PHOTO : Mugimaki / PIXTA

自民・公明の両党は16日、2023年度の税制改正大綱を発表した。相続・贈与制度の見直しやNISAの拡充、インボイス制度の緩和措置などが盛り込まれた。不動産関連では、大規模修繕を行った高経年マンションの固定資産税の減額や、コインランドリーなどを使った節税対策を封じるための改正も行われる。

不動産関連の主な項目

今回改正された主な内容をおさらいし、不動産投資家に関係しそうなポイントをチェックしておこう。

【インボイス制度の激変緩和措置】
2023年10月に始まるインボイス制度について、消費税を納める必要がない「免税事業者」から消費税を納める「課税事業者」となる事業者の負担を軽減する緩和措置をとる。

住宅の家賃は非課税のため、多くの不動産投資家は消費税を納める必要がない免税事業者である場合が多い。しかし、インボイス制度の導入に伴い、店舗や事務所のテナントから課税事業者となるよう求められる可能性がある。

【関連記事】賛否両論の「インボイス制度」、大家さんへの影響は?

今回の改正では、売上高が1000万円以下の中小事業者の場合、3年間は納税額を売上にかかる消費税額の2割とする緩和措置を設ける。

例えば、税込みの売り上げが1100万円場合、売上げにかかる消費税は本来100 万円だが、緩和措置により納める消費税は20万円となる。現行の簡易課税制度と比べて納税額は少なくなる。

ただ、Knees bee 税理士法人の大野晃男税理士は「インボイス事業者になってしまうと、緩和措置が終わった後、物件売却時に多額の消費税を納める必要があります。インボイス事業者になるかどうか迷った場合は、緩和措置終了後の影響も考慮したほうがよいでしょう」とアドバイスする。

【生前贈与ルールの変更】
相続や贈与に関連する制度も見直される。

生きている間に子や孫に財産を移す生前贈与のうち一般的な「暦年課税」は、現行で相続開始3年前から相続税の対象となるが、この期間を相続開始7年前からに延ばす。

生前贈与のもう1つの方式である「精算課税」も見直す。現行では2500万円までは贈与税を非課税とし、超えた部分に一律20%を課しているが、贈与額が少額であっても申告が必要であったため利用者が少なかった。今後は精算課税を選んだ場合でも年110万円までは非課税で申告不要とする。

大野税理士は「暦年課税と精算課税はこれまでどちらか1つしか選べませんでしたが、今回の改正で実質的に併用できるようになると思われます。また、毎年110万円以上の贈与でも500万円くらいまでなら、相続税よりも低い税率となります。相続資産が多い方は計画的に資産を若い世代に移すとよいでしょう」と話す。

【高経年マンションの固定資産税の減額】
高経年マンションのうち、大規模修繕工事を実施したマンションの固定資産税を減額する特例措置をつくる。管理状態の良いマンションに、自治体がお墨付きを与える「マンション管理計画認定制度」が今年スタートしたが、この認定を受けたマンションなどを対象とする。

23年4月から25年3月末までの期間に外壁補修などの工事が完了すれば、建物部分の翌年度の固定資産税の3分の1を減額する。

【マンションの相続税評価額見直し】
タワーマンションなどの高額な不動産について、相続税評価額の基準を見直す。マンションの時価と相続税評価額のかい離を利用して、数億円規模の節税を行う事例を受けて、評価額を適正な水準に引き上げる。

不動産の相続税は通常、建物と土地の評価額をもとに計算する。都心部などの場合、タワーマンションの評価額が実勢価格より低くなることを利用し、相続税を大幅に圧縮する事例が相次いだ。こうした節税を予防するため、実勢価格が評価額を大きく上回る物件を念頭に、相続税の新たな算定方法を検討する。

【関連記事】「伝家の宝刀」は適法、不動産相続巡る裁判で相続人側が敗訴

【コインランドリーが特別償却の対象外に】
一定の要件を満たす中小企業などが新たに設備を購入した年に、全額を減価償却または税額控除できる制度の対象から、管理を委託しているコインランドリー業と暗号資産マイニング業が除外される。

大野税理士によると、この見直しも節税封じの一環とみられる。

「物件の売却などで所得が増える年に、あえてコインランドリーの新しい設備を取得したり、暗号資産マイニングのための設備を購入したりして所得を減らす節税手法もあり、そうした手法を狙った改正といえるでしょう」(大野税理士)

このほか、防衛費増額の財源を確保するため、法人税やたばこ税などを増額する方針を決定。また、2037年で期限を迎える「復興特別所得税」は、課税期間を延長することとなった。与党内では、課税に対する否定的な意見も見られるため、防衛増税の法案化は見送り、議論を来年に持ち越す。

また、注目されていた「NISA」の拡充については、口座開設がこれまで「つみたて型」で2042年、「一般型」で2023年までとされていたが、24年1月から恒久化される。また、非課税となる保有期間はそれぞれ5年、20年から無期限化。年間の買い付け上限額は、「つみたて型」で現行の3倍の120万円、「一般型」で2倍の240万円となる。生涯投資枠は、買い付け残高で1800万円とする。

専門家や投資家はどうみる

FPオフィス「ノーサイド」代表でファイナンシャル・プランナーの橋本秋人氏は、注目されていた「NISAの拡充」について、「一般消費者が長期的に安心して資産形成ができるようになった」と語る。

「日本の家庭は預貯金の割合が高く、投資に回す資金が少ない現状がありましたが、非課税の投資手段が増えたことで、共働き世帯などの中間層の利用が促進されるのではないでしょうか」(橋本氏)

もともとNISAは、非課税となる投資枠を増やし、個人の力で老後資金を貯めることを目的としている。今回の無期限化によって、その目的によりそぐう形になったのではないかと話す。

また、「生前贈与の年数延長」にも注目していたという。暦年課税の場合、年間110万円以下で長期にわたって多額の財産を贈与できるため、不公平な状況が生じていた。相続財産への組み入れ期間を延長することで、公平性が保たれるようになると語る。

今後は、教育資金一括贈与や住宅支援贈与などを積極的に使い、無税で資産を移す動きが増えていくのではないかと語る。また、相続税対策として、60代70代などの早めの時期から贈与を開始する人が増えると予想する。

今回の税制改正大綱では、防衛費増額に伴う増税を巡って議論が紛糾した。不動産投資家のテリー隊長さんは「防衛費の件でニュースになったことで、多くの人がお金について学ぶ機会になれば」と話す。

今回の改正に盛り込まれた「NISAの拡充」は国民のマネーリテラシー向上に一役買ってくれると期待しているという。

「NISAの仕組みは使い勝手が良くなって、おそらくこれから投資を始めようという人は増えていくでしょう。NISAは株や投資信託がメインですが、NISAによって一定の個人資産を持つ人が増えれば、それを頭金として不動産投資に参入する人も増えるかもしれませんね」と話す。

もう1つ、テリーさんが不動産投資家として注目しているのが、いわゆる「タワマン節税」の封じ込めだ。今後、不動産を使った節税のあり方が変わっていく可能性がある。

都内に多くの物件を所有しているテリーさん。「東京は路線価と時価の乖離が特に大きいので、もし今後、一律で路線価での評価が不可となれば大変なことになります」と相続税が膨らむことを懸念する。

(楽待新聞編集部)