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建物を新築する際に、建築確認や完了検査業務などを担う「確認検査機関」をご存じでしょうか。建物の安全性を担保する「砦」というイメージをお持ちの方も多いかと思います。

確認検査機関とは、建物を建てる前に設計図が建築基準法等に適合しているかどうかを確認する機関のことです。このうち、国や都道府県などの指定を受けた民間の「指定確認検査機関」は全国に130程あります。

国交省は定期的に、重大な審査ミスがあった「指定確認検査機関」の名前を公表しています。昨年末には、業務停止命令などの処分を行った3社を公表しました。業務停止という重い処分が下されていることからも、その重大さがわかるかと思います。

私は地方自治体で建築確認審査や違反建築指導に携わってきた経験から、このような審査ミスが起きる背景には構造的な問題があると考えます。今回は、「指定確認検査機関」に焦点を当て、その役割や投資家が賃貸物件を建てる際の注意点などについてお話していきたいと思います。

「検査済」でも安全とは言えない理由

確認検査機関の担う役割は重要で、ミスがあれば重大な結果につながる恐れがあります。それが顕著に表れたショッキングな出来事がありました。

2021年4月に八王子市の共同住宅で発生した屋外階段の崩落による死亡事故です。アパートの経営をされている方にとっては、かなり印象に残る事故だったのではないでしょうか。

建築基準法上、屋外階段は原則として木造以外の鉄骨造や鉄筋コンクリート構造とするのが当たり前ですが、木造で施工していたために、木の部分が腐って起きた事故でした。

この件では、確認審査の段階では鉄骨造だったのが、施工時に木造に造り変えられ、完了検査時には木造として完了検査を受けて検査済証の交付を受けていました。

施工時の工事監理不足と施工不良の悪質性は言うまでもありませんが、完了検査時に施工不良を見抜くことができなかった確認検査機関にも過失があったと言えます。

この事故の教訓は、完了検査済証が交付されても、法に確実に適合しているとはいえないということです。

確認検査機関への処分内容は?

ここであらためて、昨年末に国交省が指定確認検査機関に対して行った処分がどのような内容だったのか、ざっと確認しておきましょう。

「防火規制区域」の見逃し

処分された3件のうち1件は、計画段階で建物が必要な防火基準を満たしていないにもかかわらず、着工前の審査で建築確認済証が交付されたとのことです。

このケースでは、建築エリアが「準防火地域」かつ、東京都知事が指定する「防火規制区域」だったということです。

「防火規制区域」は、木造密集地域の災害時の安全性確保を図るため、建物の不燃化を促進する区域を条例(東京都建築安全条例第7条の3)で定められています。防火規制区域では原則として、すべての建築物は「準耐火建築物」以上とし、さらに延べ面積500平米を超えるものは「耐火建築物」とする必要があります。「準防火地域」よりも厳しい規制があるのです。

延べ面積が500平米以内でも、本来は「準耐火建築物」以上でなければ建てられないのに、それを見逃してしまったという事案です。ちなみに「準耐火建築物」とは、火に強い石膏ボード等で柱や梁を45分間以上火炎に耐えられる防火被覆を施した建物です。

仮にですが、建築工事が完了しているとすれば、後から防火被覆を施工するのは大部分を解体しながら作業するため是正工事が複雑化します。是正コストと時間を消費するので補償費をイメージするだけでもゾッとします。

なお、是正工事が必要となっても建築主に故意がなければ是正コストを負担する義務はありませんし、契約不適合(瑕疵)に該当する可能性が高いことからも損害賠償請求も考えられます。

また、現在、住宅瑕疵担保履行法に基づく「新築住宅瑕疵保険」に住宅事業者が加入することにより、構造耐力上主要な部分等の瑕疵(10年間の瑕疵担保責任)の補修に対しては保険金が適用される仕組みとなっています。

都市計画法違反

もう1件も確認検査員のミスで違反建築であることが見過ごされていました。将来建設が予定されている都市計画施設(道路、公園上下水道など)の区域内に、本来建ててはいけない建物が建てられたとのことです。

「都市計画法第53条」では、都市計画施設の区域では、容易に解体可能な木造又は鉄骨造で2階建て以下の建物のみ許可されています。将来的な道路や公園といった都市施設の整備に支障が出ないようにするためです。

この基準に適合しない建物はそもそも建築することができません。例えば、鉄筋コンクリート造などの重量が重い建築物が建築された場合、都市計画法違反(建築基準関係規定)となります。

今そもそも設計者が設計段階で法をチェックできていないことが極めて重大な問題で、建築士も処分されます。とはいっても、欠陥のある建築計画をチェックするのは、確認検査機関の重要な役割です。

欠陥が見過ごされたまま建築されてしまった場合、最悪の場合、撤去や建て替えが必要になってしまう可能性もあります。賃貸経営であれば、入居者に一旦退去してもらうなどより深刻な事態が予想されます。

指定確認検査機関に対する処分は、年に数回公表されています。

なお、国交省の「ネガティブ情報等検索サイト」では、過去5年分の処分情報を公開しています。指定確認検査機関以外にも建築士に対する処分も見ることができますので、設計業務委託契約・工事監理契約を行う前に一度ご覧になることをお勧めします。

このサイトをみると、国土交通大臣が指定する指定確認検査機関に対して、過去5年間に26件の行政処分が行われています。処分のほとんどは、確認検査機関の審査ミスが原因とみられます。

民間開放された確認検査業務

指定確認検査機関の審査ミスを原因とする処分が一定数あるという話をしました。

安全な建物を建てる上で重要な役割を担う指定確認検査機関ですが、そもそもどのような位置づけの組織なのでしょうか。

指定確認検査機関は民間の企業です。かつては、自治体がすべての確認検査を担っていました。しかし、1993年の建築基準法改正により建築確認および検査業務が民間に開放されました。

指定確認検査機関がどのような業務を行っているのか、下の図のような建築の流れに沿って説明していきます。

建物が建つまでには、一般的には建築基準法に基づき建築確認→中間検査→完了検査を経る必要があります。

この3つの検査については、一部の例外を除いて「指定確認検査機関」が検査することができます。

民間開放の背景には、当時の建築確認・検査体制として建築主事(=建築確済証に名前が記載される人)1人あたりの件数が年間約600件となっていたことがあります。

私の経験から言えることとしては、1人あたり年間600件も確認審査を行うのは時間的にかなり無理があります。仮に構造計算が必要な中・大規模のものをチェックしていたら、毎日深夜まで残業するか、審査を甘くするかのどちらかを選択せざるを得ない状況になるでしょう。

建築行政の仕事は、こうした審査以外にも、違反建築指導やまちづくりなど多岐にわたります。行政の役割の一部を民間に開放することで、限られた人的資源を自治体にしかできない業務に重点的に置けるようになった点は評価できると思います。

このように、かつては行政の仕事だった確認検査の一部を担うようになったのが「指定確認検査機関」というわけです。

1機関あたり年間3700件を審査

では、指定確認検査機関は現在どのくらいあるのでしょうか?

国交省によると、国土交通大臣指定の機関は26、その他、各地方整備局指定及び都道府県知事指定を含めると全国に約130あります。

指定確認検査機関については、「日本建築行政会議」というサイトで都道府県ごとに調べることができますので、興味のある方は見てみてください。

一方、これらの機関が担う検査件数はどのくらいあるのでしょうか。

2020年の建築確認済証の交付件数は全国で51万7266件でした。このうち、指定確認検査機関によるものが47万5332件です。

下のグラフの通り、現在では確認検査業務の大部分を指定確認検査機関が担っていることがわかります。このことから、1機関あたり年間約3700件を担っていることになります。

(国土交通省住宅局)

建築確認業務が民間開放されたことによる、デメリットもあったのではないかと私は思います。

当然、民間企業ですので競争性が働くでしょう。他の機関との差別化を図る必要もあります。ですが、建築確認・検査業務内容は法に記載されている内容を審査する行為ですので、基本的にどこも業務内容は同じです。

ではどこで差別化を図るかというと、手数料や審査日数、申請手続きの電子化などの面です。指定確認検査機関は行政と比べて審査スピードの面で速いと言えます。

より多くの業務を引き受けようとすると、人員体制(審査体制)の不備が生じることにもなるでしょう。国交省による処分の対象となった審査ミスの背景には、人員不足もあるのではないかと予想します。

なお、審査手数料は審査機関ごとに異なります。例えば、延べ面積500平米アパートのケースを、東京都と民間審査機関(2社)で比較してみると、下の通りです。

・東京都      1万9000円
・民間審査機関A 7万8000円
・民間審査機関B 13万2000円

行政の方が低く、民間機関でも差があることが分かります。なお、自治体によっても手数料に差がありますので一概に自治体の手数料が低いとは言い切れないケースもあります。

問題のない建物を建てるために

建築物が適法に建つためには、確認審査・中間検査・完了検査による審査の他に設計、施工監理及び施工が適切であるかどうかが重要となります。

特に初期段階である設計図書の作成時点で、設計者以外の建築士に第三者チェックを依頼するのも一つの手段です。その上で、審査機関の建築確認や中間検査、完了検査を経ることで、ミスによって違法な建物が建ってしまう可能性を限りなくゼロに近づけられると考えます。

ということで今回は、建築確認検査を通ったから安心とは言えないワケについて話してきました。残念ながら、人が審査する以上、ミスはつきものです。これから賃貸物件を建築しようと考えている方は、建築の各段階でミスが起こる可能性もあることを念頭に、信頼できる設計者、施行者、監理者、そして確認検査機関を選ぶ事をおすすめします。

(満山堅太郎)