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金融機関の「中の人」からの情報はなかなか公にならず、もどかしい思いをしている投資家もたくさんいるのではないだろうか。
そこで今回は、不動産融資を基礎から解説する『現役&元銀行員が本音で教える! 初心者も経験者も不動産投資をはじめる前に読みたかった 融資の教科書』の執筆陣から、元金融マンを含む3人にインタビュー。全3回にわたり、さまざまなテーマで金融マンの本音を探る。
【連載目次】
・第1回:元地銀・信金、「中の人」が明かす不動産融資の裏話
初心者でも応援される投資家とは?
「自己資金1000万円でも融資NG」なのはなぜ?
FIREしても融資に困らないのはどんな人?
・第2回:元融資課長が解説、「イマイチな融資担当者」に当たったらどうする?
借りられる人と借りられない人、何が違う?
融資担当が新人だったら、投資家はどうすればいい?
よい融資担当者の見分け方は?
・第3回:元融資担当がこっそり教える、金融機関はあなたの「ココ」を見ている
高属性すぎる人を逆に警戒するのはなぜ?
担当者がこっそり見ているポイントは?
融資相談の「NGワード」はある?
【人物紹介】
上田眞平さん(以下:上田さん)
元不動産営業マンで、現在は不動産関連書籍の出版、セミナーやサロンの運営などマルチに活躍している。自身も4年ほど不動産賃貸業を行っており、2棟を所有。現在の借入額は1億円ほどで、年間家賃収入はおよそ2000万円。『不動産融資の教科書』の企画・執筆を担当。
山本拓也さん(仮名、以下:山本さん)
関西の信用金庫で働きながら不動産投資を行い、3年前に不動産賃貸業で独立。現在は10棟を所有しており、年間家賃収入は1億4000万円、借入額16億円。信金時代は、法人向け融資を中心に幅広い業務を担当していた。
宇佐美勉さん(仮名、以下:宇佐美さん)
元融資課長、元営業課長。数年前まで関西エリアの地銀に勤めていた。当時は不動産向け融資をメインで担当しており、支店内の案件審査に携わっていた。現在は別業種の会社に転職済みで、独立を目指して準備中。
―まず、こちらはどのような本なのでしょうか
上田さん
「不動産融資の基礎」を学べる本です。融資そのものの仕組みや金融機関の特徴、具体的な融資事例や面談ノウハウなど、融資を受けるときに必要な情報を網羅的に解説しています。僕ひとりではなく、金融マンたちのリアルな意見を交えながら解説しています。
―執筆に携わった皆さんは、どのように集まった方々なのですか
上田さん
僕や知り合いの取引先を中心にお声がけし、6人の元・現役金融マンに集まってもらいました。本書では融資面談のモデルケースをいくつか用意し、それぞれの案件をどのように検討するか、複数の金融マンさんに「本音」で語ってもらうパートがあります。都銀・地銀・信金・信組とさまざまな金融機関出身の方がいるので、それぞれのカラーを知ることができます。
たとえば都銀さんは審査のフィルターが厳しく、銀行側の融資条件に合うかどうかを合理的に判断されていた印象です。対して信金さん・信組さんは相談者に寄り添って金融商品を提案する姿勢が見られ、地域を応援する気持ちの強さを感じました。
山本さん
書籍には、融資相談のケーススタディを集めたパートがあります。さまざまな属性の方の融資相談内容を見て、6人の金融マンがそれぞれどのように判断するかコメントをつけました。
自分が長く勤めていた信金では決まったルールがあって、その基準が当たり前のように感じていました。ですが今回、他の金融機関の方の判断基準を聞いたらかなり違いがあって、とても参考になりました。
宇佐美さん
都銀さんのコメントは、地銀・信金出身の我々より目線が1つ高くて面白かったですね。金融機関ごとに違った目線があるので、お客さんとしてはまんべんなくお付き合いしておくのがやっぱりいいのかなというふうに改めて思いました。
初心者でも応援される投資家とは?
―ここからは、書籍のケーススタディをベースにお話を伺っていきます。まずは「事例1」として紹介される初心者の融資相談についてです
■事例1の相談者
37歳/中小企業勤務/年収400万円/3人家族
資産、自己資金、不動産投資経験なし
―このような初心者が応援してもらえる場合と、そうでない場合の差はどのように生まれるのでしょうか
山本さん
金融機関によって姿勢に差があると思います。信用金庫は地域密着型の金融機関で、私のいたところでは「人を見る」ことを大切にしていました。思いを持った方の話はちゃんと聞くスタンスです。本当に一発目の融資で実績がなくても、本気で事業に取り組むために数年かけて資金を蓄える、人脈や計画を準備する、熱い思いを持ってプレゼンするといった姿勢があれば評価します。
宇佐美さん
あくまで私のいた地銀の目線ですが、「人を見る」のは大前提でも、個人的には資金力と属性を見て判断するケースが多かったかなと思います。事業にかける思いも一応聞きますが、ぶっちゃけて言いますと表面的ですね。それより資金力と属性が大事です。
上田さん
本を書いていて、自己資金がない人と知識・経験がない人には厳しい印象を持ちました。初対面の人に融資をする際、銀行員としては物件をどのように運営する計画なのかが気になると思います。物件の管理や修繕はどうするのか、経験の有無を問われる形が多い印象です。
逆に、1度だけでなく2度、3度と繰り返し取引ができそうな人は応援してもらえるケースが多いと感じました。最初は運転資金などを少額で引いて、そこから広げていく「複合取引」はいいとよく言われますよね。やっぱり銀行員としては、継続的な取引は必須なんじゃないですか?
山本さん
必須ですね。最初は少額で融資を出して、どのように返済されるかを見ています。返済額数カ月分程度を前もって口座に入れておく方と、返済額ギリギリのお金を直前に入れる方とではやはり印象は違います。家賃が入る口座と返済口座は同じことが多いのですが、家賃が入った数日後に全額引き出して、返済日に返済分だけ戻す方がたまにいるんです。資金繰りが怪しいのかな? と思ってしまいます。

PHOTO : 小野真志 / PIXTA
宇佐美さん
銀行員は、口座の出入金明細を全部見られるんです。口座1つ1つの明細が毎日帳票で上がってくるので、いくら下ろしていくら入ったかなど、自分の担当先の動きは全て見ます。
さっき「資金力と属性を重視する」と話しましたが、「資金力」といっても、相続で一気に増えた資金とコツコツ貯めた資金は意味合いが全く違います。コツコツ貯めた資金って、事業に対する覚悟の表れだと思うんです。資金力で覚悟のあり・なしを見ている、という部分もあるかもしれませんね。
上田さん
「覚悟のあり・なしを見ている」、いい言い方ですね。資金がこういう動きをしていたら特によくないな、というケースはありますか?
宇佐美さん
山本さんがおっしゃった「家賃が入ったら即日引き出す」ことです。担当者によっては、「もしかしたら他行さんに振り替えていて、自分の銀行は軽視されているのかもしれない」と解釈される場合もあります。ちょっと上から目線ですけど、メインバンクとしてうちと付き合うなら資金の移動はないはずだよね、と。入ってきた家賃は、なるべくいじらず置いておくほうが好印象です。
上田さん
そもそも、口座にはどれくらい預金があるのがいいんですか?
山本さん
明確なラインがあるわけではないですが、せめて返済額の半年分くらいですかね。返済額が月100万円ならまず600万円入れてもらって、「一応1000万円くらいは置いておいてもらえないか」とお願いするんです。1000万円ある口座に家賃が安定的に入って少しずつ増えれば大丈夫だよね、という考え方です。
宇佐美さん
たとえば、決算期末の総借入額が10億円、預金が5億円という会社があったとします。うちの銀行が総借入額の半分の5億円を融資しているとするならば、預金に関しても5億円の半分、2億5000万円くらいは常にうちに置いといてよ、という考え方があるんです。これに則ってお客さんの指導をしていましたね。
山本さん
「預金シェア」ってやつですね。総借入額のどれくらいの割合をうちの銀行が出しているか、という「融資シェア」という考え方がまずあって、それに見合った割合で預金を置いてもらうことを目指すのが「預金シェア」です。役員クラスなど、昔の人ほどこの考え方が強いかもしれません。会社と銀行は「運命共同体やで」みたいな感じで。
■まとめ
・初心者は自己資金と事業計画で「覚悟」を見せるべし
・継続取引の意志表示は好印象/家賃の即日引き出しは悪印象
・預金額の目安は返済額半年分と「預金シェア」で考える
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