皆さんは「生産緑地の2022年問題」を覚えているだろうか。
「生産緑地」とは、市街化区域にある緑地の保全を目的に、市町村によって指定される農地のこと。生産緑地の指定を受けた農地では税制優遇を受けられるが、30年間、営農の義務が課される。宅地への転用などもできない。
この生産緑地は、1991年に改正された「生産緑地法」に基づいている。翌年1992年、全国199の都市で本格的な運用が始まった。そして法改正から30年目となる昨年2022年、多くの生産緑地が、指定から30年目を迎えたのだ。
2022年、一斉に生産緑地の指定が解除されることになれば、それらが一気に市場に供給され、地価の下落を引き起こすのではないか─。主に不動産関係者の間で、このような懸念が持たれていた。これが「生産緑地の2022年問題」だ。
この問題については、2022年以前にはメディアで取り上げられる事も多かったが、「結局どうなったのか」という話はあまり聞かない。そこで今回は、国土交通省の発表を基に、この問題を振り返ってみたい。
結局9割が「特定生産緑地」に
前回の記事でも触れたように、30年の指定期間の解除が迫ると、政府は農地保全を図るため、2017年に生産緑地法の改正を行った。そして新たに導入されたのが「特定生産緑地制度」だ。
この制度は、指定解除された生産緑地について、新たに「特定生産緑地」として指定することで、生産緑地指定を10年間延長できるというものだ。
三大都市圏における一部の市街化区域農地では、固定資産税は宅地並みの課税となっているケースもある。そうした中、生産緑地は農地課税となり、相続税の納税猶予制度も適用されていた。
生産緑地制度の後継制度として作られた「特定生産緑地」でも、これらの優遇税制が継続された。さらに、特定生産緑地制度は指定期間を10年間とし、10年を経過後は繰り返し10年の延長が行える制度設計となっている。
この「特定生産緑地」の指定状況が、今年2月、国土交通省から発表された。発表によると、2022年8月から12月に指定解除となった生産緑地9273ヘクタールのうち、特定生産緑地の指定を受けたのは8282ヘクタールと89.3%に上り、指定を受けなかったのは991ヘクタールで10.7%と約1割にとどまった。
生産緑地指定の解除により農地から宅地などへ変更され、市場に出てくる土地は最大で991ヘクタールにとどまり、地価に大きな影響を与える懸念は薄らいだと言えそうだ。
さらに10年後はどうなる?
では、特定生産緑地が指定を解除され、市場に出てくることはないのだろうか?
特定生産緑地の指定が解除される条件は生産緑地と同様だ。
第一に指定期間が経過した場合で、生産緑地では30年だったが、特定生産緑地では10年間となった。第二に農業従事者が死亡した場合や、何らかの理由により農業を継続するのが困難になった場合である。
また、指定期間が経過、あるいは農業を継続するのが困難になったからといって、勝手に土地を売りに出せるわけではない。生産緑地と同様に、まずは市区町村に対して買い取りを申し出なければならない。市区町村が買い取りを見送った場合には、ほかの農業従事者に取得を斡旋する。それでも取得希望者が見つからなかった場合、初めて農地以外に転用することが可能となる。
なお、今回の調査で特定生産緑地の指定を受けなかった991ヘクタールについても、生産緑地としての規制は継続される。ただし、いつでも市区町村に対して買い取りの申出ができるようになり、買い取りの申し出とともに生産緑地としての規制が解除される。
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生産緑地指定の解除により、都市部の農地が市場に流れ込み、地価を引き下げる…。そうした懸念はひとまず回避されたと言えそうだ。
特定生産緑地では指定期間が10年となり、さらに10年間の延長を繰り返し受けられる制度であるため、農地所有者の選択肢が広がった。もちろん、10年の指定期間に所有者が亡くなるなどで指定解除されるケースも数多く出てくるだろう。
それでも、指定解除には市区町村への申出が必要となるため、解除された特定生産緑地が簡単に市場に出てくることは少ないだろう。これにより、生産緑地の指定解除問題は、ほとんど解消されたと見ることができるのではないだろうか。
(鷲尾香一)
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