
PHOTO : genki / PIXTA(ピクスタ)
都内では、地下鉄の車両が地上や高架を走っている光景を度々目にします。地下鉄なのになぜ? と疑問に思ったことのある人も多いのではないでしょうか。
実はそんなよく見る光景が、その土地の地形や歴史、水害リスクを教えてくれるヒントになるのです。
東京都心の地形を10年にわたり研究している東京スリバチ学会の皆川典久さんは、地下鉄が地上を走る理由は「土地の高低差」にあると話します。東京が位置する武蔵野台地は土地の起伏が激しく、急激な谷のようになっている場所では、地下を走っていた鉄道が地上に顔を出すことがあるのだそうです。
逆に地下鉄の位置を見れば、土地の高低や住みやすさ、水害リスクを知れるという皆川さん。いったいどのような目線で鉄道から地形を読み取っているのでしょうか。具体的な路線を例に解説いただきました。
銀座線・丸ノ内線の車窓から地形がわかる?
東京には、坂と坂が向かい合うスリバチ状の窪地がたくさんあります(スリバチ地形)。例えば渋谷は、渋谷駅を底として宮益坂(みやますざか)と道玄坂が向かい合っています。台東区の谷中は、不忍通りを挟んで団子坂と三崎坂が向かい合っています。こうした地形は、湧き水が作った自然の地形で、周囲が崖のような急坂で囲まれているのが特徴です。
東京が位置する武蔵野台地は、火山灰が降り積もってできたと言われる「関東ローム層」という赤土で覆われています。この赤土は水を含むと崩れやすいので、急な坂、すなわちスリバチ地形ができやすいのです。
東京の都心部では、移動する鉄道の車窓から、そんなスリバチ地形の凹凸を知ることができます。代表的なのが、東京メトロの銀座線と丸の内線です。この2つの路線は都心の地形が凸凹しているのを如実に教えてくれます。
これらの路線は建設時期が古く、地面を掘削し、線路を設置してから蓋をする「開削工法」という工法で建設されました。直接地面を掘り進めるため比較的浅い地点に線路が通っており、10~20メートルほどの起伏がある武蔵野台地では、度々車体が地上に姿を現します。
つまり、地下に潜ったり、地上に出たりを繰り返しながら走っていくということです。地下鉄の車内に突然太陽の陽が差すという経験をお持ちの方も多いはずです。
中でも象徴的なのが、銀座線の渋谷駅。地下鉄の駅なのに、地上3階に設置されているのです。

向かって左手が銀座線渋谷駅のホーム。(PHOTO : Ryuji / PIXTA)
NHKの『ブラタモリ』でも取り上げられ話題になったので、知っている方も多いかもしれませんね。上京したタモリ氏が、渋谷で地下鉄に乗ろうと駅へと降りる階段を探したがどこにも見当たらない。見上げたら、高架橋の上を走る地下鉄銀座線の車両が目に入った、というエピソードです。
渋谷駅は、地形でいうとスリバチ地形の底に位置しています。渋谷駅を底として、宮益坂、道玄坂が東西に伸びていますよね。
銀座線の隣の駅は表参道駅ですが、ここでは地下を走る地下鉄なのに、渋谷駅に向かう途中で電車が地上へ顔を出します。これは、表参道駅と渋谷駅の間に土地の標高差(高低差)があるからです。地下鉄はほぼ水平に建設されているのに、駅と駅はおおよそ17メートル程度、ビル4階分くらいの高低差があるのです。
丸の内線も同様に、地上に顔を出す場所があります。四ツ谷駅と茗荷谷駅です。お気づきの方もいるかもしれませんが、2つとも渋谷同様、「谷」の付く駅です。谷になっている場所、すなわちスリバチ地形の底で、地下鉄が地上に顔を出すのです。
同じ丸ノ内線では、後楽園駅も地上、しかも高架に建設された駅です。これはこの場所が、かつて谷端川(やばたがわ)という川が流れていた跡地だからです。
谷端川は以前、東京都豊島区および北区、板橋区、文京区にまたがって流れていました。現在はほぼすべての区間が地下に埋設され(暗渠化)、下水道となっていますが、かつての水の流れが後楽園東側の地面を削り、谷を作ったのです。

丸ノ内線四ツ谷駅。「谷」のつく駅では地下鉄が地上に顔を出す(提供:東京スリバチ学会)
ちなみに近年の地下鉄は、モグラのように地中を機械で掘り進む「シールド工法」で建設されている場合が多いです。地上での工事個所が大幅に削減でき、深度が深ければ敷地の制約も受けないため、近年活用が進んできました。例えば副都心線は、全体の4分の3がシールド工法で建設されており、ほとんど地下に潜ったままです。
山手線の西側エリアは凹凸が多い
ちょっと意識をして見てみると、都心部の鉄道は意外なほどにトンネルに潜ったり、高架の橋を渡ったりしています。これらを観察すると、都心の地形を知るいいきっかけになります。
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