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家賃の滞納があった場合に、「一定の要件を満たせば、物件を明け渡したとみなして家財を処分できる」と定めた条項は適法か──。現在、最高裁でこの「明渡みなし条項」の有効性が争われています。

訴訟を起こしたのは、NPO法人「消費者支援機構関西」。家賃保証会社「フォーシーズ」が作成した契約書に、この「明渡みなし条項」が含まれており、これが消費者契約法に反するとして、条項の差止めを求めています。なお本条項について、2019年の1審判決では「違法」、2021年の2審判決では一転「適法」との判決が下され、裁判は最高裁までもつれることになりました。

11月14日には、最高裁で弁論も行われています。判決は12月12日に言い渡される予定です。

この訴訟では、どのような点が争点となっているのでしょうか。背景を含めて解説します。

争点となった条項

最高裁での争点は、フォーシーズが作成した賃貸借契約書の中のある2つの条項が、消費者の利益を一方的に害する違法なものかどうか、というものです。

その条項の1つが「明渡みなし条項」と呼ばれているものです。この明渡みなし条項は、次の4要件を満たす場合、保証会社は(借主の明示的な異議がない限り)物件の明渡しがあったものとみなすことができる、というものです(末尾参照条文の18条2項2号)。

1. 家賃を2カ月分以上滞納したこと
2. 合理的な手段を尽くしても借主と連絡がとれないこと
3. 電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められること
4. 本件建物を再び占有使用しない借主の意思が客観的に看取できる事情が存すること

そして、明渡しがあったとみなされた場合、物件内に残置された家財など動産類を、保証会社や貸主が搬出・保管することが可能になります(同18条3項)。

つまり、保証会社や貸主は、この条項の要件を満たす場合には裁判をすることなく明渡しを実現できることになるわけです。その点をとらえ、この条項は「追い出し条項」などと呼ばれています。

「自力救済」は原則禁止

ところで、自らの権利を司法手続によらず実力行使で実現することを「自力救済」といい、原則として禁止されています。

建物賃貸借の場面でいえば、借主が家賃をいかに滞納したとしても、自力救済、つまり司法手続(訴訟・強制執行)によらずに借主を退去させて家財を撤去することはできないのです。

仮に貸主が、部屋の鍵を替えて追い出したり家財を勝手に外に搬出したりすれば、不法行為として民事上は損害賠償請求の対象となります。また刑事上は、住居侵入罪や窃盗罪など刑事罰の対象となるのです。

このことは、たとえ契約書に「家賃滞納の場合には鍵を変えて家財を外に搬出します」と書いてあっても同様です。現在の裁判例では、このような契約条項は公序良俗に反して無効とされますので、結局、実力行使は違法となります。

そこで、今回の「明渡みなし条項」も同様に違法・無効なのではないか、ということでフォーシーズが訴えられたのです。

本件の条項は違法な「自力救済」に当たるか

本件で争点となっている「明渡みなし条項」も、違法な「自力救済」に当たるのではないか、という観点から問題となっています。前記の4要件を満たし、借主の明示的な異議がない場合に限るとはいえ、実力行使を認めるかのような内容となっているためです。

実際に1審判決(大阪地裁2019年6月21日判決)では、この条項によると、賃貸借契約がまだ終了せずに借主の占有が残っている場合にも家財の搬出などが可能になることなどから、条項は違法とされました。

これに対し2審判決(大阪高裁2021年3月5日判決)では適法とされ、話題を呼びました。2審判決では、前記4要件を満たす場合には、借主は「物件の使用を終了して占有を放棄した」と考えられることなどから、その場合に明渡しがあったとみなして家財の搬出などを行うことには合理性がある一方、借主が負う不利益は限定的だとして、条項は適法とされました。

11月14日に最高裁で行われた弁論で、消費者支援機構関西は、「民事執行の実務では、本人が不在で無価値物のみが残置されている状態であっても占有があるものと扱われていることを考えると、本件の4要件を満たしたとしても借主の占有は消滅しない。2審判決は適正手続に反するものだ」などと主張しました。

判決の言渡しは12月12日ですが、最高裁がどのような判断を行うのか(違法・適法の判断を下すのか、あるいは差し戻すのか)が注目されます。

今後の不動産賃貸実務への影響

現在の裁判例の下において、保証会社や貸主は、たとえ借主が家賃を長期間滞納して連絡が取れない状況であっても、司法手続によらない限り中の荷物を搬出することはできません。

そのため、特に借主が行方不明の場合、司法手続のコストとの兼ね合いで処理に悩むことが多いと思われます。

しかし、仮に最高裁において「明渡みなし条項」が適法とされた場合には、少なくともこの条項が典型的に想定するような場面では、この条項に基づく搬出行為などは適法(不法行為とはならない)と判断される蓋然性が高いといえそうです。

つまり、司法手続によらない明渡しの実現について、限定的とはいえ適法とされる余地が示されることになります。その意味で、実務に与える影響は少なくないものと考えられます。

もう1つの争点

なお本件ではもう1つ、争点となっている条項があります。

それが、借主が賃料などの支払いを3カ月分以上怠ったときは、保証会社が無催告で賃貸借契約を解除できる、という内容の条項です(末尾参照条文の13条1項)。

こちらは1審・2審ともに適法と判断されました。賃貸借そのものの当事者ではない保証会社に解除権を認めることなどが、消費者(借主)の利益を不当に害するのではないかが争われましたが、

・保証会社に解除権を認めなければ保証会社の損害が拡大し続けるおそれがあるためこのような条項には相応の合理性があること

・現在の裁判例上、3か月分以上の滞納があれば通常は信頼関係が破壊されたものとされて契約解除が認められるので、このような条項を設けても借主の不利益は特段大きくなるとはいえないこと

などを理由に、条項は適法とされました。

11月14日に最高裁で行われた弁論では、消費者支援機構関西は、「借主が債務不履行をした場合でも個別の事情により賃貸人が解除権を行使しない場合もあるのに、保証会社の判断で借主は容易に生活基盤を失わされることになる」などと主張しました。

この条項についても、最高裁がどのような判断を行うのかが注目されます。

(弁護士・関口郷思)

※参照条文(本件で問題となった契約書の条項の一部。当事者の表記部分を改変)

第13条(保証受託者等の原契約解除権)
1【保証会社】は、【賃借人】が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3ヶ月分以上に達したときは、無催告にて原契約を解除することができるものとし、…(以下略)。

第18条(賃借人の建物明渡協力義務)
2【保証会社】は、下記いずれかの事由が存するときは、【賃借人】が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる。
①(略)
② 【賃借人】が賃料等の支払を2ヶ月以上怠り、【保証会社】が合理的な手段を尽くしても【賃借人】本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない【賃借人】の意思が客観的に看取できる事情が存するとき。
3【賃借人】は、本件建物を明け渡したとき(前項により明渡しがあったものとみなされた場合を含む。)に、本件建物内(中略)に残置した動産類については、【賃貸人】及び【保証会社】において、これを任意に搬出・保管することに異議を述べない。