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今年10月に行われた火災保険の改定では、保険料アップ以外にも保険金の支払い方法に大きな変更がありました。従来は修繕費の見積書をもとに保険金が支払われていましたが、原則として実際に修繕した場合のみ保険金が支払われるというものです。改定の背景には、悪質な保険金申請コンサルタントが介在した保険金の不正請求があるとみられます。

台風や地震で所有物件が被災した場合、多額の保険金が出る場合もあるでしょう。そのような場合、税金への影響が気になる方もいるのではないでしょうか。前編では、火災保険の加入時や解約時に発生するお金と税金の関係についてお話しました。

後編では、受け取った保険金が税務上どのような扱いになるかについて、個人と法人に分けて解説したいと思います。法人の場合、保険金が収入として課税されてしまう可能性もあります。課税所得を増やさないために行うべき、保険金の適切な処理方法を覚えておくことをおすすめします。

【関連記事】保険金は「後払い」に、10月からの火災保険は何が変わる?

保険金に税金はかかる?

Q1:所有物件が台風で被災し、保険金が100万円出ます。この保険金は課税対象になりますか

突発的な事故や災害で個人が所有する建物に損害が発生して保険金が出た場合、社会政策的な配慮により所得税を課税されることはありません。個人の場合、実際にかかった修繕費と同額を保険金収入として帳簿に記載すればよいため、収入から経費を引いた課税所得はゼロとなります。

一方、法人の場合は受け取った保険金全額を収入として計上する必要があります。実際にかかった修繕費より多い場合、差額が法人税の課税対象となります。例えば、100万円の保険金を受け取り、修繕費が80万円だった場合の帳簿上の処理は下表のようになります。

【法人】

保険金収入   100万円
修繕費     80万円
課税される所得 20万円

なお、受け取った保険金よりも修繕費が多くかかった場合は、個人でも法人でも差額分を課税所得から減額することができます。

例えば、修繕費が120万円かかったものの、保険金は100万円しかもらえなかった場合、下表のような計算になります。

保険金収入   100万円
修繕費     120万円
課税される所得20万円

「修繕」と「買い替え」はどちらがお得か

Q2:建物に設置していた給水設備が壊れてしまいました。保険金で修繕するか、買い替えるか、どちらがよいでしょうか?

一定年数が経過した設備は、壊れたのを機に買い替えを検討する場合もあるかと思います。修繕するよりも買い替えの方がお金がかかることが想定されますが、修繕か買い替えかで保険金の額も変わる可能性があります。

結論から言うと、個人の場合は新品に買い替えた方がお得と言えるでしょう。減価償却費を計上できる期間が長くなるからです。一方、法人の場合は買い替えると課税所得が増える可能性があります。以下で詳しく説明していきます。

例えば、修繕する場合には保険金が30万円、同じ性能の設備を新品で購入する場合には60万円が保険金として支払われるとします。なお、同じ価格の設備に買い替えた場合、壊れた設備(残存価値がある場合)と新しい設備の毎年の減価償却費は同額の10万円とします。

個人と法人それぞれで修繕する場合と買い替える場合、帳簿上の処理はどのようになるのか見ていきましょう。

(1)個人が修繕した場合

保険金収入    30万円
修繕費      30万円 
減価償却費    10万円(壊れた設備の減価償却費)
課税される所得 -10万円

修繕費のほかに、減価償却費が経費となります。このため、収入よりも経費の方が大きくなります。収入と経費の差額の10万円を課税所得から減額できることになります。

一方、保険金で新たに設備を購入した場合でも、初年度に全額を経費にすることはできません。いったん全額を資産に計上して減価償却することになります。

(2)個人が新品交換した場合

保険金収入    25万円(資産損失20万円と撤去費用5万円分以外は非課税)
資産損失     20万円(壊れた設備の残存価値)
撤去費用      5万円
減価償却             10万円(新しい設備の減価償却費)
課税される所得 -10万円

減価償却以外の経費としては、壊れた設備の残存価値20万円を資産損失として計上できます。また、壊れた設備の撤去費用の5万円も経費となります。

受け取った保険金60万円のうち、減価償却費以外の経費と同額の25万円が帳簿上の収入となります。

このため課税所得は、修繕した場合と同額となります。ただ、交換した場合には、次年度以降、減価償却費を計上できる期間が長くなるため、交換した方が有利になると言えます。

(3)法人が修繕した場合

保険金収入        30万円 
修繕費          30万円 
減価償却費        10万円(壊れた設備の減価償却費)
課税される所得-10万円

法人の場合、修繕するケースでは個人の場合と同じ考え方です。

保険金収入30万円に対して、経費が修繕費と減価償却費を合わせて40万円となるため、課税所得がマイナス10万円となります。

(4)法人が新品に交換した場合

保険金収入   60万円
資産損失    20万円(壊れた設備の残存価値)
撤去費用      5万円
減価償却    10万円(新しい設備の減価償却費)
課税される所得 25万円

これまで説明してきたとおり、法人の場合は受け取った保険金の全額が収入扱いとなります。

一方で、購入金額の全額が初年度に経費計上できるわけではありません。60万円の新品を購入した場合、複数年にわけて減価償却する必要があります。

保険金を受け取った年は、収入よりも経費が少なくなるため、課税所得が発生してしまいます。

ただし、後ほど紹介する方法で一時的に所得が増えないようにして課税を繰り延べすることもできます。

法人が保険金を受け取った年は税金が高くなる?

ここまで、保険金の扱いが個人と法人で異なるという話をしてきました。法人の場合は保険金を全額収入として計上する必要があります。そこで、以下のような疑問が湧いてくるかもしれません。

Q3:今年、保険金が支払われましたが、修繕工事が完了するのは来年になってしまいます。今年の課税所得が増えてしまいますか?

修繕工事が長引いて、保険金の受け取りと別の年度になるケースは多々あると思います。このようなケースでは、保険金収入のみが今期に計上され、経費と相殺できないため、保険金の全額が課税対象となってしまう可能性があります。

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