タワーマンション節税の是正に向けて、国税庁が動き出した。
国税庁は今年1月、相続税の評価体系の見直しに向けた有識者会議の第1回目を開催した。都市部のタワーマンションでは、売買の実勢価格と相続税に適用する相続税路線価の乖離が大きく、富裕層などを中心にこの差を利用して節税対策を行う人がいる。時には数億円単位の節税に繋がる極端な事例もみられることから、このような節税の是正に向けて国が乗り出した形だ。
今回は都心部のマンションによる節税のしくみと、近年の是正の動き、有識者会議で議論されている内容についておさらいしたい。
タワマンを利用した節税とは
不動産の所有による相続税の節税は以前から行われてきた。ここで簡単に仕組みをおさらいしておきたい。
不動産に対する相続税の税額を決めるのは、「相続税評価額」だ。これは「相続税路線価」をもとに算出される。相続税路線価は国が評価して算出する公示価格より割り引かれる傾向にあり、さらに公示価格も実勢の売買価格よりは低い傾向にある。
実際に売買する価格より、資産価値の評価に使う路線価が低いケースが多いため、実態の資産価値より不動産の税額を計算する際の評価額は割り引かれることになる。そのため、現金のまま保有するよりも不動産で保有する方が相続税が抑えられるのだ。
都心部のマンションの場合、実勢価格と路線価の価格差がより顕著に表れる。特に眺望の良いタワーマンションの上層階などになると、実勢の売買価格と路線価の差が数倍になる事例もある。
富裕層のなかには、このような高級タワーマンションを複数所有することで、相続税を数億円単位で圧縮する人もいる。
過度な節税に対する是正の動きが進む
国は近年、このような極端な節税を是正する動きを見せている。実勢価格と著しく乖離した相続税評価額が申告された場合は、国税庁は財産評価基本通達6項(総則6項)をよりどころにして、更生処分を行っている。
総則6項は、国税庁長官の指示により、財産の評価を見直すことができる規定だ。国税局の「伝家の宝刀」などと呼ばれている。
評価額が「著しく不適当」と認められる場合は、国税庁長官が追加徴税などの処分を行うことがある。しかし、この「著しく不適当」の基準が曖昧であることから、しばしば訴訟問題に発展する事例も。
2019年には、東京と神奈川のマンション(計約13億円)を相続した相続人が、税額をゼロとして申告したことを受け、国税庁が3億円の追徴課税を行ったことが適法かどうか裁判で争われた。2022年4月には、最高裁で相続人側の敗訴が確定している。
また、固定資産税の評価においては、相続税に先んじて2018年度からタワーマンションの階層ごとの評価額に傾斜をつける制度が施行されている。具体的には中間階の税額を従来通りとして、1階層ごとに税率を0.256%上げるものだ。40階のマンションの場合、20階と40階で全く同じ専有面積の区画があれば、約5%ほど固定資産税に差が生じることとなる。
ただ、総則6項を適用して税額の是正が行われる事例はほんの僅か。また、固定資産税に数%程度傾斜が付いたとしても、増税のインパクトはせいぜい数十万から、高くても数百万円程度にとどまることがほとんどである。
そのうえ相続税については2023年2月時点では相変わらず階層による時価の差が考慮されない仕組みであるため、富裕層によるタワーマンションを活用した節税が抑制されているとは言い難い。
そこで政府は、過度な節税の抑止をさらに進めるべく、2023年度の税制改正大綱において「マンションの相続税評価額の見直し」を盛り込んだ。2023年1月に入ると早速、相続税評価額見直しに向けた有識者会議が開催されている。
有識者会議で相続税評価の方法を検討
2023年1月30日には、第1回「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」が実施された。租税に関する法の専門家や、不動産鑑定士などが集められ、相続税評価の方針や具体的な方法について議論が行われる。ここからは、同会議の概要や要旨について紹介していきたい。
まず、2023年度の税制改正大綱におけるマンションの相続税評価に関する項目の確認が行われた。
マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。(マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について)
マンションの相続税評価額を個別に判断することになると、納税者の判断に問題がないかどうか確認する必要も出てくるため、評価方法について新たな基準を設け、適正化を目指す方針だ。
また、過去の評価額と実勢価格が乖離していた事例や、近年のマンション価格の高騰状況について共有があった。事例については次の3例が資料に掲載されている。
そのほか、財産評価基本通達6項を適用して是正勧告をおこなった事例についても共有。一方で、評価通達が2012~2021年度で累計9件にとどまっている現状を確認。財産評価基本通達6項を適用する明確な基準がないため、平等原則に配慮した結果、適用件数が伸び悩み、過度な節税の抑止に寄与していない実態が浮かび上がった。
有識者からは「価格乖離の問題は、タワーマンションだけではなくマンション全体にいえることから、評価見直しの範囲をタワーマンションに限定すべきではない」「評価を見直した結果、評価額が時価を超えることとならない配慮が必要」と、公平性に配慮すべきという主旨の意見が見られた。
また「時価と相続税評価額との価格乖離の要因分析を行うに当たり、統計的手法による分析が有用」、「市場への影響にも配慮すべきで、特にマンションの評価増が物件販売時のマンションと一戸建ての選択に影響を与えないようにしなければならない」などの意見も。論理的な分析の実施や、評価体系の急変が不動産市場に悪影響を与えないよう配慮を求めた形だ。
さらに、足元の物件価格の高騰にはコロナ禍に伴う資材価格の高騰の転嫁も一部みられることから「いわゆるコロナ前の時期における実態も把握する必要がある」という意見もあった。
こうした意見を受けて、今後の方向性として「評価額と時価の乖離を適切に是正することを目的とするものであって、一部の租税回避行為の防止のみを目的として行うものではない」ことが示された。そして、「相続税評価額と市場価格との乖離の実態把握及び要因分析の方法」や、分析を受けて確認された「乖離の是正方法及び乖離の是正に当たって留意すべき事項」などを検討していく必要があることを確認した。
◇
今回の会議は初回ということもあり、現状の評価額と売買価格の乖離状況の確認や、今後の検討事項や留意点が確認されるにとどまった。
今後の会議では、さらに統計学的な見地から乖離の状況が分析されたうえで、相続税の評価額と市場価格の乖離を是正するためのあらたな評価手法の検討が進められると思われる。
一戸建てなどと比較した公平性への配慮や過度な是正が不動産市場にゆがみをもたらさないよう配慮を徹底するものと期待されるが、現状のようなタワーマンションを活用した極端な節税機会は縮小に向かうと想定される。特に節税目的で不動産購入を考えている人は、今後想定される評価体系の変化に注意したい。
(伊藤圭佑/楽待新聞編集部)
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