PHOTO:Ryuji/PIXTA

2023年2月、コンコルディア・フィナンシャルグループ傘下の「横浜銀行」が、非上場の「神奈川銀行」と経営統合すると発表した。TOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社化する。この結果、神奈川県の地銀は1グループのみとなる。

横浜銀行と神奈川銀行がともに営業地盤とする神奈川県は、人口が全国2位、民間事業所数も上位と、国内屈指の高い優位性・成長性を持つ魅力的なマーケットだ。それにも関わらず、経営統合により地銀が1グループだけとなる衝撃は大きい。

他の都道府県の地銀は、「神奈川県に比べて人口も経済規模も劣るのに、なぜ地銀が2行、3行とあるのか」について、投資家などステークホルダーに説明する必要に迫られるだろう。最終的には、合従連衡を選ぶことになるはずだ。

地銀「一県一行」時代へ加速

横浜銀行・神奈川銀行の経営統合の前から、すでに全国各地で同一県内の地銀同士による合従連衡が相次いでいる。

例えば2020年10月には、福井県の「福井銀行」が「福邦銀行」を完全子会社化している。2023年6月には、「八十二銀行」が「長野銀行」を完全子会社化し、さらにその2年後の2025年を目途に合併する予定である。

福井銀行本店(PHOTO:PIXTA)

また2023年10月には、「福岡銀行」などを擁するふくおかフィナンシャルグループが「福岡中央銀行」を完全子会社化する予定だ。2024年4月には、プロクレアホールディングス傘下の「青森銀行」と「みちのく銀行」が合併予定であり、あいちフィナンシャルグループ傘下の「愛知銀行」と「中京銀行」は、2024年内に合併予定だ。

近年の地銀再編の動き(出典:マリブジャパン、カンパニーレポート)

現在、地銀・第二地銀あわせて99行が存在するが、すでに都道府県内に地銀が1行または1グループしかないところもある。埼玉県、山梨県、石川県、福井県、滋賀県、京都府、奈良県、和歌山県、鳥取県の9府県である。この先、上述した青森県や長野県、神奈川県が加わることで、12府県となる。

一方で、福岡県は県内に5行、静岡県は4行、岩手県、山形県、福島県、東京都、千葉県、愛知県、富山県、沖縄県の8都県では地銀が3行ある。

地銀同士の統合・合併などを独占禁止法の適用除外とする特例法や、日銀の支援制度、政府からの補助金支給などもあり、地銀「一県一行」に向けての動きはこの先も続くことになろう。 

「金利上昇」も地銀再編を後押しする

政府や金融当局の後押しに加え、日銀による利上げ観測も地銀再編を後押ししそうだ。

2022年12月、「日銀ショック」がマーケットを襲った。日本銀行が予想に反して金融緩和政策の「修正」(長期金利の許容変動幅をプラスマイナス0.25%程度から同0.5%程度に拡大)を決定したことで、長期金利が急騰する一方、日経平均は暴落し円高が急速に進んだ。一方、大手地銀などの株価は、金利上昇により利ざやが改善するとの期待から、軒並み上昇した。

概して金利上昇局面では、預金金利は据え置かれ、貸出金利が先行して上昇する傾向にある。

実際に現時点で、新規住宅ローンの固定ローンなどを引き上げる銀行はあっても、期間限定のキャンペーンを除き、預金金利を引き上げたという話は聞かない。多くの銀行の定期預金金利は期間を問わず、0.002%程度のままだ。

本業である貸出金から得られる利息収入は、地銀の収益の大部分を占める。利息収入を伸ばすには、「貸出金利回りを上げるなどで利ざやを増やす」、「貸出金残高自体を伸ばす」しかない。まさに、日銀の利上げにより利ざやが拡大し、合従連衡による規模の拡大で貸出残高を伸ばすという、質量の両面から成長戦略を追える環境が地銀にとって到来しようとしているのだ。

もっとも、金利上昇は地銀にとっていい話ばかりではない。貸出金利の上昇は、取引先企業にとっては、利払い負担の増加を意味する。コロナ対策の無利子・無担保融資である「ゼロゼロ融資」の返済滞りや倒産の増加とあわせ、地銀の不良債権が増えていく可能性もある。

さらに問題なのは、地銀が保有する大量の国債だ。長期金利が上昇すれば、国債価格は下落し、その分含み損を抱えることになる。地銀はすでに、米国の利上げにより、米国債など外国有価証券で含み損を抱えている。日本の国債まで含み損を抱えることは、経営の重荷となる。

問題となっている「仕組債」など、個人向け金融商品販売の減少により手数料収入も期待できない状況だ。

人口減少や過疎化による地元市場の縮小、異業種の進出やデジタル化の進展による顧客の地銀離れといったより根本的な問題は解決しておらず、地銀の3大ビジネスである貸出・有価証券運用・手数料の見通しは決して明るいものではない。

単独での生き残りは楽な道ではない

こうした厳しい環境下、地銀が今までと同じビジネスモデル、同じ商品・サービスラインナップで生き残れる可能性は低くなってきている。規模の経済が働かない資産規模1兆円以下の地銀や、コア業務純益が10億円未満の地銀はなおさらだ。まさに今回、合従連衡を選択した長野銀行、福岡中央銀行、そして神奈川銀行がこれに該当する。

直近で経営統合が決定(予定)した地銀の残高比較

他の同規模の地銀も、単独での生き残りは事実上困難であり、店舗や人員のリストラを実施したうえで、規模の経済を得るための合従連衡を選択するはずである。

それにも関わらず、「合従連衡は選択肢の1つにすぎない」「経営統合にメリットがない」「単独で生き残れる」といった地銀トップや専門家の発言がいまだに散見される。確かに、再編でも単独でも、収益向上により企業価値が向上し、顧客や地元経済にとって恩恵があるならば、どちらでもいい話だ。

もっとも、「なぜ単独で生き残れるのか」「どのように持続的に収益を増やし、株式価値を向上させるのか」を具体的に示している地銀トップや専門家は、見当たらない。

「規模の経済」が地銀の優劣を分ける

銀行は、システム費用など多額の固定費が発生するため、規模の経済性(スケールメリット)が働きやすい。

例えば、貸出の規模が2倍となっても、システム費用が2倍かかるわけではなく、合従連衡による業績拡大と経費削減余地が大きい業種なのだ。商品やサービス内容、金利水準ではほとんど差がつかない貸出を含む普通銀行業務において、規模の拡大で勝負することは定石だ。

しかも、金利上昇により利ざやが拡大することで、貸出規模が業績の優劣を分ける規模の経済が効く世界が戻ろうとしている。人口減少と低金利環境、デジタル化による3重苦に加え、政府・金融当局による地銀再編を後押しする動きがあるなか、金利上昇による利ざや拡大のメリットを享受する思惑もあり、地銀の合従連衡はこの先も進むことになろう。

再編により資産規模が拡大し、自己資本が分厚くなることで、経営そのものが安定すれば、その分、積極的にリスクを取って貸出を行うこともできるようになるだろう。

(高橋克英)