PHOTO:うぃき / PIXTA

今月1日、建築物に関するルールにいくつかの変更がありました。主なものとしては、2021年末に大阪市北区で発生し26人が犠牲になったビル火災を踏まえ、建築基準法施行令が改正されました。住宅の省エネ化推進に伴う法改正もありました。

建築基準法は専門的で難しいイメージを持っている方も多いと思います。一方で、建物に関するルールの変更は、保有物件の管理コスト増加などにつながる場合もあります。知らないうちにルールが変わり想定外のコストが発生してしまった、というようなことは避けたいものです。

この記事では、今後予定されている法改正も含めて、不動産オーナーに関係しそうなものを中心になるべくわかりやすく解説していきたいと思います。

4月1日から何が変わった?

まずは、今月1日に施行された改正内容をみていきましょう。主なものとして、以下の2つを取り上げます。

・小規模オフィスビルも定期調査報告の対象に
・住宅の採光規定の緩和

○小規模オフィスビルも定期調査報告の対象に

建物が建築基準法に適合しているかどうかをチェックする「定期調査報告」の対象となる建物の範囲が拡大しました。改正の内容を説明する前に、改正の背景となった出来事について振り返っておきます。

大阪市北区の雑居ビルで2021年12月、放火事件が発生し、逃げ遅れた26人が犠牲となりました。発生直後はマスメディアで大々的に報じられたため、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

26人の犠牲者を出した大阪市北区のビル火災現場(国土交通省発表資料より)

このビル火災は、地上8階建ての4階に入居していた診療所で、男がガソリンを撒いて放火。唯一の避難経路だった階段付近から火が広がったため、この階にいた人は逃げ道をふさがれる形となってしまいました。

建築基準法では、6階以上のオフィスビルには原則2つ以上の直通階段を設置するよう定めています。しかし、この規定が設けられたのは1974年1月でした。この建物は1970年に建てられたため、既存不適格建築物だったとみられます。このことが多数の死傷者を生んでしまった一因と考えられます。

放火事件の現場となったビルの4階部分間取り図(出典:消防庁

既存不適格建築物は、この建物に限らず多くあります。現在の建築基準法には適合していませんが、だからと言ってただちに階段を増やさなければいけないということにはなっていません。

ただ、火災による被害を最小限にとどめるために必要なその他の対策については、建築基準法で定められています。例えば、火災が発生した場合に炎や煙が広がるのを防ぐための「防火区画」が建物内に正しく設置されているかなどがあります。

大阪市北区のビル火災で煙がどのように室内に広がったかのシミュレーション結果(出典:消防庁

この事件を受けて、国は階段が1つしかない雑居ビルなどを対象に防火対策の徹底を通知。緊急立ち入り検査を実施した結果、定期調査報告の対象となっていない小規模な雑居ビルなどで必要な防火対策が取られていないなどの建築基準法違反が確認されました。

このことを踏まえて今月から、建物が建築基準法に適合しているかどうかをチェックする「定期調査報告」の対象となる建物の範囲が拡大しました。不特定多数の人が利用するオフィスビルについて、従来は「5階以上で延べ面積1000平米超」が対象でしたが、「3階以上で延べ面積200平米超」の小規模なオフィスビルも対象となります。なお、対象となる建築物の用途と規模は法令に基づき各特定行政庁が地域の実情を踏まえて指定します。

定期調査報告とは、不特定多数の人が利用する建物について、建築敷地や構造、構造強度、防火避難関係を毎年または3年ごとに、建築士が調査し、特定行政庁に報告する制度です。

オフィスビルだけでなく、共同住宅も一定規模以上の場合は対象になっています。対象の範囲は自治体ごとに異なり、例えば、東京都の場合は5階以上かつ1000平米以上、大阪市の場合は3階以上かつ1000平米以上または5階以上かつ500平米以上、などとなっています。

建築物の所有者(管理者)に義務付けられており、所有する建物が対象に該当する場合は、報告対象年度になると行政から通知が届きます。

建物は建築基準法に適合して建てられますが、使用する過程で増改築されたり、家具などで扉や窓が塞がれたりした結果、違法状態になってしまっている場合も少なくありません。

定期調査報告の対象となる建物の範囲を広げることで、こうした違反を早期に発見し、行政による是正指導につなげる狙いがあるとみられます。

改正の内容は以上ですが、不動産オーナーにとっては、保有する物件が定期調査報告の対象となった場合の費用や手間が気になるところだと思います。

定期調査報告に必要な書類の作成は、建築士に依頼することになるため、床面積に応じて数万円から数十万円の費用がかかります。

今後、該当する建物を取得する予定の方は、「確認済証」「検査済証」「確認申請図書(副本)」といった書類の有無を確認することをおすすめします。

このうち1つでも欠けていると、法適合性のチェックが困難となる可能性があります。例えば、古い建物の場合には既存不適格かどうかの判断が難しくなってしまいます。必要な書類がそろっていないと最悪、違法と判断されかねません。

○住宅の採光規定の緩和

4月1日から変わったことの2つめとして、住宅の採光ルールが緩和されました。こちらは昨年6月に公布された「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律によるものです。

住宅の場合、居室に採光を確保するルールが事務所やホテルなどと異なります。窓などの開口部面積は居室の床面積に対して7分の1以上とされています。改正により、照明設備(床面で50ルクス以上確保=一般的な照明でOK)を設置すれば10分の1以上でもよくなります。

事務所などを住宅に用途変更する場合を想定し、採光ルールを緩和することで既存建物の活用を促す狙いがあるようです。

不動産投資のケースとしては一般的ではないかもしれませんが、事務所やホテルなどを住宅に転用する際に窓を大きくする工事が不要になるといったメリットが考えられます。

今後予定されている法改正

住宅の採光ルール緩和は、建物の省エネ化を推進する法改正の一部です。ここからは、今後施行される改正建築基準法・建築物省エネ法の全体像について説明しておきます。

昨年6月に公布された改正法により、建築基準法や建築物省エネ法、建築士法、宅地建物取引業法などで幅広く建物に関するルールが変更されることになります。この改正法は、1~3年以内の段階的な施行が予定されています。その第1弾が今月行われました。

今回の改正が行われた背景としては、2021年10月に閣議決定した「エネルギー基本計画」に基づく2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みが挙げられます。これらの変更は、環境に配慮した建築物の普及と、持続可能な社会の実現に向けての重要なステップとなっています。

全建物で省エネ義務化(2025年4月~

最も注目すべき点は、2025年4月以降に建築する建物は、原則として現行の省エネ基準(断熱等性能等級4)に適合する義務が発生することです。

また、省エネ化に伴い、建築物の重量化に対応した建物構造のルールが強化されます例えば、木造住宅であれば従来よりも筋交いなどを入れた耐震壁を増やす必要があり、建築コストが増加する可能性があります。確認申請時にも従来は審査されなかった壁量のバランスチェックなどの審査プロセスの強化が図られることになります。賃貸住宅を新築する場合も建築コストの上昇などの影響があると考えておいた方がよいでしょう。

○「4号特例」の見直し(2025年4月~

2025年4月に施行される改正でもう1つ大きいのが、「4号特例」の見直しです。建築基準法第6条第1項第4号に該当する小規模の建築物の範囲が変わります。これにより、戸建て住宅の大規模修繕をする場合に影響が出る可能性があります。

4号特例は、2階建て以下の木造住宅などを建築士が設計する場合、建築確認の審査を一部省略できる制度です。建物の大規模修繕を行う場合、本来は建築計画が建築基準法に適合しているかどうかをチェックするための「建築確認申請」が必要です。例外的に審査不要と認めているのが4号特例です。

戸建て投資で購入される方も多い木造2階建て住宅も、従来は4号特例の対象でした。しかし、2025年4月以降は4号特例の対象外となります。これによって、柱や梁などの主要構造部の50%以上に手を入れるような大規模なリフォームをする場合も新築と同様に、建築確認申請が必要となります。

確認申請を省略できるのは、平屋かつ延べ面積200平米以下の建築物に限られます。木造2階建て住宅でも、クロスの張替えなどの表層リフォームだけなら大規模の修繕に該当しないため、建築確認はこれまでどおり不要です。

4号特例の見直しの背景には、省エネ仕様にするための断熱材使用量の増加や太陽光発電設備の設置、サッシの高性能化などにより、住宅が重量化したことがあります。従来よりも構造の強度をしっかりチェックする必要性が高まってきたためです。これに伴い、従来は7日だった法定審査日数が35日となります。

今回取り上げた法改正は、建築基準法の大改正と言っていいくらいに大きな改正と言えます。関連する法令やガイドラインも出されています。不動産オーナーへの影響がありそうな話題がありましたら、あらためて取り上げたいと思います。 

(満山堅太郎)

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