ここ数年、「不動産投資でFIRE」を目的に掲げるサラリーマン大家さんは決して珍しい存在ではなくなった。

しかし、「年収1000万円前後でFIREするなんて、夢を見過ぎている」と鋭い指摘をする人物がいる。収益不動産の売買・仲介・管理等を総合的に扱う「コスモバンク株式会社」の代表取締役、穴澤勇人氏だ。個人・法人で多数の物件を保有し、月額CFは2000万円をゆうに超える不動産投資家でもある穴澤氏。彼のもとには「せっかくFIREしたが、結局うまく行っていない」投資家からの相談が後を絶たない。

同氏は不動産投資で騙される人を減らす目的でYouTubeチャンネルを運営しているが、いったいなぜ彼は「安易なFIRE」を否定するのか。不動産投資を志す人が知っておくべき、「不都合な真実」を語ってもらった。

不動産投資で毎月3000万円超の賃料収入を実現しているコスモバンク株式会社の穴澤勇人社長が、自身の不動産投資ノウハウや金融知識をYouTubeでわかりやすく解説します。公開された動画は300本以上。ぜひご覧ください。

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今の融資は「年収1000万円」が基準

私は22歳の時に不動産投資を始めました。当時は別業界で働いていたのですが、その後投資経験を生かして不動産会社の営業マンに転職し、2018年に独立しています。自社でも60棟以上の物件を保有し、年間家賃収入は約3億6000万円になります。

職業柄、不動産投資家さん、あるいは不動産投資家を志す方と出会う機会が多くあります。こうした中で、皆さんが関心を寄せがちなのが「融資」の話題かな、と感じます。

ここ数年は、各金融機関の融資姿勢が厳しくなってきた、と感じる人は多いかもしれません。実際、特に最近は、サラリーマンなら「年収1000万円以上」でないと融資をやりたがらない金融機関が多いように感じますね。もちろん700万円以上、800万円以上でもやる、という金融機関はあるのですが、年収を重視しているのが現実です。

ただし、年収500万円でも融資をします、という新商品を出している金融機関もあります。ノンバンク系の金融機関です。金利4~5%程度、かつ自己資金を2割程度入れる必要はありますが。もし年収がほかの金融機関の基準に満たなくて、それでも融資を受けてアパートを買いたい、と考えるのであれば、こうしたリスクをとってチャレンジする必要があります。

「ノンバンクを使いたくない」大家さんへ

ちなみに「ノンバンクは使いたくない」という大家さん(志望者)もいるようですが、年収が1000万円以下で、それでもアパートを買いたいのだと思っているなら、ノンバンクの利用も仕方ないことではないでしょうか。

「ノンバンク」というと「サラ金」のようなイメージを持っている人もいるのですが、そうではなく、銀行のような預金業務がないだけです。

あえて辛口で言わせていただきますが、こうしたことをきちんと理解せずに「ノンバンクは利用したくない」と言うなら、自分で努力して年収を上げて、それから不動産投資をするべきです。年収1000万円であれば、銀行から融資を受けやすくなりますから。

金利が高いのが気になるという意見もありますが、金利の数字自体に意味はありません。大事なのは、それできちんと回るかどうか。金利が高くても、キャッシュが残れば問題はないのです。金利が何パーセントであるかより、その条件で借りて、毎月どのくらい残るかにフォーカスを当ててほしいと思います。

戸建て投資ブームの裏で

このように現在の市況では、年収500万円前後で不動産投資を始めたい、という方にとって厳しいのが現実です。ただ、こうした方が現金で戸建てを買い、コツコツと規模拡大していくことは可能です。実際、「ブーム」とも言われていますが、戸建て投資に参入する人は多いです。

そうは言っても、戸建て投資だってそんなに簡単ではありません。戸建て物件を購入し、どうにもならなくて私の元に相談に来る人は少なからずいます。傾いているとか、配管がつながっていないとか、ゴキブリの卵だらけでどうしようもないとか―。そんな、プロが買わないような物件をよく知らずに買って、クロスをちょっと貼り替えて貸し出そうとしたけどうまく行かずに…という、嘘みたいな「しくじり」の事例は実際にあるのです。

ただ、こうした「しくじり」があるにもかかわらず、現金で買っているために世間的にあまり問題にはなっていません。これが融資を受けてのアパート投資であれば、返済が滞り、自己破産になって…と、「かぼちゃの馬車」の事件のように世の中で話題に上がります。ですが、戸建てではリフォームできなくても、入居者が付かなくても、「あーあ」で終わり。そうして、ブームの中で、表に出ないトラブルが量産されていくわけです。

廃墟のような空き家物件を安く買えたとしても、きちんとリフォームして貸し出すことができない「クロスを貼り替えた廃墟」を作り出してしまっては意味がありません。安易にブームに流されずにいてほしいと思います。

不動産投資でしくじる最大の理由

じゃあ結局どういう物件を買えばいいのか、と疑問に思うでしょう。ですが、私は今、それを答えることができません。なぜなら、どういう物件を買って、どのように規模拡大すべきかは、個人個人でまったく異なるからです。

私は、不動産投資でしくじってしまう最大の理由を、「誰かのまねをするから」だと考えています。

よく、セミナーや書籍、インタビュー記事などで、成功した大家さんが自身のノウハウやその軌跡を語っていることがありますね。ですが、そこで語られた方法をそのまままねたとして、自分が不動産投資で成功することができるのでしょうか。私は、NOだと思います。なぜなら、その人とは属性も、時代も、何もかもが違うからです。

不動産投資でとるべき手法を決める際は、年齢や、給料や、仕事の将来性や、家族背景など、本当にさまざまなことを総合的に考える必要があります。なのに、それを加味せずに、自分とは時代も属性も違う人のやり方をうのみにして行動し、しくじるのです。

例えば私が1棟目を買ったのは20代前半。千葉県我孫子市にあるボロボロの物件を購入し、自分でクロスを貼ったり、床を貼ったりして再生させました。それは、若かったからできたことかもしれません。これが40歳、50歳で初めての物件でとる手法としては、正解とは言えないと思うのです。本業がおろそかになってしまう可能性もあります。

別の例を挙げましょう。昔、メガバンクが年収300万円の人でも融資をバンバン出していたような時代がありました。この時代に始めた人の言うことを真に受けて、年収300万円の人が今、メガバンクから融資を簡単に引くことはできるでしょうか?

このように、誰かがその時成功した方法が、別の人、別の時に100%成功するとは言えません。だからこそ、不動産投資で成功する確率を上げるためには、自分自身で、「オーダーメイド」で手法を築く必要があるのです。

手法を築く方法は

では、自分で手法を築くためにどうすべきか。まず考えなくてはならないのが、「どのくらいの期間で、どうなりたいのか」ということです。こう聞くと、「5年で月100万円のCFを得られるように」みたいな、ふんわりした目標だったり、なんとなくカッコつけた目標だったりを話す人もいますが、そうではなく、「生活するために絶対に必要となる数字」を考えてください。

例えば今40歳の人であれば、「60歳で定年を迎える。それまでの20年間で、60歳以降に月40万円の手残りを得る必要がある」とか、「今は年収2000万円あるが、外資系企業に勤めていて、2年以内にクビになる可能性がある。この2年で、クビになったとしても生活できる収入を得なくてはならない」とか、「差し迫った状況があと何年で来るのか」「その時、どのくらいのお金が必要になるのか」という現実的な数字を考えます。

その上で、その数字を実現するためにどのような手法を選び取るべきかを検討してください。この時は、不動産投資の経験者(数多くの物件を持っている人)であったり、我々のようなプロであったり、いろいろな人の話を聞くのが良いと思います。彼らからさまざまなアドバイスを聞きながら、戸建てをコツコツ買えばその数字が達成できるのか、あるいは高利回りの一棟物件を買う必要があるのか、自分自身で考え、選択してほしいと思います。

「不動産投資でFIRE」の真実

ここ最近、「不動産投資でFIRE」を目標に掲げる人が増えたように感じます。ですが、私は不動産投資でFIREなんてそんなに甘くはないと思いますし、もっと言えば「年収1000万円前後でFIRE」なんて、「夢見すぎ」だときっぱり言いたいです。

私のところには、FIREして経済的自由を得たはずなのに、「物件が買えない」「融資が引けない」と相談に来る人が少なからずいます。はっきり言いますが、それはFIREではなく、「サラリーマンをやめただけ」です。まったく経済的自由を得られていません。

今、「不動産投資でFIRE」とか「年収700万円からFIREを目指す」みたいなセミナーや記事がたくさんあります。ですが、1000万円くらいの年収で「FIRE」し、結局生活がままならなくて悩んだり、うつになってしまったりという人がいるのも事実なのです。仕事に戻りたくても年齢が高くて再就職できない、バイトをするにはプライドが高すぎる―。そんな人もいます。

もちろん、「自分でパン屋さんを開きたい」みたいな夢や目標を持っている人がサラリーマンをやめるのは良いんです。ただ、これは「FIRE」というより独立ですね。

でも、「ただ経済的自由を得てサラリーマンを辞めたい」と思って実際に退職し、本当に全員がうまく行っているのかといえば疑問でしょう。月に60万円の収入があったとしても、入退去が発生してリフォーム費30万円かかったら、生活費が半分になってしまいますよね。それならまだ良い方で、40万円しか収入がないにもかかわらず、リフォームが頻発して20万、30万円かかったら…。10万円で生活することになってしまいます。

生活水準を下げれば生活できるのかもしれませんが、思い描いたような「バラ色」のFIREではないでしょう。本当にFIRE、経済的自由を得られているのは、年収3000万円、4000万円といった収入がある人です。FIRE後に生活に困っている人がいるという「不都合な真実」はあまり報道されませんが、このことは本当に皆さんに知っておいてほしいと思います。

不動産投資で成功するための「王道」とは

先ほど、年収が500万円ほどで不動産投資をするのであれば、戸建てからコツコツ始める方法もある、と話しました。ですが、本音を言えば、私は「まずは自分の収入を上げるのが王道」だと思っています。

なぜなら、無理して物件を買って、ギリギリの収支の中で運営をしていけば、例えばリフォーム費をけちったり、管理会社の提案に対して細かいことを言ったりして、周囲に嫌われてしまう可能性が高いからです。周囲に嫌われれば、物件も紹介してもらえませんし、提携ローンも案内してもらえません。そうなれば、結局、資産の拡大にはつながっていきません。こうした「ギリギリ大家さん」は案外多いのですが、この悪循環に気づいていない人がそのうちの大半です。

資産拡大・資産形成は本来、お金に余裕のある人がやるものであって、「不動産投資で一発逆転」みたいな考え方は間違っていると私は思います。王道は、自分で本業をがんばって、給料を上げる。給料が上がらないなら、転職をしたり、バイトや副業をしたり、さまざま努力をする余地はあるはずなのです。

こうした努力をせずに、「年収が低くても融資を引く方法は」みたいな質問を投げかける人は、他力本願すぎるのではないでしょうか。不動産投資において、小手先のテクニックはありません。

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こう厳しく締めくくる穴澤氏。それは、実際に不動産売買の現場の最前線で何百件という取引事例を目の当たりにしているがゆえの、「ある意味での優しさ」なのかもしれない。

同氏は、「不動産投資で騙される人が1人でも減ってほしい」と自ら出演し、一棟不動産投資の幅広いテーマでYouTubeで動画を公開している。

深い知見に基づいた経験談と、営業トーク抜きの純粋な投資談義を覗いてみてはいかがだろうか。