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全国で初となる「空き家税」が、京都市で誕生することになりそうだ。

正式な名称は「非居住住宅利活用促進税」。京都市が条例に基づく「法定外税」として独自に創設する。住まいとして使われなくなった空き家の所有者に課税し、空き家物件の流通を促進するのがねらいだ。京都市が以前から導入に向けて準備を進めていた。

実際の導入にあたっては総務相の同意が必要となるが、3月23日、松本剛明総務相が同意を表明する方針を固めたと各メディアで報じられた。このまま国の同意が得られれば、2026年頃の導入に向けて具体的な準備が進む見込みだ。

空き家問題は、今や日本にとって最も重要な課題の1つとなっている。それだけに、同様の動きが全国に波及することを期待する声も挙がる。一方、今回の新税創設の背後には、京都市の厳しい懐事情が絡んでいるという見方も。京都在住の不動産投資家や専門家に意見を聞いた。

全国初の「空き家税」はどんな税?

まずは今回の「空き家税」について、簡単に概要を確認しておこう。

昨年1月、京都市が新税に関する骨子案を発表している。案によると、課税対象となるのは、京都市の市街化区域内に所在する空き家の所有者。税率は、空き家の固定資産税評価額に応じて以下の通りとなっている。

なお、賃貸用物件、京町家など歴史的建造物など、一定の要件を満たせば課税の対象外となるものもある。また、家屋の固定資産評価額が100万円未満の建物は、制度導入後5年間は課税対象外となる予定だ。京都市は「空き家税」の導入で、年間約9億5000万円の税収を見込んでいる。

背景に京都市の「厳しい懐事情」も

前述の通り、今回の「空き家税」新設の目的として、京都市は「空き家の流通促進」を挙げている。空き家への課税を強化することで、放置されていた空き家を売り物件として市場に流れやすくする狙いだ。

では実際のところ、「空き家税」の創設は空き家の流通促進につながるのか。京都市在住の不動産投資家「築古大家のコージー」さんはこれについて次のように推測する。

「(新税をきっかけに)売りに出される物件があるとすれば、京都市の辺縁部などがメインでしょう。中京区や上京区など京都市の中心部には富裕層が多いので、多少の増税で売りに出されるということは考えにくいです」

また今回の新税創設の背景には京都市の「苦しい懐事情」があるとコージーさんは話す。

「京都市はここ数年、財政状況がかなり厳しく、2021年には門川大作市長が『このままいけば京都市は財政破綻もあり得る』と発言しています。厳しい懐事情は現在も変わっておらず、単純に、空き家税で税収を増やしたいという思惑があるのでしょう」

京都市が市民向けに発行していた「市民しんぶん」。市の財政状況について伝えている

世界的な観光地である京都市内には、ホテルや旅館が数多く建つ。市内の好立地の場所は、その多くが宿泊施設の建設地となり、インバウンド需要もあって価格が高騰。結果、一般の人々が住むための物件が足りない状態が続いていた。

さらに京都市では、景観を守るため、全国的にも厳しい高さ制限を設けてきた。そのためマンションの建設などが進まず、若い世代やファミリー層の「京都市離れ」が起きていた。

「京都市内で住む場所を探せない人々が、近隣の木津川市などに流出するという現象が起きているんです。京都市としては、空き家税の創設で、新たな税収はもちろん、中古住宅市場を活性化させて、若い世帯を呼び戻したいという狙いもあると思います」(コージーさん)

空き家対策としての有効性には疑問の声も

税理士・不動産鑑定士・公認会計士の冨田建氏も、今回の空き家税導入の背景について「財政が厳しい中で市の税収を増やす目的もあるのだろう」と見る。その一方で、新税が「空き家問題への解決に一役買っている側面もある」と話す。

「法定外税という自治体独自の税目を定められる仕組みがあるとは言え、何でもかんでも認められるわけではありません。今回、国が同意するということになれば、国としても、空き家対策を後押ししたいという意思の表れと受け取れるでしょう」(冨田氏)

また冨田氏は、空き家の増加は全国的に問題になっていることから、ほかの自治体でも同様の動きが広がる可能性があると予想する。

「京都市に限らず、空き家の増加に悩む自治体は多い。同時に財政が厳しい自治体にとっては税収の確保につながります。実質的な増税なので、政治家にとっては有権者からの反応が気になるところはあるかもしれませんが、空き家の増加で住環境の悪化が問題になっている地域では住民の理解も得られるのではないでしょうか」(冨田氏)

ただ、空き家税の導入が、空き家解消にどの程度効果があるのかは疑問も残るという。

「評価額が低い空き家は当面は非課税となるものも多いため、築年数が古く老朽化した小さな空き家は依然として放置されるのではないでしょうか。新税が導入されて空き家の税率が多少上乗せされても、宅地の固定資産税・都市計画税が優遇されることには変わりなく、効果は限定的なのではないかと思います」

「空き家税」の導入については、SNSなどでも賛否が分かれている。実際、楽待が実施したアンケート(有効回答数654)では、「支持する」と「支持しない」がほぼ同数という結果となった。

YouTubeチャンネル「不動産投資の楽待(登録者40万人)」にてアンケート実施 ※3月23日18時現在

順調にいけば、3年後には全国で初めての「空き家税」が誕生する見通しだ。しかし、SNSなどでは増税に反対する声も上がっており、京都市に続く自治体が今後どれだけ現れるかは未知数だ。「空き家税」が空き家問題の打開策となるか、試金石となる京都市の事例には引き続き注目していきたい。

(楽待新聞編集部)