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今年の4月以降、「所有者不明土地」の対策が大きく動き出す。

まず4月27日、「相続土地国庫帰属制度」がスタートする。一定の要件を満たせば、相続した土地を国に引き渡すことができる、という制度だ。

これまでは相続する土地について「もらっても使い道がない」「管理に手間がかかる」という問題があったとしても、そのまま相続するか、相続を放棄するかのどちらかを選ぶしかなかった。同制度により今後は、「国に引き取ってもらう」という第三の選択肢が生まれることになる。

さらに2024年4月からは、「相続登記の申請義務化」も始まる。相続後に未登記のまま放置される土地が減ることで、所有者不明土地の増加に歯止めがかかると期待されている。

本記事では、これら制度の概要について紹介したい。

相続土地国庫帰属制度」とは

「所有者不明土地」とは、所有者が不明な土地、あるいは所有者が分かっていても所在が不明で、連絡がつかない状態の土地のことだ。

相続登記がされないまま、子どもから孫、孫からひ孫へと代替わりしたり、土地所有者が引っ越しを繰り返したりしているうちに、所有者が不明となってしまうケースが多いと見られる。

このような所有者不明土地は、2016年の時点で、すでに九州本土の面積を上回る410万ヘクタールにのぼっている(所有者不明土地問題研究会の資料より)。このまま対策を行わない場合、2040年には北海道本島に迫る720万ヘクタールにまで増加するという推計もある。

このような背景から、その対策として導入されるのが「相続土地国庫帰属制度」だ。相続しても使い道のない土地を、「国に引き取ってもらう」ことが可能になる。

希望する土地を申請すれば、法務局が現地調査を行い、引き取りの可否を判断する。引き取り可能となった場合には負担金を支払い、国に帰属させることになる。負担金は10年分の管理費用で、原則として20万円となっている。

このほか、申請時には手数料が1万5000円程度必要になる。なお、この手数料は法務局による現地調査費なので、引き取りが却下されても返却されない。

ただし以下の要件に当てはまる土地は、引き取りや管理がスムーズに行えない可能性があるため、申請が却下される。

■却下要件
1)建物が存在する土地
2)担保権等負担のある土地
3)通路、その他の他人による使用が予定される土地
4)土壌汚染されている土地
5)境界が明らかでない土地

さらに上記に該当しなくても、引き取り「不承認要件」として以下の項目がある。法務局が現地調査を行い、これらのいずれかに抵触した場合には、引き取りが認められないケースがある。

■不承認要件
6)危険な崖がある土地勾配が30度以上であり、かつ高さが5メートル以上
7)工作物・車両・樹木が地上にある土地
8)地下に除去すべき有体物がある土地
9)隣人とのトラブルを抱えている土地
10)6~9までの土地のほか、通常の管理または処分するにあたり過分の費用または労力を要する土地

「相続登記の申請義務化」で何が変わる

「所有者不明土地」の対策としてもう1つ注目しておきたいのが、「相続登記の義務化」だ。

現在、相続があった後の相続登記について法律上の義務はない。そのため、相続が発生しても登記が行われず、最終的に所有者が分からない土地が増加する要因となっている。

法務省が2017年6月に全国10カ所の地区で行った調査によると、最後の登記から50年以上が経過している土地は大都市で6.6%、中小都市・中山間地域で26.6%あり、70年、90年以上が経過しているものも存在している。

こうした背景から、2024年4月から、「相続登記の申請義務化」が行われる。相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならず、正当な理由がないのに義務に違反した場合は、10万円以下の過料の適用の対象となるというものだ。

また、2026年4月までに開始される「住所等の変更登記の申請の義務化」では、登記簿上の所有者が住所等を変更した日から2年以内に、住所などの変更登記の申請をしなければならず、正当な理由がないのに義務に違反した場合は、5万円以下の過料の対象となる。

気を付けなければならないのは、「相続登記の申請の義務化」が開始される以前に相続した不動産であっても、義務化の開始から3年以内(住所等の変更登記は義務化から2年以内)に登記を行わなければならないという点だ。義務違反は過料適用の対象となるので注意してほしい。

以上のように、今年から2026年4月までの間に、所有者不明土地対策が相次いで開始される。所有者不明不動産の発生を防止し、その活用を図ることが狙いだ。だが、例えば「相続土地国庫帰属制度」では、国に帰属した土地を実際に管理するのは、国なのか、各自治体なのかは明確ではない。

また国に帰属した土地の活用はどこが行うのか、どのような活用を行うのか、これらの土地が不動産市場に出て売却物件となるのか、不動産市場の活性化につながるのかなど、判然としない点も多い。まだまだその効果は不透明だ。

(鷲尾 香一)