不動産賃貸において家賃滞納があった場合、一定の要件を満たせば「物件を明け渡した」とみなして家財を処分できる─。このように定めた条項が適法かどうかが争われた訴訟で12日、最高裁がこれを「違法」とする判決を言い渡しました。訴訟の概要については、以下の記事をご確認ください。
本記事では、この最高裁判決の内容を確認していきます。また、判決が今後の不動産賃貸業にどう影響するのか、という点についても考えてみたいと思います。
「追い出し条項」とは?
この訴訟は、家賃保証会社「フォーシーズ」が賃貸借契約書に用いている2つの条項について、消費者を害する違法な内容であるとして、適格消費者団体であるNPO法人「消費者支援機構関西」が当該条項の差し止め(使用禁止)を求めていたものです。
争点となった条項のうちの1つが「追い出し条項」と呼ばれる条項です。
追い出し条項とは、次の4要件を満たす場合、保証会社は借主の明示的な異議がない限り物件の明渡しがあったものとみなすことができ、家財など残置物を撤去することが可能となるというものです。
1. 家賃を2カ月分以上滞納したこと
2. 合理的な手段を尽くしても借主と連絡がとれないこと
3. 電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められること
4. 本件建物を再び占有使用しない借主の意思が客観的に看取できる事情が存すること
1審の大阪地裁判決(2019年6月)はこの条項を違法と判断しましたが、2審の大阪高裁判決(2021年3月)は一転して適法と判断。これに対しNPO法人側が上告を申し立て、11月14日には最高裁にて弁論手続が開かれました。このことから、その結論が注目されていました。
最高裁が「違法」と判断した理由
そして今日、12日の最高裁判決において、この条項が「信義則に反して消費者の利益を一方的に害する」として、消費者契約法に反して違法・無効と判断されました。判決の理由は概ね以下の通りです。
・この条項によれば(賃貸借契約の当事者ではない)保証会社の一存で物件の使用が制限されることになってしまう
・4要件を満たすとされた場合、賃貸借契約が終了していない(借主が明渡義務を負っていない)のに、法的手続によることなく明渡しが実現されることになり著しく不当である
判決の内容を見ると、今回の最高裁の判断は、改めて「自力救済禁止の原則」を確認したものであるといえます。
つまり、借主が家賃を滞納していたとしても、自力救済(実力行使)に及ぶことは許されず、強制的に借主を退去させるには、きちんと訴訟・強制執行といった法的手続を踏むべき、ということが示されました。
そのため、今回の判決により、現在の不動産賃貸の実務が特に変わるわけではないと思われます。ただし今回、最高裁が、「前記の4要件を満たす場合であっても違法」と判断した点は、最高裁の自力救済に対する厳しい姿勢の表れともいえますので、注意する必要があります。
もう1つの争点、「無催告解除条項」
本件で問題となったもう1つの条項が、借主が賃料などの支払いを3カ月分以上怠ったときは、保証会社が無催告で賃貸借契約を解除できる、という内容の条項です。
こちらは1審・2審ともに適法との判断がなされていましたが、最高裁はこれを覆し、違法・無効との判断をしました。最高裁は以下の点を理由に、この条項が「信義則に反して消費者の利益を一方的に害する」として違法・無効としました。
・条項を文字どおりに解釈すれば、保証会社が代わりに家賃を支払った場合でも解除が認められてしまうこと
・(賃貸借契約の当事者ではない)保証会社の一存で解除が行われること
・借主が負う不利益を考えれば、家賃滞納の場合であっても催告を行う必要性は大きいといえること
もっとも、この条項については貸主ではなく保証会社による解除であることが重視されたものといえます。そのため、通常の賃貸借契約の条項(貸主による無催告解除を認める条項)については本判決の範囲外といえます。
◇
不動産賃貸の実務において家賃保証会社の存在は大きくなっていますが、今回の最高裁判決は、借主保護という観点から家賃保証会社を牽制するものであるといえます。
実務において家賃保証会社に頼る場面は多いと思われますが、そこに限界があるという点は認識しておく必要がありそうです。
(弁護士・関口郷思)
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