
PHOTO:よねやん / PIXTA
日本銀行の黒田東彦総裁が任期満了を迎え、新しく経済学者の植田和男氏が起用される見通しだ。さまざまな金利に関する専門用語が飛び交っていて、当たり前のように耳にするものの、「いまさら基礎的なことを聞けない」という人もいるのではないだろうか。
今回は、必ず理解しておきたい「金利」に関する専門用語の解説をしていきたい。基礎知識を得たうえで、今後どのような点に注目していけばよいのか簡潔にまとめてみた。
ニュースを読み解く前提知識「金利」を理解する
金利に関する報道でよく耳にする、「政策金利」や「短期金利」「長期金利」など。ニュースを読み解くうえで知っておきたい、よく聞く用語について解説を試みたい。
・政策金利
政策金利とは、日本銀行(以下、日銀)など各国の中央銀行が金融政策において定める短期金利のことを指す。この政策金利を調整することで、景気や物価の安定など金融政策上の目標達成を目指している。民間の金融機関は、政策金利に基づいて日銀から融資を受ける。
景気が過熱(インフレ)しているときは、政策金利の利上げをして金融引き締めをする。逆に景気が後退(デフレ)しているときは、景気を活性化させることを目的に政策金利を利下げして金融緩和を行う。
現在、日銀が行っている「マイナス金利政策」については後述する。
・短期金利/長期金利
短期金利とは、取引期間が1年未満の金利のことを指す。先に解説した「政策金利」や1年未満の定期預金、普通預金の金利も短期金利に分類される。
その他に「短期プライムレート」も短期金利の1つ。短期プライムレート(以下、短プラ)とは、金融機関が業績の良い最優良企業に対して資金を貸し出す際の最優遇金利のうち、1年未満の短期貸出金利のことだ。つまり、金融機関から見てもっとも信用力のある企業に貸し出す金利と言い換えることもできる。
短プラは、各金融機関が政策金利などの市場金利を参考に独自で決定するものの、2009年からの14年間数値に変化はなく「1.475%」を推移し続けている。

主な短期金利指標の推移(出典:ニッセイ基礎研究所)
一方、長期金利とは金融機関が1年以上お金を貸し出す際に適用する金利のことだ。新聞やテレビなどで報じられている長期金利は、「10年国債利回り」を指している。これは10年国債の利回りが長期金利の代表的な指標となっているからだ。その他、企業が発行する社債の金利なども長期金利に含まれる。
・イールドカーブコントロール(YCC)
イールドカーブとは、債権の金利と償還期間(発行日から満期までの期間)との相関性を示したグラフのことだ。

イールドカーブの概略図、X軸は償還までの期間、Y軸は利回りを示している。平常時・金融緩和時は順イールドに、金融引き締め時は逆イールドになる
残存期間が長いほど将来のインフレ期待やリスクが考慮されて金利が上がるため、イールドカーブは右上がりの曲線(順イールド)になることが一般的だ。一方で、景気後退が予測される場合は右下がりの曲線(逆イールド)になることもある。
イールドカーブコントロール(以下、YCC)とは、日銀が短期金利と長期金利の関係をコントロールして、イールドカーブを適切な水準に維持することを指す。日銀は長期金利に目標を設定し、その目標を達成するために国債の売り買いを必要なだけ行うことで調整を図っている。
2016年9月にYCCが導入された当初は短期金利をマイナス0.1%に誘導し、10年国債の金利を概ね0%に誘導することから始まった。
・住宅ローン金利
ここまで得た知識をもとに、身近な住宅ローンはどの金利の影響を受けるのかを考えてみたい。
まず、変動金利は短期金利である「政策金利/短期プライムレート」を基準に決定されている。そのため、14年間大きな変化は起きていない。
一方で、固定金利は長期金利である「10年国債利回り」を基準に決まる。最近、住宅ローンの固定金利が上昇したと言われるのは、YCCの基準変更で10年国債利回りが上昇したことが原因だ。

住宅金融支援機構「民間金融機関の住宅ローン金利推移(変動金利等)」
・異次元緩和/マイナス金利政策
異次元緩和とは、日銀の黒田総裁就任以降に始まった金融緩和の通称のことだ。「黒田バズーカ」とも呼ばれている。例えば、2016年1月に「マイナス金利政策」の採用もその1つで、同年2月16日から実施され、現在も続いている。
マイナス金利とは、金融機関が日銀に「預けなければならないお金」ではなく、日銀に「預けておいても支障がないお金」、いわば余分な預金に利息がかかるということを意味する。一般預金者に直接的な影響があるものではない。
銀行としては日銀にお金を預けておくと不必要な利息を取られてしまうため、多少金利を低く設定しても積極的に貸し出したほうがメリットが大きい。そうなると、住宅ローンのように担保が明確で貸し倒れリスクの低い融資に対しては積極的な姿勢になるだろう。
このように「マイナス金利政策」を採択することで、市場にお金が流れて経済が回り、景気が良くなるという仕組みだ。
企業活動にとっても金利は重要な要素だ。例えば、企業が事業拡大や新規事業などの設備投資のために資金調達をする場合において、低い金利であれば借り入れコストを押さえられ、事業拡大などがやりやすくなる。
逆に金利が高いと借り入れコストが増加するため、それだけ大きな収益が得られる確度が高い事業でないと拡大したり、参入したりするのが難しくなるのである。
また、企業が発行する債券や株式も市場の金利水準に影響される。例えば預金金利が低い状態であれば、債券や株式への需要は高まるだろう。しかし、預金金利が高い状態であれば、わざわざリスクを取って債券や株式にお金を投資するよりも、確実にお金が増える銀行預金などに資金が向かうことになるのである。
つまり、2013年春からの「異次元緩和」は、金利を低下させるという通常の金融緩和以上に、市中の資金を潤沢にし、企業活動への資金面での制約を取り払い、設備投資や事業拡大を活発化させて景気の浮揚を図るものである。リーマンショックからの景気の落込み、デフレからの脱却を図るものであった。景気回復、デフレ脱却が見え始めていたところで、新型コロナウイルスの感染が拡大し、さらに金融緩和を強化することになったのである。
今後注目すべきは?
基本的な理解が得られたところで、今後の金利変動がどのような影響を及ぼしうるのかを見ていきたい。
コロナ禍が一段落し、地政学リスクや世界的なインフレが拡大する中で、欧米ではいち早く金融緩和が終了し、金利が上昇した。日本との金利差が大きくなったため、日本円が売られて大幅に円安へと傾いた。
その影響から、日本でも金融緩和の終了が取りざたされ始めている。実際に、日銀がYCCで長期金利の変動幅を拡大して債券利回りは上昇した。これにより金利上昇の余波も広がることになり、「事実上の利上げ」という声も上がっている。
一般的に、金利の上昇は景気の回復やインフレ期待を示すものと考えられる。しかし、現状日本の背景になるのは、物価高による悪いインフレ(景気が停滞しているにもかかわらず、インフレが続く状態)だ。
金融を引き締めて市中から資金を吸い上げるというほどの金利上昇ではなく、まずは異常な状態から正常に戻す、「異次元緩和」から「緩和」になるだけと予想する。
まずはインフレが進むのか収束するのか、金利の上昇があるのかどうかに注目が集まる。金利が上昇するともなれば、まず住宅ローンへの影響が気になるところだろう。先に述べたように、長期金利に連動している固定型の金利が上昇しているが、短期金利(短プラなど)に連動する変動型の金利はまだ変わっていない。
とはいえ、マイナス金利が修正された場合には変動の可能性もある。ただ、企業業績が好調・景気が良いという状況で初めて上昇するのが短プラとも考えられるので、まだ業績が芳しくない企業が多いうちは短期金利までの影響は少し先になるのではないかと思う。
このように実際に日銀の金融政策が我々の日常の生活に影響を与えることも多く、金利の動きに注目しておくのも資産を守る、あるいは資産を作る上では重要なことだろう。
(清水洋介)
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