
PHOTO : barman / PIXTA(ピクスタ)
東京電力ホールディングスなど7社が、1月26日までに、電気料金のうち「規制料金」の値上げを国に申請した。認可されれば、6月から平均29%の値上げが行われる。
政府は電気代高騰の激変緩和措置として、1キロワット時あたり7円の割引を実施しているが、申請通りの値上げとなれば、割引の効果も打ち消すことになる。不動産賃貸業においても、共用部の電気代などが値上がりすることによって収支に影響が出るかもしれない。どのような対策ができるのか、3人の投資家に話を聞いた。
共用部の電力契約は「従量電灯」が多い
電力会社が提供する家庭向けの電力料金プランは、大きく「規制料金」と「自由料金」に分けられる。
規制料金は、大手電力会社が市場を独占することを防ぐため、基本料金や値上げの上限額などが国によって定められている。使った分に応じて電気代が上昇し、一般家庭などに広く提供されている「従量電灯」などのプランはこれに該当する。
一方自由料金は、2016年に電気の小売りが自由化され、希望する会社が自由に電力事業に参入できるようになってから導入された。電力会社が任意で料金を設定できるため、事業者間の競争を促し、電気料金の抑制に繋げることを目的としている。
経済産業省は、各社の競争によって市場が活性化され適正な競争が行われるようになれば、規制料金を廃止する予定だ。ただ、現時点では一定の企業が市場を独占する懸念などから、規制料金は据え置きとなっている。
1棟アパートや1棟マンション運営においては、居室部分の電気料金は住民が支払うが、以下のような共用部はオーナーが負担する。
・廊下やエントランスなど共用部の照明
・中庭や植栽の照明
・エレベーター
・浄化槽 など
共用部の照明やエレベーターはイメージしやすいが、浄化槽でも汚水の浄化を助けるために電力を使っている。
これらの共用部に必要な電流は通常、一般家庭と同様に10~60アンペアであるため、家庭用と同じ「従量電灯B」で契約することが多い。
「自由料金」の値上がりで新電力が苦境に
2016年の小売り自由化以降、「新規参入の小売り電気事業者(新電力)」と呼ばれる事業者が大手電力会社よりも価格の低いプランを提供するようになり、大手から新電力に契約を切り替えるケースが相次いだ。
しかし近年、ロシアのウクライナ侵攻などにより燃料価格が高騰し、円安も追い風となって、上限が定められていない自由料金が上昇し続けている。東京電力の自由料金のプランは、昨年1月と比べて46%上昇し、過去最高となった。

卸電力取引市場の1キロワットあたりの単価。(引用:東京電力ホールディングス「規制料⾦値上げ申請等の概要について」)
新電力においては、2016年以降に創業され、企業としての基盤が確立していない会社も多かったため、仕入れ値の値上がりに耐え切れず倒産するケースが相次いだ。2022年には、東北電力と東京ガスが出資する「シナジアパワー」や、「日本電灯電力販売」などを含む新電力8社が倒産している。
大手電力会社も、燃料高騰によって規制料金の値上げを余儀なくされており、今年春頃からは30~40%値上がりするかもしれない。こうした動きは、不動産賃貸業にはどのような影響を与えるのだろうか。
新電力と契約の物件、電気代が1年で1.5倍に
6棟132室を所有し、年間CFは約9000万円のMOLTAさんは、2016年以降、料金の安い新電力に契約を切り替えたという。しかし、近年の電気料金の値上がりを受けて再び大手に契約を戻したそうだ。
4階建て32戸、浄化槽付きの一棟アパートでは、2021年1月には電気料金が2万4000円だったが、2022年8月には5万4000円になったという。
「2021年の5月頃からじわじわ上がっている印象がありましたが、同年12月頃に具体的な影響を感じ始めました。最終的に2倍近くになって、爆上がりしているなという感想です」と話す。
電力会社からは、原油高騰の影響と説明を受けた。また、仕入れ値の上げ幅が大きいため、すぐに価格に転嫁するのではなく、按分して将来の電気料金に上乗せする形で請求すると通達された。上乗せ分を考えると今後の負担が大きすぎると考え、契約を解約し、2016年以前に契約していた大手電力会社に切り替えたという。
「新電力の会社は、新しいだけあって企業としての体力がなく、仕入れ値の上昇に耐えられなかったのだと思います」というMOLTAさん。「今後大手電力会社の規制料金も値上げされるとなると、影響が恐ろしいところではある」と話す。
対策としては、共用部の照明のLED化が挙げられるという。家賃の値上げも1つの手だが、MOLTAさんはできるだけ現状を維持したいと話す。
「現在の市況を見ると、家賃の値上げは正直やりづらいです。利回りが下がることは覚悟したうえで、現状維持できるものは維持していくことが重要だと思います」
LED化は安定器まで取り換え必要
投資歴24年、北海道で8棟70室を運営する「北国の大家」さんは、「数年前と比べると電気代の負担感は相当上がった」と語る。
「25年前は月1000円ちょっとだった共用部の電気代が、5~6年前に3000円前後になり、今は4000円近くになっています。先日の北海道電力の申請が認可されれば、今年の6月にまた1000円上がるため、上がり方はかなり激しいです」
北国の大家さんの所有物件は、北海道電力と契約している物件が多いが、新電力の会社とも複数契約をしているという。特に、物件で使用する灯油やガスを供給してくれるプロパンガス会社が、新電力に加入して売電しているような場合は、積極的に契約するようにしてきたと話す。
「プロパンガス会社も大切なパートナーなので、その会社に利益を集めていこうという考えです。また、新電力の場合は若干電気代が抑えられる場合が多いですが、倒産や廃業のリスクも比較的高いです。廃業する場合は2週間前に通知する義務がありますが、普段から懇意にしている会社であればもっと早く情報を共有してもらえるだろうとも思い、プロパンガス会社を選んでいます」
現状ではプロパンガス会社のほうが電気代が抑えられているため、北海道電力が値上げを行うようであれば、契約の切り替えも検討しているという。
その他の対策としては、MOLTAさん同様、共用部の照明のLED化を検討しているそうだ。その際は、電球を取り替えるだけでなく、従来の設備を交換するバイパス工事まで行うよう注意したいと語る。
蛍光灯や道路照明などに使われるHIDランプの場合、放電を安定させるために安定器が取り付けられている。電球をLEDに交換したとしても、この安定器を通すと余分な電力を消費してしまったり、劣化によって点灯しなくなったりする可能性がある。そのため、安定器を取り外すか電気が通らないようにするバイパス工事を必ず行う必要があると話した。
民泊は1年で1.5倍に、宿泊費の値上げも
民泊の運営においても、電気代値上げの影響は大きい。民泊では、各部屋の照明や冷暖房に加え、共用部の照明や冷暖房、キッチン設備などに電力を使用する。
石川県金沢市でゲストハウス5棟を営む「吉岡ライズ」さんは、2022年3月頃から電気代の値上がりを実感したそうだ。
「1棟貸し切りのゲストハウスは比較的ましですが、部屋数が多く共用スペースがあるホテル型のタイプだと収支への影響が大きいです」
ホテル型のゲストハウスでは、冷暖房や照明の数が多く、稼働時間も長いため影響が大きいという。例えば2021年10月には約4万円だった電気代が、2022年9月には約6万円と、約2万円上昇したと話す。
一方、1日1組のお客さんに限定して、1軒家をまるごと貸し出すようなゲストハウスでは、お客さんが入らないときは照明も冷暖房も稼働しないためあまり影響は出ていないという。
吉岡さんは、電気料金以外にも、原油の高騰によってさまざまなものの価格が高騰し、宿泊施設の経営は圧迫されていると話す。例えばシーツ、リネン類は2022年に料金改定が行われ、10~20%の値上げとなったそうだ。
「ものの値段が上がっている以上、宿泊料金に転嫁しないと経営が苦しくなるので、どこかで値上げをしないといけない。これまではコロナ禍だったので値上げは厳しかったですが、最近はインバウンド需要が戻ってきていて日本人の旅行も少なくないため、今年の3月頃から値上げを検討していきたいです」
特に外国人をターゲットとする宿に関しては、約50%の値上げを検討しているという。円安によって、日本の宿泊施設の料金がかなり割安だと感じている外国人が多いため、そもそもの価格の見直しを行い、利益を増やしたいと語った。
◇
今後規制料金の値上げが認可されれば、春頃からさらなる値上げになる可能性がある。収益物件のオーナーにできることは限られているが、契約の見直しやLED化などの対策を早めに行い、コストを抑えてほしい。
(楽待新聞編集部)
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