
PHOTO : perming / PIXTA(ピクスタ)
住宅ローンの種類は多数ありますが、返済期間を考えると、高齢の方は利用しにくいのが実態です。そんな中、自宅を担保にして金融機関から融資を受け、死亡時に自宅を売却して返済する「リバースモーゲージ型住宅ローン」を利用する人が増えています。
リバースモーゲージ型住宅ローンを利用すれば、生存中の返済は利息のみとなり、老後生活にゆとりが生まれる一方、融資額が上限を超えると途中で返済が必要になる可能性もあります。
途中で返済が必要になると、担保としている自宅が強制的に競売にかけられ、家を失うリスクも。その場合は、相場より安い金額で売りに出されることもあります。そんなリバースモーゲージ型住宅ローンとはどんなものなのか、利用者が増加した結果不動産投資家にどのような影響があるのか見ていきます。
リバースモーゲージ型住宅ローンとは
リバースモーゲージ型住宅ローンとは、自宅を担保にして金融機関から融資を受ける方法です。他の住宅ローンと仕組みが異なり、契約者が亡くなった際、自宅の売却などによって元金の返済を行うため、月々の支払いは利息のみになり、負担が軽いというメリットがあります。
50~60歳以上を対象とした住宅ローンなので、一軒家からマンションへの住み替えや、住宅をバリアフリー構造へリフォームする際などに利用されるのが一般的です。ただし、資金使途には制限がなく、生活資金として借り入れることもできるので、老後の生活資金として活用することもできます。
一方、リスクとしては、存命中に契約期限を終えてしまう「長生きリスク」が挙げられます。リバースモーゲージでは一般的に、死亡後に自宅を売却して借入金を返済しますが、金融機関によっては契約期限を定めている場合もあります。存命中に期限を過ぎてしまうと、元金と利息を一括返済しなければならなくなる可能性もあります。
また、「金利上昇リスク」もあります。一般的に、リバースモーゲージの金利は変動金利である場合が多いため、月々の利息返済額が変わる可能性があるのです。
「担保評価額の変動リスク」も考慮する必要があります。多くの場合、リバースモーゲージの貸付限度額は、自宅の担保評価額の50~60%に設定されています。評価額は数年ごとに見直され、同時に限度額の見直しも行われます。このときに借入額が貸付限度額を上回っていれば、上回った分、あるいは残高すべての返済が必要になる場合もあるのです。
「リ・バース60」の利用者が増加
このようにリバースモーゲージ型の住宅ローンにはリスクもありますが、近年利用者の数は増加しているようです。一部では、リバースモーゲージを利用した推定融資残高は、過去3年で500億円ほど増加したとの報道もあります。
中でも、独立行政法人住宅金融支援機構が提供する「リ・バース60」は、特に利用者が増加しています。
「リ・バース60」は、民間の金融機関などが提供するリバースモーゲージ型住宅ローンと同様、自宅などの不動産を担保にして融資を受ける仕組みです。
ほかのリバースモーゲージ型住宅ローンは借入金の使途を問わない一方、リ・バース60は借入金の使途が、住宅の建築、リフォーム、高齢者向け施設の入居費など住宅関連のみに限定されています。こうした制限があるために、リ・バース60の金利は低めに設定されています。
2022年11月の住宅金融支援機構の発表によると、2022年7~9月におけるリ・バース60の申請戸数は474戸となり、前年同期比で17.6%増加しました。

住宅金融支援機構が発表する、「リ・バース60」の利用実績(2022 年4月~6月分)
また、申請戸数は400戸で前年同期比35.6%増加、取り扱い金融機関数は前年同期比10.7%増の83機関となっています。前年比だけでなく、過去10年ほどの推移を見ると、年々増加していることが分かります。
2013年から2021年まで、付保申請戸数、取り扱い金融機関数ともに右肩上がりで増加していることが読み取れます。2022年は9月までの数値なので、現在のペースで進めば前年の数値を上回るでしょう。
利用者増の要因は「ノンリコース型」の普及
利用が拡大するリバースモーゲージ型住宅ローンですが、その理由として、2017年から導入された「ノンリコース型」の普及が進んでいることが挙げられるでしょう。
リコース型(従来のタイプ)は、契約者が亡くなった後、担保物件を売却してもローンを完済できなかった場合、相続人が不足分のローンを負担しなければならないというものです。一方ノンリコース型は、担保物件の相続人が、ローン返済のために物件を売却した場合、売却代金が残債に満たなくても相続人に不足額の請求が行われません。
リコース型の場合、自分が亡くなった後、担保物件の売却によりローンを完済できるかどうか判断するのは難しく、相続人に重い負担を背負わせてしまう可能性があるため、利用をためらう方が多かったものと推測されます。しかしノンリコース型では、相続人がローンを背負うリスクがないため、上記のような不安が解消され、普及が進む要因となりました。
実際、付保申請戸数の推移を見ると、特に2017年の制度拡充(ノンリコース型導入)から大きく増加していることが分かります。また、利用タイプの割合を見ても、ノンリコース型が98.7%、リコース型が1.3%と、大多数の方がノンリコース型を選択しています。
ノンリコース型を選択するデメリットとしては、金利が高くなる傾向があることや、融資限度額が低くなる可能性があることなどが挙げられます。ノンリコース型を選択すると、借入額が必要資金に達しないなどのケースでは、リコース型を選択する場合もあるようです。
◇
リバースモーゲージ型の住宅ローンは高齢になりライフスタイルが変化した方が、新しい住居へ住み替える方法のひとつです。ノンリコース型であれば、自分が亡くなった後は担保物件を売却すればローン完済となるため、子供や兄弟といった相続人に負担をかけることもありません。こうした理由から、今後も利用者は増加していくと考えられます。
ただ、存命中に契約期限が終わったり、融資金額が貸付限度額を上回り返済が必要になったりして、担保となっている自宅が競売にかけられ、利用者が自宅を手放すケースも考えられます。そうしたケースが増加した場合、低めの価格で物件が売り出される可能性があるため、不動産投資家にとっては狙い目と言えるかもしれません。
(伊野文明/楽待新聞編集部)
この連載について
バックナンバーを見る
全56話
不動産や投資についてはもちろん、経済、金融、税金など、不動産投資家が気になるニュースをコンパクトにまとめて分かりやすくお伝えします。
-
24
入居者の「孤独死」偽装で逮捕、保険悪用する新たな手口とは
2023.1.26
23
リバースモーゲージの利用者増加で競売物件が増える?
2023.1.19
PR
プロフィール画像を登録