投資用のRCマンション建築工事などを請け負う「ユービーエム」(東京都江戸川区)が、営業停止状態となっている模様だ。
同社は近年売り上げを急拡大しており、2022年4月期の売上高は105億円を計上していたという。一方で、昨年から支払い遅延が発生していたとの情報もあり、資金繰りが悪化した可能性がある。建築工事を発注していた投資家は多数いるとみられ、今後の影響が懸念される。
売り上げ100億超の建築会社
ユービーエムは、土地を仕入れて新築RCを建てる不動産投資家の間で名の知れた建築会社だった。その一方、昨年秋ごろから支払い遅延が起きたり、幹部社員が退職したりしていたとの情報もある。
民間調査会社の東京商工リサーチ(TSR)は1日、ユービーエムの最新の動向に関する情報を公開した。TSRによると、同社は1月31日朝から連絡が取りにくい状態になっているという。
同社は1991年設立。2018年4月期の売上高は20億円だったが、近年急成長し2021年4月期の売上高は103億円、2022年4月期の売上高は105億円を計上していた。同社のホームページによると、資本金は4000万円。設計施工から建築工事までを手掛ける。
同社が施工を手掛ける建築途中の物件も多数あるとみられる。建設工事に関する情報をまとめている民間の「建設データバンク」によると、2022年中に着工し、2023年1月以降に完成予定の物件は少なくとも22件ある。建設がストップした場合、下請け業者に影響が波及し、ほかの工事への影響も懸念される。
建設現場はいま
ユービーエムが施工を請け負っていた現場はいま、どうなっているのか。都内の建築途中の物件を訪ねた。
東京23区某所にあるこの物件は、昨年5月に着工した事務所兼共同住宅。掲示されていた建築計画の標識によると、今年3月の竣工予定となっていた。記者が現場を訪れたのは平日の13時過ぎ。通常であれば作業が行われている時間帯だが、工事関係者らしき人の姿はない。
建物は見たところほぼ完成に近い状態で、最近まで内装工事が行われていたようだ。1階の居室と見られる部分にはフローリングが貼られている。敷地の外から内部を覗くと、資材などが置かれたままになっていた。
周辺の店舗で働く従業員に話を聞くと、「つい最近まで業者が来て作業をしていた。最後に見たのは一昨日で、夜遅い時間に内部で何か作業している人がいた」という。
続いて都内にある別の現場に向かう。こちらは13階建ての高層マンションだが、やはり敷地内に作業員の姿はなく、工事はストップしているようだ。
現場を囲うパネルには弁護士の名前が書かれた警告文が張り出されており、敷地内の工事用エレベーターや足場資材の使用・持ち出しを禁止する旨が記載されていた。
建物最上階は一部のみ足場が解体された状態となっていた。
「健全な会社」に何が
有名な建築会社の営業停止をめぐる一報を受け、投資家にも動揺が広がっている。
土地から仕入れてアパートを新築する手法を専門とする投資家の「ひーやん」さんは「新築RCをやる投資家の間では1番か2番に名前が出る人気の建築会社。財務状況も施工品質もよいイメージがあり、すぐ傾くような会社とは全く思っていなかったのでびっくりです」と信じられない様子で話した。
ひーやんさんは木造アパートを専門にしているため、同社に発注したことはないが、将来的にRCの建築も目指していたため、同社施工物件の見学会に参加するなどしたことはあったそうだ。
「RCにしては割安な価格で建ててくれる会社で、ユービーエムで建てた物件を売却して儲かったという話も投資家仲間から聞いたことがありました。受注件数も多い実績のある会社なので、多くの投資家は健全な会社だと思っていたのではないでしょうか」(ひーやんさん)
土地から新築投資をする上での最大のリスクは、「工務店の倒産」だとひーやんさんは言う。倒産リスクを最小限に抑えるためには、工務店の財務状況などを事前にしっかりチェックする必要があるが、「今回のケースは表向きの財務状況は健全だったと、知り合いの投資家からは聞いています。投資家がリスクを見抜くのは難しかったかもしれません」と話す。
「建築途中で倒産」経験した投資家は
発注先の建築会社が倒産してしまった場合、投資家はどのような行動をとるべきなのか。建築工事を発注していた建築会社が倒産した経験があるという、投資家の岡田のぶゆきさんに話を聞いた。
岡田さんは8年前、7階建てRCマンションの建築途中で、工事を発注していた建築会社が倒産。下請け会社を説得してなんとか完成までこぎ着けたそうだ。
「5月に着工して翌年3月に完成予定でしたが、10月ごろから工事が遅れはじめ、年末には職人が減り、年明けには現場監督しか現場にいない状況でした。12月に棟上げまで終わりましたが、進捗が65%くらいで工事がストップしてしまいました」(岡田さん)
岡田さんは当時、契約金額3億2000万円のうち、出来高払いで2億3000万円をすでに支払っていたという。
「工事が遅れて繁忙期を外すと入居付けしにくくなるので急がせていましたが、遅れるどころか完全に止まってしまい、建築会社とも連絡が取れなくなってしまいました。当時はとにかく完成させようと必死でした。下請け会社と連絡を取り、新たに契約を結びました。倒産した会社にも最終検査のハンコを押してもらわないといけないので、必死で探して連絡を取りました。それでなんとか2カ月遅れで完成させました」(岡田さん)
今回のユービーエムの件で、自身と同じような状況に立たされている投資家に岡田さんは次のようにアドバイスする。
「下請け業者と交渉するなど、なんとか工事を続行できる糸口を見つけることが大事です。また、金融機関にも状況を説明して返済を猶予してもらったり、工事の進捗状況によっては建築会社の切り替えを視野に紹介してもらう方法もあるでしょう」
実態は「自転車操業」だったか
ユービーエムと関係のあった建築会社の社長は、「決算書の中身と、経営の実態は全く違うものだった」と語る。
「調査会社から昨年末、ユービーエムの経営状態が悪いかもしれないという連絡を受けました。協力会社への支払いの遅延や、支払い日の変更などが相次いでいたようです」
それをきっかけに、「同業者として力になってあげたい」との思いからユービーエム社長に連絡をとり、資金繰りなどについて相談に乗っていたという。その中で、預金額や利益などが決算書に記載されている内容とまったく違っているという話を明かされたそうだ。
「決算書では利益が出続けていることになっているのに、実態は赤字が続いているようでした。私からユービーエム社長に『(実際は赤字だということを)全部わかっているんですね』という会話をしました」
取材した建築会社の社長は、ユービーエムの懐事情について「安い単価で施工を請け負った結果、利益が出ず、下請け会社への支払いが滞り、それを補填するためにまた受注をするという自転車操業を繰り返してきたのではないか」と予想する。また最近では、取引先と物件の売買を巡って訴訟に発展するなど、赤字以外のトラブルも抱えているようだったと話す。
ユービーエム社長から、「数億円を借り入れたい」との相談もあった。検討するために事業計画書の準備などを依頼したところ、現在まで連絡がとれなくなっているという。
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不動産投資家に衝撃を与えた今回のニュース。同社の現在の状況について、現時点でまだ明らかになっていないことも多いが、今後の動向を注視したい。
(楽待新聞編集部)
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