅建試験。今年度の問題は、受験者の多くが、例年に比べて難しかったと噂しています。
本記事執筆時においてはまだ合格発表がされていないので何とも言えませんが、これで合格ラインが例年通り35~36点となると、受験者のレベルも上がっていることを意味し、今後の受験勉強の質と量に大きな影響を及ぼすことになると思います。
今回の記事では、今年度の問題から、「難問(正答率が低いだろう問題)」と思われる問題を取り上げて解説したいと思います。
初出題、「失踪宣告」の取り消しと不動産売買
今回は問7で、「失踪宣告の取り消しの効果」について出題されました。宅建試験では初出題となります。
【問7】不在者Aが、家庭裁判所から失踪宣告を受けた。Aを単独相続したBは相続財産である甲土地をCに売却(以下この問において「本件売買契約」という)して登記も移転したが、その後、生存していたAの請求によって当該失踪宣告が取り消された。
本件売買契約当時に、Aの生存について、(ア)Bが善意でCが善意、(イ)Bが悪意でCが善意、(ウ)Bが善意でCが悪意、(エ)Bが悪意でCが悪意、の4つの場合があり得るが、これらのうち、民法の規定及び判例によれば、Cが本件売買契約に基づき取得した甲土地の所有権をAに対抗できる場合を全て掲げたものとして正しいものはどれか。
1:(ア)、(イ)、(ウ)
2:(ア)、(イ)
3:(ア)、(ウ)
4:(ア)
答えは(おそらく)4だと思われます。
自信なさげに言ったのは、この点、学説上の争いがあるからです。
まず「失踪宣告」とは、生死不明の者(不在者)を、法律上死亡したものとみなす制度のことです。
不在者の生死不明の状態が長期化した場合、その者に関する法律関係が確定できず、財産関係や身分関係が長らく放置されることになります。残された者の地位もいつまでも不確定な状態にとどまることで不利益も生じるため、これらを解消するために設けられています。一定要件下で不在者を死亡したものとして扱い、相続、再婚、遺族補償、死亡保険金などの効果を生じさせることができます。
具体的には、不在者の生死が7年間明らかでないとき、または、戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者、その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後またはその他の危難が去った後1年間明らかでないときに、利害関係人が家庭裁判所に請求することにより行います。
しかし、失踪宣告が認められ、相続などが済んだ後に、実は生きていたということが判明することがあります。そのような場合、家庭裁判所は、本人または利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければなりません。ただし、その取り消しは、失踪の宣告後その取り消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼしません(民法32条1項)。
なお、「善意」というのは法律用語で「知らない」という意味です。ついでに「悪意」というのは「知っている」という意味です。
この点、相続人Bは、いずれにせよ失踪宣告があることを信じて財産を取得したというわけではないので(死亡したとみなされたことで相続したにすぎない)、保護される立場にはありません。
したがって、Bは善意であっても保護されません。Bは善意・悪意を問わず財産権を失います。既に処分している場合にはその対価を所持する法律上の原因を欠くため、不当利得返還義務(民法703条以下)を負い、Bは、自分が善意か悪意かで額に多寡がありますが、Aに売却代金を返還しなければなりません。
それに対して、Bから相続財産である甲土地を購入したCは、Aの失踪宣告を信じて新たに取引関係に入ってきたのであれば(無過失まで要求されるとする見解もあります)、取引の安全の観点から、保護されます。
そこで問題となるのが、その際、相続人Bが悪意であった場合、たとえCが善意であっても、Cは甲土地を取得できないのか、すなわち、Bの善意まで要求するのかです。
大審院時代の古い判例ですが「契約については、契約当時当事者双方とも善意であることを要する」とするものがあります(大判昭和13年2月7日)。つまり、Bの善意まで要求するのが判例です。
問題の解答としてはそれが正解と思われますが、近時、取引の安全のため、相手方(財産を取得した者)の善意だけで足りるとする見解が有力に主張されています(山野目章夫編集「新注釈民法(1)相続(1)」(平成30年11月30日)619頁参照)。
私個人の見解としては、かなり微妙な出題といえますね。学説の対立を知った上での出題なのか…。初出題でもあり、出題者の意図が知りたいところです。
「建築基準法」関連は、難問続く
次に、問18で出題された、法令上の制限の分野における建築基準法の難問を解説します。建築基準法についてはここ数年難問が続いており、学習でどこまで深入りすべきか悩むところですね。
【問18】次の記述のうち、建築基準法(以下この問において「法」という)の規定によれば、正しいものはどれか。
1 第一種低層住居専用地域内においては、神社、寺院、教会を建築することはできない。
2 その敷地内に一定の空地を有し、かつ、その敷地面積が一定規模以上である建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がなく、かつ、その建蔽率、容積率及び各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したものの建蔽率、容積率又は各部分の高さは、その許可の範囲内において、関係規定による限度を超えるものとすることができる。
3 法第3章の規定が適用されるに至った際、現に建築物が立ち並んでいる幅員1.8m未満の道で、あらかじめ、建築審査会の同意を得て特定行政庁が指定したものは、同章の規定における道路とみなされる。
4 第一種住居地域内においては、建築物の高さは、10m又は12mのうち当該地域に関する都市計画において定められた建築物の高さの限度を超えてはならない。
答えは3です。多くの方が2か3で悩んだようです。それもそのはず、2も3も過去に出題されたことのない条文からで、受験用のテキストにはそこまで深く書いていないものがほとんどだからです。
それぞれの選択肢を見ていきましょう。
▼選択肢1
神社、寺院、教会はすべての用途地域内で建築できます。もちろん、第1種低層住居専用地域内においても可能なので(建築基準法48条1項)、誤りです。
▼選択肢2
総合設計制度からの出題です。ビルを作る際に一定規模以上のオープンスペース(公開空地)をつくり、一般の人々が自由に出入りできるようにすることで、容積率や斜線制限などの高さ制限が緩和されるという制度です(建築基準法59条の2第1項)。
本問は、「建蔽率」という余計なものが含まれているので誤りとなります。
なお、オープンスペースは、通路や植栽・芝・池を整備した空間になっていることが多いです。行政としては、都市計画の観点で緑化整備や空地の確保等が進むこととなり、建築主側は大きな建物が建てられるため、双方にメリットがあります。
▼選択肢3
建築基準法上の道路についての問題でした。道路に関しては頻出分野ですが、なかなか難しい内容でした。
建築基準法42条には、建築基準法上の道路の定義が規定されています。基本的には4メートル以上の幅員の公道や私道をいいます。ただ、建築基準法が制定される前からある道が殆どなので、4メートルないものも多数存在します。
そこで、特定行政庁は、都市計画区域もしくは準都市計画区域の指定もしくは変更等により建築基準法第3章の規定(都市計画区域等における建築物の敷地、構造、建築設備及び用途に関する多くの規定が定められています。)が適用されるに至った際、現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道であっても、特定行政庁の指定することで、道路とみなし、その中心線からの水平距離2メートル(原則)の線をその道路の境界線とみなします(建築基準法42条2項)。
ただし、幅員1.8メートル未満の道を指定する場合等には、あらかじめ、建築審査会の同意を得なければならないことになっています(同条6項)。
したがって、幅員1.8メートル未満の道で、あらかじめ、建築審査会の同意を得て特定行政庁が指定したものは、道路とみなされるわけです。
▼選択肢4
第一種・第二種低層住居専用地域内または田園住居地域内においては、建築物の高さは、原則として、10メートルまたは12メートルのうち、その地域に関する都市計画において定められた建築物の高さの限度を超えてはなりませんが(建築基準法55条1項)、第一種住居地域内には同様の規制は存在しないので、誤りです。
頻出の「広告規制」でも難問が
最後に宅地建物取引業法の広告規制の問題を解説します。宅建試験では頻出分野です。
【問37】宅地建物取引業者Aがその業務に関して行う広告に関する次の記述のうち、宅地建物取引業法(以下この問において「法」という)の規定によれば、正しいものはいくつあるか。
ア Aが未完成の建売住宅を販売する場合、建築基準法第6条第1項に基づく確認を受けた後、同項の変更の確認の申請書を提出している期間においては、変更の確認を受ける予定であることを表示し、かつ、当初の確認内容を合わせて表示すれば、変更の確認の内容を広告することができる。
イ Aが新築住宅の売買に関する広告をインターネットで行った場合、実際のものより著しく優良又は有利であると人を誤認させるような表示を行ったが、当該広告について問合せや申込みがなかったときは、法第32条に定める誇大広告等の禁止の規定に違反しない。
ウ Aが一団の宅地の販売について、数回に分けて広告をするときは、そのたびごとに広告へ取引態様の別を明示しなければならず、当該広告を見た者から売買に関する注文を受けたときも、改めて取引態様の別を明示しなければならない。
1:一つ
2:二つ
3:三つ
4:なし
答えは、アとウが正しい内容なので2が正解と思われます。多くの受験者は1を選択しているようです。おそらく、アを誤りと判断したのかと思います。
少し自信なさげに言っているのは、この問題は、試験当日の解答速報時に、予備校間で解答が分かれたからです。
イとウは頻出分野であり、過去に類似の問題が何度も出ているので迷わないと思いますが、アが初出題であり、しかも、根拠が法律ではなく、国土交通省が発表する「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」といういわゆるガイドラインにあり、そこまで記述する受験用テキストがなかったので、難問となっているのでしょう。
▼選択肢ア
これは正しいと考えられます。
宅建業者は、宅地の造成や建物の建築に関する工事の完了前は、その工事に関し必要とされる都市計画法の開発許可、建築基準法の建築確認その他法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあった後でなければ、その工事に係る宅地建物の売買・交換(その媒介・代理)、貸借の媒介・代理の業務に関する広告をしてはなりません(宅建業法33条)。
この宅建業法の条文を受けて、前記ガイドラインでは、建築確認の変更について、次のように解釈しています。
(1) 法第33条の「確認」とは、建築基準法第6条第1項後段の規定に基づく確認(以下「変更の確認」という。)も含まれる。
(2) 建築基準法第6条第1項前段の規定に基づく確認(以下「当初の確認」という。)を受けた後、変更の確認の申請書を建築主事へ提出している期間においても、当初の確認の内容で広告を継続することは差し支えないものとする。
(3) 当初の確認を受けた後、変更の確認の申請を建築主事へ提出している期間、又は提出を予定している場合においては、変更の確認を受ける予定である旨を表示し、かつ、当初の確認の内容も当該広告にあわせて表示すれば、変更の確認の内容を広告しても差し支えないものとする。なお、いわゆるセレクトプラン(建築確認を受けたプランと受けていないプランをあわせて示す方式)においても、建築確認を受けていないプランについて変更の確認が必要である旨を表示すれば差し支えないものとする。
(4) また、マンションのスケルトン・インフィル等の場合、「具体的な間取りが定められた場合、変更の確認を受けることが必要となることもあります」との旨を表示すれば差し支えないものとする。
といった具合で、ガイドラインを引用する形で、問題文を作ったことはまるわかりですが、法律の条文上の根拠がないことから、受験者を苦しめました。
▼選択肢イ
この選択肢は誤りです。
宅建業者は、その業務に関して広告をするときは、その広告に係る宅地または建物の所在や利便性、代金等について、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはなりません(宅建業法32条)。問合せや申込みがなかった場合でも、同条に定める誇大広告等の禁止の規定に違反します。誇大広告をしたこと自体が問題であり、今後の取引の公正を確保するためだからです。
▼選択肢ウ
正しいです。
宅建業者は、広告をするときは取引態様の別(当事者・媒介・代理の別)を明示し、注文を受けたときは、遅滞なく、取引態様の別を明示しなければなりません(宅建業法34条)。その広告を見た者から売買に関する注文を受けたときも、改めて取引態様の別を明示しなければなりません。
◇
今回は先月の宅建試験から、「難問」を取り上げて解説しました。かなりレベルの高い問題もありましたが、日ごろからきちんと学習していた方では、例年の合格ラインを超える40点近くとっている方もいます。
勉強方法さえ間違えていなければ、難問恐れるに足らず。次回挑戦するという方も、日ごろの学習を大事にしていただければと思います。
(田中嵩二)
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