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2011年に消防法の規定に基づく「消火器の規格省令」が改正されたのをご存知でしょうか。この改正により、2010年以前に製造された消火器は型式失効として設置不可になりました。背景には、古い消火器の破裂事故が相次いだことが挙げられます。

多くの建物で古い型式の消火器が設置されている状況を踏まえ、2021年12月31日までは特例として設置が認められていましたが、現在は旧規格の消火器の設置は認められていません。

このことについて建物のオーナーが把握していなかった場合、消火器の交換が完了していない可能性があります。そこで本記事では、旧規格の消火器を利用し続けた場合の罰則規定や消火器を交換する方法を解説します。

消火器の設置義務がある建物は?

消火器の設置義務の有無は建物の用途や面積によって変わります。建物の用途は非常に細かく定められているため割愛しますが、大まかな基準としては以下の通りです。

【延面積に関係なく設置しなければならない建物】
劇場、映画館、飲食店(火を使用する)、病院、地下街など

【延面積150平米以上の建物】
百貨店、展示場、旅館、ホテル、共同住宅、公衆浴場、工場、倉庫など

【延面積300平米以上の建物】
小学校、中学校、高等学校、図書館、博物館、神社、寺院など

詳細は「一般社団法人日本消火器工業会」が公開している表より確認すると分かりやすいでしょう。

設置が義務付けられた建物では、型式承認された消火器を設置しなければなりません。未設置だった場合はもちろん、旧規格の消火器を設置していた場合でも消防法違反となるので、型式や製造年まで理解しておく必要があります。

罰則あり? 旧規格を設置し続けるリスク

旧規格の消火器を利用し続けた場合、消火器自体が未設置と見なされます。では、設置が義務付けられた建物で消火器が未設置だった場合は、建物の所有者にどのような罰則があるのでしょうか。

消防法によると、消防用設備等の設置維持がされていないと消防長または消防署長が認めた場合、「消防用設備等の設置維持命令(消防法第17条の4 第1項・第2項)」が発せられるとされています。

そして、設置維持命令を受けた後も設置しなかった場合「1年以下の懲役または100万円以下の罰金(消防法第41条の5)」が課せられます。

したがって、旧規格の消火器が設置してあることが発覚した場合でも、すぐに罰則が適用されることはありません。まず設置維持命令が発せられ、その後も命令に従わなかった場合に罰則適用となります。

とはいえ、悠長に構えていて良い問題ではありません。罰則を受けるリスクに関係なく、そもそも老朽化した消火器を設置し続けるのは安全上好ましくありません。実際、老朽化した消火器の破裂事故は多数報告されており、平成22年には消防庁より「老朽化消火器の破裂事故を踏まえた安全対策」が発表されています。

また、2011年の改正では規格の改正とは別に、点検基準も改正されています。具体的には製造年から10年経過した消火器または消火器の本体に腐食が認められるものについては、消火器内の圧力を点検する「耐圧性能点検」が義務付けられ、以降3年ごとの耐圧試験が必要となりました。

もしこうした基準を守られていない建物で火災事故が発生して死傷者が出た場合、所有者の責任が問われる可能性もあります。そのため、消防法の罰則だけでなく、火災事故が発生した場合の賠償責任リスクを回避する意味合いでも、法的基準を満たした消火器を設置することが極めて重要といえます。

新旧規格の消火器の見分け方

消火器の新企画と旧規格の見分け方は非常に簡単です。まず製造年が2010年以前のものは、すべて「旧規格」の消火器となっています。一方、製造年が2012年以降の消火器はすべて「新規格」です。したがって、製造年を見ればほとんどの場合、判断できるでしょう、

製造年が2011年の消火器の場合、新旧が混在していますが、適応火災表示のマークを確認すれば判別できます。以下の図の通り、適応火災のマークが「文字」で「普通・油・電気」と表示されている消火器は「旧規格」、適応火災のマークが「絵」で表示されている消火器は「新規格」の消火器です。

出典:大川広域消防本部「消火器の型式失効について」

文字と絵の違いを見れば分かるので、消防設備の知識のない方でも見極められます。気になる不動産オーナーの方は、身近にある消火器を手に取り早速チェックしてみましょう。

消火器を交換したい場合の対応とは

消火器を交換したい場合はどのようにすれば良いのでしょうか。

一定以上の規模の建物であれば、不動産管理会社へ消防設備点検を依頼しているケースが多いと思いますので、管理会社にお願いするのが基本です。

一方、自主管理している物件の場合は、オーナーが自ら手配する必要があります。とはいえ、消火器はホームセンターやネット通販でも3000円~2万円ほどで購入できるので、交換はさほど難しくありません。管理会社へ委託している建物でも、本数が少なければコスト削減のために自分で手配するオーナーもいることでしょう。

なお、古い消火器はリサイクルが推奨されています。回収費用やリサイクル費用の相場は2000~3000円です。型番などを確認したうえで「消火器リサイクル推進センター」へ連絡して手続きをするようにしましょう。

消火器は身近にある消防設備ですが、実際に使用するケースは少ないため、古い規格のものが放置されているケースは決して珍しくありません。

特に不動産管理会社を介さず個人のオーナーが自主管理している建物においては、見落としがちな内容です。また、設置が義務付けられていない建物では消防法違反にはならないものの、老朽化した消火器は破損事故などの危険があるため、10年程度での交換が望ましいといえます。

一般家庭など設置が義務付けられていない建物の場合は、消火器を置いていなくても消防法違反にはなりませんが、この機会にぜひ一度、ご自身の建物の消火器の製造年を確認してみることをおすすめします。

(伊野文明/楽待新聞編集部)