日銀は12月20日に開いた金融政策決定会合で、これまで続けていた大規模な金融緩和政策の一部見直しを発表した。0.25%程度に制限していた長期金利の上限を0.5%程度まで引き上げる。これにより金利上昇の余地も広がることになり、「事実上の利上げ」という声も上がっている。一方で、短期金利は据え置きとしている。
今回の発表内容は事前に予想されておらず、市場にとっては大きなサプライズとなった。
日銀の発表後、ドル円相場は一時132円台まで円高方向に振れたほか、日経平均は2万7300円から2万6400円台まで急落した。
黒田総裁は「金融緩和維持」を強調
日銀は金融緩和政策の一環として、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導する「イールドカーブ・コントロール」(YCC)を導入している。
YCCのもと、長期金利の指標となる「10年物国債利回り」について、これまでは許容範囲を「プラスマイナス0.25%」とし、プラス0.25%を超えそうな場合は指し値オペを実施して無理矢理にでも金利を抑える、という手法を取ってきた。
そうした中、本日の会合では、長期金利の変動幅を「プラスマイナス0.5%」とすることを決定。変動幅が従来の0.25%から拡大となったことで、国債金利が0.25%を超えて上昇する余地が生まれた。実際、日銀の発表を受けて、10年物国債利回りの金利は一時0.460%まで上昇した。
日銀の黒田総裁は会見で、今回の決定について「今回の変更は、あくまで市場機能低下への対応であり、YCCの基本は変わらない」と強調、「金融緩和の出口戦略」や「(事実上の)利上げ」であるという考えは否定した。
不動産への影響は
不動産市況や不動産向け融資への影響について、識者や投資家にも話を聞いた。
現役銀行員の旦直土氏は、今回の発表について「日本の金融政策は他国とスタンスが異なります。そのため、現在の円安・物価高が日
また市場の想定よりも前倒しでの金融緩和縮小となった背景として「金利上昇余地が限られる中でサプライズを起こし、マーケ
今後の融資金利への影響については「今回の金融緩和縮小は小幅な金利引き上げであり、(不動産市況に)大きな影響を及ぼすことはないものと思われます。ただし、このタイミングで『不動産価格が天井をつけた』と考えて売却に転じる投資家も出てくる可能性はありそうです。物件を買えていなかった投資家にとっては、購入するチャンスになるかもしれません」と話す。
さらに今回の決定により、変動金利・固定金利ともに、住宅ローンの金利上昇にも少し影響が出る
「変動金利は短期金利に連動するので今回は無関係のように思えますが、銀行は他行との競争の過程で、すでに採算割れと言われるほど住宅ローン金利を引き下げてきました。銀行は今回の緩和縮小が、金融政策正常化のきっかけに
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では、不動産投資家は今回の日銀の発表をどう見ているのか。コラムニストのテリー隊長さんは「不動産投資家は、今回のニュースに過剰に反応する必要はないと思います」と冷静だ。
「今回の日銀の決定は、長期金利の変動幅をプラスマイナス0.25%から0.5%拡大するということであり、利上げではありません。不動産市場に対する影響はあまり大きくないと考えます。おそらく今後、金利が全体的に少し上がっていく要因にはなると思われますが、それでも、基本的に日本の金利は超低金利です。ローン返済における実質的な利息の増加金額は市場に影響を与えるほどのものではなく、引き続き、住宅および不動産投資においてしばらくは活況が続くのでは」と見ている。
投資家のMOLTAさんも、不動産投資への直接的な影響には懐疑的だ。「今回の発表は言わば『観測気球』のようなもので、政府・日銀が市場の反応を見るためにジャブを打った、といったところではないでしょうか。現状の日本経済の足腰の弱さを考えると、いま金利を上げると持たない企業がたくさん出てくるはずです。政府としてもこれは容認できないでしょう」
一方、今後の金利上昇については「不動産投資家としてリスクに織り込むべき」と警告する。
「私の場合、すべて変動金利で平均調達金利は1.8%ぐらいですが、これが4.5%まで上昇しても耐えられるかどうか、というシミュレーションを必ず行っています。このぐらいのシミュレーションは必ずやるべきでしょう。一方で金利が上昇した場合、返済に耐えられなくなった投資家が物件を売却する動きが出てくる可能性もあります。そうした時に勝負に出られるよう、準備しておくことも大切です」(MOLTAさん)
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黒田総裁は金融緩和の終了を否定しているが、来年4月に総裁人事を控えたこのタイミングでの緩和縮小は、来年以降、日銀のスタンスが変化する兆しとも受け取れそうだ。
(楽待新聞編集部)
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