
PHOTO : necozawa / PIXTA
みなさんこんにちは。「不動産・相続専門税理士」の田中美光です。昔から不動産が大好きで、収益物件10棟、太陽光発電22基を所有する不動産オーナーでもあります。ですから、不動産オーナーさんのお悩みがよくわかるのです。この点を強みとし、私が代表を務める田中会計事務所では、不動産や相続関連の業務を専門に扱っています。
私は、納税者目線で徹底した節税対策を行ってきた「闘う税理士」です。この場では、不動産オーナーさんにぜひ知っていただきたい税金知識を、忖度なしでお伝えしていきたいと思っています。
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サラリーマンが毎年の所得税還付を狙って、節税のためにマンションの1室(区分所有と言います)や太陽光発電設備1基を購入するような小規模の投資については、他の書籍やHPなどでかなりの情報を得られるかと思います。しかし、以下のような「大口・不動産オーナー」の方に向けた節税対策の情報は未だ十分ではありません。
・一棟モノのアパート・マンションを所有している方
・いわゆる地主さんで土地・建物を数多く所有している方
・先祖代々の資産家一族で過去の相続事案で失敗した経験を持っている方
そこで今回から、数回にわたる連載として「大口・不動産オーナーの相続対策」をご紹介させていただきたいと思います。不動産・相続専門の税理士が皆様への繁栄を願って数々の秘策を伝授させていただこうと企画したものですので、存分にお役に立てていただきたいと思います。
そもそも相続税対策って?
「相続対策」は大きく次のように定義されることをはじめにご理解ください。
(1) 相続税対策:間近に迫ったあるいは将来にわたってかなり掛かるであろう「相続税を減らしたい、いわゆる相続税対策」
(2) 所有する不動産が自宅のみ、もしくは自宅+収益物件1棟のみで相続人が複数いる場合の「遺産分割+相続税対策」
(3) 離婚した先妻に子供がいる・腹違いの相続人がいる・配偶者しか相続人が存在しないなど遺産分割で揉めそうな一家
(4) 所有する不動産が非常に多岐にわたり、相続人及び後々の世代の末代までの維持・繁栄を考えた「総合的な相続対策・二次相続対策」
(5) ある程度遺言書や遺産分割対策は済んでいるものの実際に相続が発生した場合に現在保有する現金・有価証券・生命保険等を換金しても相続開始後10カ月の申告期限内に相続税を支払うことが出来ないと予想される場合の「相続税納税資金対策」
(6) 被相続人の認知症対策を含めた「財産管理対策」
ご自分が上記のどの対策が必要なのかを見極めて税理士にご相談ください。このように数ある相続対策の中から、今回は「相続税対策」について解説していきます。
初めの第一歩は「相続税の試算」
相続税対策を検討する不動産オーナーさんの多くは、税理士事務所と協力しながら行動していくこととなるでしょう。ここからは私の事務所での事例をもとに、一般的な相続税対策の進め方を解説していきます。
相続税について税理士事務所に相談すると、基本的には「相続税の試算」を最初に行います。「相続税の試算」とはまだオーナーさんが生きていらっしゃるうちに税理士に相談し、万が一お亡くなりになった場合に現在の資産や負債の規模で実際は相続税がどれくらい掛かるのだろうかと予め試算することです。
「相続税の試算」の必要性ですが、初めの一歩であるとタイトルに書いたようにこれ無しに立てた「相続対策」は全く無意味なものであることをはじめに理解してください。例えば、相続税を減らしたいがために
高額の借金をして、中古不動産を買ったものの空室が増えて借入金を返済できなくなり、不動産を手放す・自己破産する、など本末転倒にならないようにするためです。
「相続税の試算」で必要な資料は次の通りです。本番(実際)の相続税申告とは違いますのでそんなに精度の高い・細かい資料が必要なわけではありませんが、一般的には次のような書類を求められます。
・所有する不動産の最新の固定資産税の納付書(後ろにくっ付いている明細が重要です)のコピー
・貸している・借りている不動産の賃貸契約書のコピー
・金融機関ごとの最近の残高の一覧表
・オーナー様一族の家系図のメモ(生死の別・生年月日が分かるようにしてください。将来の相続対策を検討するため子・孫の分まで必要です)
・証券会社からくる配当や残高確認のお知らせまたは保有株式の銘柄、株式数が分かるもの
・加入している生命保険・損害保険の契約書のコピー
・ 銀行借入金の最新の返済予定表(借入金残高は債務控除と言って相続財産から控除(マイナス)することができるからです)
・ 申告書のコピー3年分(個人の確定申告書一式、会社を経営している場合は法人税の申告書一式)
このほか、事務所で用意した住宅地図を使って、所有される不動産の位置確認も行います。
とはいえ、プライバシーにかかわるので提出したくない資料がある、という方もいらっしゃるでしょう。この段階ではオーナーさんと税理士の信頼関係が構築されていない場合もあるので、こうした考えはもっともです。私たちの場合、そうした方には「初回の試算では無理に提出しなくてよいので、2度目以降の試算でより正確な結果が知りたい場合はためらわずにご用意ください」とお伝えしています。
少し時間がかかるかと思いますが、こうした情報をもとに、税理士事務所の方で1回目の試算を行います。たとえば、私の事務所で制作している試算報告書は以下のようなものです。

相続税試算報告書のイメージ(提供:田中会計事務所)

相続税試算報告書のイメージ(提供:田中会計事務所)

相続税試算報告書のイメージ(提供:田中会計事務所)

相続税試算報告書のイメージ(提供:田中会計事務所)
経験上、報告書をお渡しすると、「我が家の相続税はこんなにかかるのですか」という第一印象を持つ方がほとんどです。しかし資料が揃っていないなどの理由で、1度目の試算は不完全なものである場合も多いです。さらに正確な試算をご希望であれば、追加資料のご用意をいただくことになります。
ある程度正確な試算が出来上がった段階で、次のステップであるさまざまな「相続対策」のご提案へとつながります。そういう意味で「相続税の試算」は初めの一歩であり、「相続対策」に欠くことのできない重要な過程となるわけです。
「相続税の試算」に関する報酬は税理士によってまちまちなので、各事務所のHPなどでチェックした上で依頼するようにしてください。また、時間当たりで別途相談料が掛かることもございますのでご注意ください。基本報酬に土地の筆数や非上場株式の評価が加わる場合や、ご自宅への訪問が必要な場合などに金額が加算されるパターンが多いようです。
「試算」をもとに対策開始
さて、正確な試算の結果が出たら、いよいよ本格的な相続対策がスタートします。そのポイントは、算定された予想される相続税額・現在の家族構成・次の世代の家族構成・相続財産の種類・相続財産それぞれの評価額・相続人間で遺産分割に関してスムーズに進みそうか、それとも揉める可能性があるのかなどさまざま。条件によって進め方が変わってきます。
これからさまざまなケースをお話ししていきますが、今回は、まず1つの事例を紹介しましょう。
■ケース1:現段階では理想的なケース
・予想される相続税額は支払えそう
・相続財産を分割する方針が決まっている
・親族間の揉め事は無い
・次世代への財産引継ぎの方向性も決まっている など
この場合、合法的な手段で少しでも納税額を減らすことを心がけましょう。どなたも無駄な税金は支払いたくありませんし、節度のある節税をすることに何ら問題はありません。そのための対策としては次のようなものがあります。
以下、アルファベットで示す対策方法は、これからお話しする全ケースに共通する13の手法・手段です。手掛けやすい・難易度の低い順番にご紹介いたします。
A:年間110万円以内の贈与(暦年課税)で子や孫に少しずつ財産を移転して課税財産を減らす
B:生命保険契約に加入する
C:生命保険金と同様の非課税枠が設けられている退職金の非課税枠が使えるように条件を整備する
D:被相続人の居住用としている宅地に「小規模宅地等の特例」を満たすことができるよう条件を整備する
E:お墓など非課税財産を生前に購入して課税財産を減らす
F:養子縁組を活用して基礎控除額を増やし、相続人の税率区分を下げて相続税額を節税する。相続そのものを一世代飛ばすことにより相続税額を減らす
J:結婚20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与して「贈与税の配偶者控除」を受けて課税財産を減らす
H:18歳以上の子や孫に2500万円までの非課税枠内の生前贈与をして相続財産を減らす「相続時精算課税制度」を利用する
I:アパート・マンションを経営して相続税の評価額を下げて節税する
J:省エネ等住宅の資金を子や孫に贈与して1200万円までの非課税枠を利用して課税財産を減らす
K:結婚・子育て資金を子や孫に一括贈与して1000万円までの非課税枠を利用して課税財産を減らす
L:教育資金を子や孫に贈与して1500万円までの非課税枠を利用して課税財産を減らす
M:財産を特定の団体に寄附して非課税財産を増やして課税財産を減らす
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上に挙げた節税方法は、これからご紹介するどのケースにおいても有効です。ただし、そのご家庭にとって無理なく、節度を持って、あくまでも合法的に行う必要があることはご理解いただきたいと思います。
実行の際は、「相続税の試算」を依頼した相続・不動産の専門知識・数多い経験を持った信頼できる税理士と密に連絡を取りながら行ってください。A~Mの具体的な内容と注意点などについては、次回以降で詳しく紹介させていただきます。
(税理士・田中美光)
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