近年、不動産投資の一手法として注目を集めている「戸建投資」。一棟物件に比べて価格が安く、エリアによっては数百万円程度で購入できるという参入障壁の低さから、特に不動産投資の初心者を中心に人気が高まっている。

築古のいわゆる「ボロ戸建」を現金購入し、DIYリフォームでコストを浮かせ、高利回りを狙う手法も人気だ。戸建投資を「FIRE」の第一歩としている若い投資家も少なくない。

一方、そうした「ブーム」を背景に戸建物件の価格が高騰し、すでに投資妙味がなくなっている、と見る投資家もいる。実際のところ、戸建市場は過熱しているのだろうか。それとも、まだ参入の余地は残されているのだろうか。

本企画では全6回にわたり、「戸建投資」の現状を取り上げていく。第1回となる今回は、楽待に蓄積されたデータや、投資家アンケートの結果などを基に、戸建投資の現状を探っていきたい。

データで見る「戸建投資」の現状

1.表面利回り
まずは楽待内の掲載物件情報から、物件種別ごとの利回りの推移を確認してみよう。物件種別ごとに、表面利回りの平均値を算出している。

※2022年のデータは、2022年1月~10月のデータから推計した数値を使用

上図は、戸建、区分マンション、一棟アパート、一棟マンションそれぞれについて、表面利回りの推移をグラフにしたものだ。

戸建の表面利回りは11%を超えており、他の物件種別と比べて突出していることが分かる。2015年以降、緩やかに利回りが下降しており、2022年時点での表面利回りは11.8%となっている。ただし、新型コロナウイルス蔓延の影響などがあり、昨今は全物件種別で価格が上昇し、利回りも低下傾向にある。

2.新規物件登録数
続いて、楽待に新規登録された物件数の推移を物件種別ごとに確認する。新規物件登録数は、楽待に加盟する不動産会社が楽待サイト上に物件を登録した数のことを指す。

※2022年のデータは、2022年1月~10月のデータから推計した数値を使用

区分マンションの登録件数が突出して多い傾向にあるが、その他の物件種別では、どれも同様の推移となっている。戸建は2016年に約2万件登録されて以降、現在に至るまでほぼ横ばいとなっている。

3.資料請求数
次に、楽待に掲載された物件で、投資家から楽待サイト経由で資料請求があった件数を物件種別ごとに見ていこう。

※2022年のデータは、2022年1月~10月のデータから推計した数値を使用

グラフを見ると、2013年以降、一棟アパートは他の物件種別に比べて人気が高いことがわかる。一棟マンションと区分マンションは2018年ごろまで増加しているが、それ以降は鈍化している。戸建はそれらの動きとは異なり、資料請求数が急増していることから、人気が高まったと考えられる。

4.戸建物件の新規物件登録数と資料請求数
これまで抽出したデータを戸建物件に絞って見てみたい。以下は、楽待に掲載された戸建物件の「新規物件登録数」と「資料請求数」の推移を表したグラフだ。

※2022年のデータは、2022年1月~10月のデータから推計した数値を使用

新規物件登録数は2016年ころから約2万件を推移している。一方、資料請求数は2019年に2万件を突破。そのまま上昇を続け、2021年は約5万6000件となっている。データを見ると、2018年を境に供給に対して需要が大幅に増えていることが分かる。

なお、2018年以降は、「スルガショック」を機に融資の引き締めが加速した。金融機関が投資用不動産に対する融資審査を厳格化したことから、比較的価格が安く融資を組みやすい、もしくは現金購入が可能な戸建に問い合わせる投資家が増えたと見られる。

5.新規ニーズ登録数
続いて、楽待データ「新規ニーズ登録数の推移」から、戸建の需要について読み取ってみたい。ニーズ登録とは、希望する物件条件を楽待に登録できる機能のこと。エリアや物件価格、物件種別、表面利回りなど、どのような物件を探しているのかを楽待上に登録できる。

※2022年のデータは、2022年1月~10月のデータから推計した数値を使用

新規ニーズ登録の推移を見ると、2018年以降、物件種別によってニーズの新規登録数の推移が異なっていることが分かる。一棟マンションと区分マンションは減少傾向にある一方、戸建と一棟アパートは上昇に転じている。特に戸建のニーズ登録数が急増しており、2021年には区分を抜き、一棟マンションとほぼ同数になっている。ここからも戸建の需要が高まっていることが読み取れる。

6.戸建賃貸の市場動向レポート(47都道府県別)
楽待に登録された物件種別「戸建賃貸」の情報を、集計・加工してレポート形式にまとめた。47都道府県ごとに、楽待に新規登録された物件情報と、実際に投資家から資料請求のあった物件情報を比較している。実際にどのような物件に問い合わせが集まっているのか、参考にしてほしい。

※「戸建賃貸の市場動向レポート」PDFデータのダウンロードはこちらから

8割超が「戸建投資」を検討中

では、実際に収益物件を探して購入を検討している投資家は、現在の戸建市場をどう見ているのか。投資家207人に行ったアンケート回答をもとに確認していく。

まず、「現在、投資用戸建の購入を検討しているか」という質問には、85.5%(177人)の投資家が「検討している」と回答、「検討していない」と答えた投資家は14.5%(30人)だった。

n=207

購入を検討している投資家は、どのような理由で戸建を選んでいるのか。「投資用戸建を購入する理由を教えてください」(複数選択可)という質問に対しては、物件価格の安さに注目する投資家が多数を占める結果となった。「少額から投資ができる」という回答が最多(131票)で、「利回りが高い」(122票)、「入居期間が長い」(105票)が続いた。

その他の回答としては「将来的に建て替えがしやすい」「管理の手間が少ない」「本当は一棟アパートを購入したいが、目線に合う物件がないため戸建も選択肢に入れている」というものもあった。

続いては、探している戸建の物件価格についても聞いた。アンケートに回答した投資家らは、どの価格帯の戸建を探しているのだろうか。

価格帯としては、「300万~500万円未満」が最多(96票)で、「100万~300万円未満」(89票)、「500万~700万円未満」(61票)と続く。300万円前後の物件に票数が集まる結果となった。

今から参入できる? 投資家の回答は

今回のアンケートでは、「戸建投資へのこれからの参入は難しいと思うか」についても質問した。投資家の回答は以下の通り。

n=207

「これからの参入は難しいか」という質問に対して、「そう思う」は21.7%(45人)、「ややそう思う」は29.0%(60人)と、過半数の投資家が参入は難しいという意見を持っていた。一方で、「あまりそう思わない」は15.0%(31人)、「そう思わない」は6.8%(14人)で、全体の約22%を占めた。

上記の回答理由については、以下のようなコメントが寄せられた。一部を抜粋して紹介する。

【新規参入が難しいと思う理由】
・ニッチな市場にこそ旨味があったが、参入者がここまで増えたら利益を出すのが厳しい。今から参入してくる投資家に売却して、戸建投資からは撤退予定(40代後半/東京都)

・同じ物件で購入希望者(競争相手)が多くなり、値下げ交渉が難しいことが多々ある(40代後半/滋賀県)

・購入倍率が高く物件価格が上がり、お買い得物件は足が早い(50代前半/埼玉県)

・物件価格が高くなってしまい、戸建特有の利回りの魅力が薄れてしまっている(50代前半/千葉県)

・マンションに比べればまだ利幅は望めるが、立地や地域の特徴を見誤れば採算が合わなくなるリスクは高い(40代前半/栃木県)

・不動産会社にも付き合いがあり、現金購入希望者や決断の早い「慣れた人」に情報が集まっているような傾向を感じる(30代後半/岐阜県)

・今後、さらに融資が厳しくなる。そうなれば戸建であってもよほどの自己資金が必要になるので難しい(50代前半/東京都)

・物件価格の上昇に加え、建築資材や物価高騰で修繕コストが膨らむ予想なので、投資効率はさらに悪化してしまう(40代後半/静岡県)

【新規参入が難しくないと思う理由】
・相続物件が増えることが見込まれるため、空き家となった戸建などの供給は今後さらに増えそう(30代前半/新潟県)

・戸建は他の種別と比べて差別化しやすく、客層も明確にしやすいので魅力を伝えやすい(50代前半/福岡県)

・売値も上がっているので、買値が上がったとしても大きな問題ではない(40代後半/東京都)

・低価格の物件はまだ多数ある。参入自体はいつでも可能(30代前半/富山県)

これからの参入は難しいと考える投資家は、戸建の物件価格高騰を挙げる人が多い印象だ。修繕費用がさらにかさんでしまうと、利回りが大きく低下し、想定していた利益を得られないことにリスクを感じているようだ。また、競合する投資家が増えたことで、これまで指値をできていたものの、値下げ交渉ができない場面に出くわす人もいるという。

一方、まだ参入余地があると考える投資家は、特に「相続による空き家の増加」を理由に挙げる人が多かった。売りに困っている戸建は一定数あり、今後もその数は増えてくると予想している。

「そんな物件も購入するの?」戸建投資家の見方は

ここまで、楽待のデータやアンケートの集計結果を基に、戸建投資の現状を確認した。では、以前から戸建をメインに購入している投資家は、現在の状況をどのように見ているのか。3人の投資家に聞いた。

・「満額買い付けが増えて指し値が通らない」(えのさん)
投資歴8年、千葉県を中心に戸建を12戸所有する「えの」さんは、「物件価格の高騰を実感することが増えた」と話す。

えのさんが戸建を購入し始めたのは2015年頃のこと。当時、えのさんが物件を探していたエリアでは、450万~500万円ぐらいで売りに出されている戸建に対して、指値をしたうえで300万~350万円くらいで購入していたという。「それが今では、同じエリアの同じようなスペックの物件が、450万~500万円ぐらいの価格で満額買い付けが入っていることがほとんどです。以前の相場を知っている私からすると、そんな値段で買っちゃうんだ、と驚くことが多いですね」

・「買取再販業者の案件が増えている」(しげお@さん)
また、投資歴約5年で、7戸の戸建を購入してきた実践大家コラムニストの「しげお@」さんは、「戸建ブームにあやかり、戸建を多く取り扱う買取再販業者が増えている」と指摘する。例えば、不動産投資家が勉強を目的に集う大家の会にも、そういった不動産会社が入り込んでいるという。

「買取再販業者の中には、ボロボロで多額の修繕費用が必要になる築古戸建をほぼゼロ円で仕入れているところがあります。そういった物件に多額の利益を上乗せして、経験の少ない勉強を始めたばかりの投資家に土地扱い(古家付)で販売し、建物の修繕義務を逃れようとする話を聞きます」と話す。

・「地方ではまだまだ物件が見つかる」(Aさん)
一方で、そこまで過熱を感じておらず、変わらず戸建物件を購入している投資家もいる。投資歴25年で、築古戸建70戸を所有するAさん。今年は東京、静岡、名古屋、岐阜を中心に、14戸の戸建を購入した。

名古屋では少々値上がりを感じるものの、岐阜や静岡などでは物件価格の変化はあまり感じないという。「相続物件が多く、知り合いの司法書士から決済時に紹介を受けることもありました。それを考えると、戸建の物件価格が上がっていることを不思議に感じます。地域性があるのは間違いないですが、地方に行くと価格が上がっている感覚はありません」と話す。

基本的に毎回大幅な指値をして購入しているというが、エリアによって状況が大きく変わると強調する。「ポータルサイトに掲載されていた千葉エリアの戸建に問い合わせをしたことがあります。競争率が高いところなので、指値をしても全く相手にされませんでした。無理なところには手を出さないのが得策ですよね」と話す。

新規参入者が増え、物件価格も上昇傾向にある戸建投資。そうした中、購入できる物件が少なくなっていることから、利回りで妥協したり、多少のリスクを受け入れて購入する投資初心者も増えている。どういった戦略で戸建を購入するのかが重要になってきている。

明日公開の第2回は、戸建投資の経験が豊富な投資家が考える、「これからの戸建投資戦略」を紹介する。戸建ブームの中で、玄人投資家たちはどのような戦略で物件を購入しているのか。ぜひご覧いただきたい。

(楽待新聞編集部)

【特集「戸建投資」】
・楽待編集部
【全6回】戦略や収支、リフォーム事例など、戸建投資を「網羅的」に解説!

・実践大家コラム
【企画コラム】先輩投資家の「生の声」をお届け!

・楽待相談室
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