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比較的少ない資金で始められることから、築古戸建や空き家投資を検討する個人投資家が増えているようです。 不動産投資セミナーや物件見学会で、物件を紹介してもらうこともあるかもしれません。

しかし中には、欠陥のある物件をつかまされたり、不当に割高な価格で物件を売りつけられたりと、個人投資家が食い物にされるようなケースも存在します。

今回紹介する裁判例もそのようなケースの1つです。個人投資家が騙されて、欠陥のある物件を買わされてしまったという事例(東京地裁2022年(令和4年)2月17日判決)を紹介します。

事件の概要 

不動産投資に興味を持っていたXが、戸建て物件を探していたところ、Yから、Yが所有する物件(築42年の戸建て、土地付き)を紹介されて購入したものの、購入直後に雨漏りがあることが発覚した、という事案です。判決文によると、時系列は次のとおり。

<2019年9月18日>
・XがYから上記物件(以下「本物件」)を紹介される。ただし賃貸中のため内見は不可とされた。

・Xが仲介業者を通じてY側の仲介業者に確認したところ「雨漏れ、シロアリ、水害、躯体の傾きは無いようです」とのこと。

<2019年9月27日>
・売買契約および代金決済(代金350万円)。契約条件として瑕疵担保責任(現行法では契約不適合責任)および付帯設備保証は免責。重要事項説明書には容認事項として「設備等に相当の経年劣化」「いつ壊れてもおかしくない状態」「現状有姿」の旨の記載あり。また、物件状況確認書の「雨漏り」の項目には「現在まで雨漏りを発見していない」と記載。

・当日、契約後にXが入居者にあいさつの電話をすると「1階和室のカーテンが濡れており、その辺りの壁にも染みがある上、部屋もかび臭いので住める状態ではなく、近く退去する予定である」との旨を伝えられた。驚いたXは、仲介業者を通じてYに売買契約をキャンセルしたいと伝えるも、同日、Y側からキャンセルには応じないとの回答。

<2019年9月28日>
・Xが改めて入居者に話を聞くと「(今年の)4月に入居し、6月には前述の状態(雨漏り)になった。雨漏りで退去予定という話は、8月には管理会社(売買の際の仲介業者とは別の会社)に伝えている」との旨の返答。

・その後管理会社に確認したところ「雨漏りの話や、10月末に退去予定との話も聞いている。Yにも伝えている」との返答。

さらに、その後次のような事情も明らかとなる。

・Yは2018年にこの物件を購入。部屋の内部に雨染みがあることは認識していたが、玄関部分の屋根の補修などを業者に依頼したほかは、自身で本件物件に通って日曜大工的に修理をしたにとどまる。

・また、この雨漏りを直すためには、「本件物件中の建物部分の価値を超える費用を要する見込みであり、かつ、上記補修によっても本件物件の雨漏りが完全に修補されるとは限らない」ということが判明。

判決の内容は

Xは、「Yは雨漏りなどの事実を知りながら『雨漏りの事実はない』などと積極的に嘘をついて契約をしたのであるから、売買契約がYの詐欺によるものだ」として、不法行為による損害賠償を求めて提訴。

一方Yは、「(物件の購入時に)雨漏りの事実を知らされていない。またXに対しては経年劣化の旨は伝えていた」などと反論したほか、「Xは物件の経年劣化等に関する説明を受けながら漫然と契約を行ったのであるから、8割の過失相殺(注:加害者側が負担すべき損害賠償額から、被害者側の過失分を差し引くこと)が認められるべきである」とも主張しました。

最終的に、裁判所は次のとおり認定しています。

「Yは、本件物件に係る相当大規模な雨漏りの有無(及び賃借人がこれを主たる理由として退去予定であること)という、投資用物件としての本件物件の資産価値を決定的に左右する点について、その売主として故意に買主であるXに対して虚偽の事実を告知したものといわざるを得ないから、これは全体としてYによる原告に対する欺罔行為(注:詐欺行為という意味)に当たり、これによってXは本件契約の締結に至ったものというべきである」

結論としては、Yの詐欺による不法行為が認められ、Xが払った売買代金、手続費用全額のほか、弁護士費用分の賠償請求が認められました。

なお、過失相殺の主張については、「Yの欺罔(ぎもう)行為に基づいて本件契約を締結させられたものである以上、Xに過失相殺を認めることは相当とはいえない」として排斥。全額の損害賠償が認められました。

※本判決では他の争点もありますが、本稿では不法行為の点に限って紹介します

本件のように、売買契約後に雨漏りなどの不具合が発覚したというケースでは、通常は契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)の問題となり、多くは修理費用相当額の範囲内で解決します。

本件は、売主Yによる明確な詐欺行為が立証されたため、売買代金(および手数料など)全額の損害賠償が認められた、という珍しいケースだといえます。

この事例から得られる教訓

本件では、売主Yが非常に悪質なのは確かですが、一方で買主Xにも大きな落ち度があったように思います。入居者がいたため内見不可であったとしても、仲介業者を通じて管理会社に確認をすれば、雨漏りの事実や、入居者が退去予定であることなどを簡単に知ることができたためです。

築古戸建ては価格が低いこともあり、経験の浅い人が副業として始める例も増えています。しかし、区分マンションと異なり戸建ては状態のばらつきが大きい分リスクが高いので、たとえ契約を急かされていても慎重になるべきです。また、仲介業者は必ず間に入れるようにしましょう。

一方、自らが売主側になった場合にも注意点はあります。いくら契約で契約不適合責任を免責にしたとしても、売主がその不具合を知っていて告げなかった場合には責任を免れることはできませんので、注意が必要です。

(弁護士・関口郷思)