
善福寺公園
筆者は現在は東村山に住んでいるが、その前は杉並区の西荻窪に住んでいた。
西荻窪には約9年居住した。「住みたい街」として人気の西荻窪だが、僕がはじめて西荻窪に降りたのは新興宗教の潜入のためだった。
実は、オウム真理教の後継団体のアレフの道場は西荻窪にある。西荻窪駅北口から歩いてすぐだ。当時はホームページで道場の地図が書かれていた。テクテクと歩いて行くと、普通の白い一軒家が建っていた。
普通ではないのは、道場の前の電信柱に「オウム教団は杉並区から出ていけ!」と書かれたのぼりが出ていることと、洗濯物として、テレビでよく見たサマナ服が干されていることくらいだった。

施設は、一見すると普通の民家にあった
ドアチャイムを押し、出てきた信者に「入信したいんですけど……」と伝える。幹部的な信者と面接し、入会が認められ、その日から3カ月ほど潜入した。
宗教団体と近隣住民の関係は
近所の人にとっては、近隣にオウム真理教があるというのは非常に嫌なことだろう。
修行はワーグナーのような曲をかけながら、全員で五体投地をドタンバタンと続けるという、大変騒々しい修行もあった。
ただ基本的に修行は、地下室で行うので周りに音が漏れることは少ない。
ただ、経行(きんひん:早歩きする修行)という修行はほとんどの信者が揃って外に出た。深夜にゾロゾロと西荻窪の夜道を早歩きする。中にサマナ服姿の信者もいた。
道場から15分ほどの善福寺公園まで向かうと、そのまま全員でグルグルと公園の池の周りを歩く。すれ違った人はかなり驚いた顔をしていた。深夜に競歩っぽい感じで必死に歩いてる団体は、かなり怖かったろう。
当時は、定期的に元オウム真理教幹部の上祐史浩氏の講座があった。先日、上祐氏に直接会う機会があって話を聞いたところ、僕が潜入していた当時は、上祐氏はアレフ内でパージ(追放)されかかっていたらしい。
僕も、そしておそらく他の多くの信者も、そんなことは露知らずだった。上祐氏は当時、とにかく人気だった。講座の日には大量の信者が道場に押し寄せてきていた。おそらく他の場所にあるアレフの道場からもやってきていたのだと思う。
その頃、信者がたくさん訪れるのを監視するため、警察の公安もやってきていた。なぜ公安だと分かるかというとわざわざ、腕に公安と書かれた腕章をつけていたからだ。多くの信者は公安を無視してスタスタと道場の中に入っていく。僕もソソクサと信者に紛れて道場の中に入ろうと思ったが、その時ガッっと腕を掴まれた。
「見かけない顔だけど、信徒さん? 名前と連絡先教えて」
強い口調で言われた。断ろうとしたが、手を掴んだまま離さない。外であんまり時間を食っても仕方がないから、泣く泣く名前などを教えて道場の中に入った。
アレフの道場に入ると「公安に絡まれたでしょ? 新入りは絶対に捕まるのよ。気にしないでいいわよ」「上祐さんの講座の時は警察もたくさん来るのよ。真面目な講義をするだけなのにね」などと話しかけられた。潜入先なのだが、ちょっとホッとした気分になったのを覚えている。
ただ、普段は身体検査などしない道場内だったが、上祐さんが来る時だけは身体検査があった。僕は、胸に隠しカメラを仕込んでいたので、それがバレるわけにはいかず、「ああ、お腹痛いです!」とトイレに駆け込んで、慌ててカメラなどの装置を取り外してから検査を受けた。
道場内のドタバタはともかく、屋外での公安と信者の剣呑なやりとりは、近所の人からしたらとても嫌だろう。
修行を終えて道場から外に出ると、近所の人からギロッっと睨まれて肝が冷えた。
上祐氏はその後2007年にアレフから離脱して「ひかりの輪」を立ち上げた。本部は、世田谷区烏山のマンションに入っている。
上祐氏は公式サイトなどで「ひかりの輪は、宗教ではありません」と語っているが、世間の認識も、実際の活動も宗教団体的だ。マンション内に住む他の階の人も、もちろん宗教だと思い、嫌悪感を隠さず、「我々はあのサリン事件を忘れない! ひかりの輪・アレフ反対解散せよ! 3・4・5階は一般住民、大迷惑」と横断幕がかかっている。
マンションの周りには警察の見張り小屋が建てられ、近寄ると声をかけられる。かなり異常な雰囲気だ。
仕事で一度、施設内に入らせてもらったことがあるが、意外なほどアレフの道場と雰囲気が似ていた。「これは、まあ、どう見ても宗教団体だな」と思った。
西荻窪に住んで知った、新興宗教施設の多さ
僕自身はアレフの道場にしばらく通ったあと、西荻窪という場所がかなり好きになっていた。
古くからの味のある飲み屋街や商店街もあるし、美味しいご飯屋さんも多い。
だから、潜入から数年後、前の住所から引っ越す際、居住地として西荻窪を選んだ。
住心地は想像通り悪くなかったが、住んでみて驚いた。西荻窪にはほかにも新興宗教の施設がたくさんあるのだ。
まず、深見東州が教祖をつとめるワールドメイト。関連の施設がズラッと並んでいる。「ワールドメイト みんなひょうきん東京エリア本部」というなんだかなあ……という名前の施設がある。
公式ホームページを見ると「当エリア本部は、ワールドメイトのご神業の発祥地、西荻窪にあり、東京圏の中心となるエリア本部です」と書いてあるので、数あるワールドメイトの施設の中でも中心的な存在なのだろう。
「東州センター東京」「たちばな出版」「みすず学苑」「ドリコメセンター 東京東州センター東京」と、ワールドメイト系列の施設が点在する。
最近なにかと話題になっている、幸福の科学の施設もある。
西荻窪は幸福の科学の発祥の地だそうだ。駅前には「幸福の科学 西荻窪拠点」がある。建物の入り口には「幸福の科学 杉並支部」と書かれていた。この施設は、幸福の科学らしいパルテノン神殿を模したようなきらびやかな建物ではない。いたって地味な雑居ビルだ。ビルの看板にはブティックやスナックと並んで「人生の大学院 幸福の科学」と書かれている。

幸福の科学杉並支部、と看板がかけられた雑居ビル
西荻窪で生活する上で施設の前をよく通ったが、あまり利用されている様子はなかった。1990年代には教団の拡大とともに、大きなビルに移転していった。ある意味、過去の幸福の科学の様子を残していると言える。
教祖の「自宅」周辺で起きる騒動
少し話は逸れるが、幸福の科学の中でも特徴的で巨大な建造物は、高級住宅街港区白金に建つ「大悟館」だろう。

大悟館

門の横には看板
土地だけでも620坪20億円。総工費は30億円以上と言われている。この施設は教祖である大川隆法の自宅、と言われている。ただ教団は、宗教施設と主張している。
施設は西荻窪の施設は違い、幸福の科学らしい華美なデザインだ。緑青色のヘルメスの立像や金色の仏陀像が建物の外壁に飾られていて、圧巻される。
そしてそれ以上に「ここは宗教の神域・降霊場にて 隣でのマンション建設・騒音はお断り」と書かれた垂れ幕が目立つ。
教団はこの施設に近づく者にかなり警戒していて、近くを歩くとかなり強い口調と態度で排斥される。
この施設に定期的に訪れては騒ぎを起こしている、ジャーナリストの藤倉善郎氏は、「施設の前の道は公道なので教団に規制される筋合いはありません! 花見の季節なので写真を撮りに来ているだけです」と話している。
施設の横にはたしかに桜が咲いていたが、わざわざ見に来るほど見事な桜ではない。
藤倉氏が施設の近くへ寄ると教団員は手に持った「無断撮影は肖像権侵害です」「宗教活動の妨害、迷惑行為はやめて下さい!」などと書かれたプラカードで藤倉氏の花見? を妨害していた。
「この教団が建った時は、地元の人と揉めたそうです。ただ文句を言った人の自宅には、個別で教団が回って説得したそうですよ。それって僕は脅しだと思うんですけど……?」
これは藤倉氏の個人の見解だが、少なくとも藤倉氏が起こす騒動に近所の人が迷惑しているのは、事実だろう。
なぜ西荻窪に新興宗教施設は多いのか
話が大いに逸れてしまったが、西荻窪にはその他にも「世界救世教いづのめ教団 杉並浄霊センター」「天理教本井戸分教会」などの新興宗教の施設がある。
アレフの経行で善福寺公園に行く途中には「世界平和統一家庭連合 杉並家庭教会」が建っている。2022年に安倍氏殺害事件で話題をさらった、旧称統一教会の施設だ。
そして厳密には新興宗教施設ではないのだけど、『大霊界』でおなじみの丹波哲郎氏の邸宅もあった。当時の地図を見ると堂々と、「丹波哲郎」と書かれていた。2007年に取り壊されて、現在は真新しい新築の家が二軒並んで建っている。
なぜ、西荻窪にはこれほどまでに新興宗教系の施設が多いのか。ネットで調べると、
「杉並区は東京の中でも別格のパワースポット。一説には荻窪とは隕石が落ちてできた穴のこと」
「大本教の開祖が『救世主は西荻窪から現れる』と言ったから」
などの情報が載っていた。
僕が西荻窪に住んでいる時に地元の飲み屋に行ってちょくちょく話を聞いたときは、もうちょっと現実的な話だった。
「西荻は昔、多分、家を借りたり、買ったりする条件がゆるかったんじゃないかな? ここらへん、ヤクザも多いんだよね。たまにバタバタバタって若い衆がえらい勢い走っていったりするよ。そういう人らでも家を借りられるんだから、宗教団体も物件借りやすかったんじゃない?」
神、霊、あの世、神秘現象など全てに否定的な僕としては、後者の見解の方が納得しやすかったが、本当のところは分からない。
◇
自分が住む場所の近くに、新興宗教の施設があるのは「正直、嫌……」という人もいるだろう。葬場、墓場、ごみ焼却場のような「嫌悪施設」の1つと数えられる場合もある。
オウム真理教のように、周りに対してテロ的な攻撃を仕掛ける団体が現れるとまでは思っていないが、「勧誘されるんじゃないか?」「新たに新興宗教の施設が建ったら、地価が下がるんじゃないか?」という不安を抱いてしまう人がいるのも事実だ。
また、教団が問題を起こした時などに、マスメディアや野次馬などが大挙して押しかけて来るのも迷惑だ。
もし家を買う時に、近くに新興宗教施設があると事前に不動産会社から話がなかったら…僕なら不満に思う。
ただ日本国憲法には「信教の自由」もある。なかなか厄介な問題だ。
(村田らむ)
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