「楽してお金を稼ごうとした。それが、僕のダメだったところの全てだと思います」

真剣な面持ちでこう語るのは、お笑いコンビ「TKO」の木本武宏さん。2022年に巨額の投資トラブルが発覚し、所属していた松竹芸能を退所。約半年間、芸能活動自体も休止していた。

現在は、コンビでの活動も再開している木本さん。だが、そもそも、人気お笑い芸人はいったいなぜ投資トラブルに巻き込まれることとなったのか。そこから得た教訓とは。木本さんに、トラブルの経緯や現状、今後の活動について聞いた。

 

「明日、急に死んだら家族は」

木本さんの投資トラブルが最初に報じられたのは、2022年7月。当時は、「数億円規模の巨額投資トラブル」「芸人仲間らも巻き込んだ」などとして、大きく報道された。

そもそも、なぜ木本さんは投資に興味を持ったのか。その始まりは「仮想通貨」だったと木本さんはいう。

「芸人という仕事なので、『僕が明日急に死んでしまったら、家族はどうなるんだ』というのはいつも考えていました。そうやって焦る中で、『収入の柱をもう1つ作っておかないと危険だ』と、年齢を重ねるごとに強く思うようになったんです」

そうした中で、ある番組収録の際に仮想通貨への投資があることを知り、それをきっかけとしてさまざまな投資の本を読むように。そうした書籍の中に書いてあった「お金を働かせる」という発想に感銘を受けて、ついに50万円分の仮想通貨を購入した。2017年のことだ。

「これで収入を増やすことができれば、安心して仕事ができる、と思いました。2017年は最初の仮想通貨バブル。どんどん価格が上がっていったんです。『もっと上がるんじゃないか』と興奮して見ていました」

ところが2018年に入り、バブルはあっと言う間に弾けた。「ものすごい大暴落。これも初めての経験でした」。だが、実は初期投資額の50万円がマイナスになったわけではなかった。「増えた時の数字を見て、それが自分の財産だと思い込んでいたんですね。それで価格が暴落して、まだ手にしていないお金がどんどん減っていくことに焦りを覚えてしまった。初心者特有の、無知ゆえの焦りだったと思います」

FXトレーダー・A氏との出会い

仮想通貨バブル、そして大暴落を経て、「このままではアカン」とインターネットや書籍で本格的に投資の勉強を始めた。知識が増え、投資にますます面白さを感じるようになっていった頃、知人を通じてFXトレーダーのA氏を紹介された。木本さんは、このA氏からFXについて教えてもらったという。

「デモ用のサイトを見ながら、『チャートはこうやって見る』とか、『ここで買いに入って、ここで売る』って説明してくれるんです。それで、『これで、○○円儲かりました』って。『うわ、すげぇ』って思いましたよ。『じゃあ○年○月でやってみて』って言ってやってもらっても、全部利益をとっていくんです。なまじっか自分も知識が増えつつある頃だったので、その姿に感動しちゃったんですよね」

A氏の取引を見るうち、FX自体にも魅力を覚えた木本さん。ただ、自分自身でやるにはまだ知識が足りないと考え、A氏に対して、「資金を預けるので、運用してくれないか」と依頼したという。これをA氏も承諾し、木本さんのお金をA氏が運用する、と言う仕組みでの投資が始まった。A氏からは当初、『今日は○○円儲かりましたよ』などの連絡が頻繁に来ていたそうだ。

木本さんは、こうした一連の動きを、投資仲間にも話していたという。

「投資に興味ある人達で集まって、酒を飲みながらいろいろ話す、みたいなことをよくやっていたんですよ。みんなで『これで儲かるらしいですよ』とか『こんな話知ってんねん』みたいな、趣味の話という感覚で情報共有し合って。その中で、僕も『いまこういうのやってて、これだけ儲かってん』と話したんです。たぶん、自慢げだったと思います」

そんな木本さんの「自慢話」を聞いて、投資仲間たちも、自分の資金もA氏に預けて運用してもらいたいと言い出したという。最終的に、木本さんを入れた10人ほどで、総額約1億7000万円をA氏に預けていた。

些細な違和感…そして音信不通に

当初はA氏から、木本さんに対する利益の報告などが頻繁に行われており、順調に資産が増えていくことに興奮を感じていた木本さん。A氏本人とも交流を深めていた。息子とも呼べそうな年齢のA氏だったが、木本さんはそんな彼をとてもかわいがっており、信頼もしていたそうだ。

だが、A氏と交流する中で、ちょっとしたやり取りに違和感も覚え始めたという。

「本当に些細なことなんですよ。『今日はトレードで忙しいです』って言っていた日に、実はトレードをしていなかった…とか。嘘っていうと大げさなんですけど、そういう小さなズレがちょこちょこ出てきて。少し心配になってしまったんですよね。『大丈夫かな?』と、一度そう思ったら、お金のことだし、一気に心配が膨れ上がってしまいました」

そこでA氏に依頼し、数回に分けて計6000万円ほどを回収。ところが、間もなくしてA氏は音信不通となってしまった。

連絡がつかなくなった時の自身の状態を、「頭が真っ白ってこのことか、というような…。思考回路が全てストップした感じ」と木本さんは表現する。

「連絡が途絶える直前まで、お金の話だけじゃなくて、普通に電話したり、雑談をしたりしていたんです。『こんな車買おうと思うんです』『おー、いいやん』みたいな。だから、連絡がつかない、逃げられた、って思うのと同時に、心配もしました。何かに巻き込まれたんじゃないかと」

消えた1億1000万円、A氏の行方は

A氏の安否も心配ではあったが、それ以上に、木本さんが不安を覚えたのは、預けたお金のうち1億1000万円ほどがまだ返されていないことだった。

「僕のお金ももちろんですけど、投資仲間たちがこのお金の大半を出しているわけですから…。僕がA氏のことをみんなに自慢したせいで、こうした状況に巻き込まれてしまった。そこにすごく責任を感じました」

とにかく「A氏を探し、お金を返してもらいたい」「投資仲間が出したお金は返さなくてはいけない」という考えで頭がいっぱいだった。A氏と連絡がつかないのであれば、まずは木本さん自身が投資仲間にお金を立て替えて返していくことにしたのだという。

「このトラブルの噂が広がり、週刊誌に載ってしまう。仕事がなくなる。どうしても、それが怖かった。だから、必死でA氏を探しましたし、どうにかお金を返そうと、身の回りの物を売ってお金にして、少しずつでも投資仲間にお金を返済していました。先にお金を返すから、どうにか口止めしてくれ、と言う気持ちは正直ありました」

そんな中、A氏が実家に戻っていることが判明する。

「事件に巻き込まれたわけでもなく、全く無事。(お金を返さないまま逃げたという)最悪のパターンでした」

木本さんはそれまで、A氏を自身の家族に紹介したり、A氏の母親と電話をしたりしたこともあり、A氏に対して「身内心」すら覚えていたのだという。

「お金を持ったまま逃げられたことが決定的になった時は、怒りよりも、落胆、悲しみ。ショックの一言でした」

「わらにもすがる思い」の不動産投資案件

木本さんが巻き込まれた投資トラブルは、A氏をめぐるこの1つだけではない。A氏の行方を追い、どうにか連絡を取ろうとする中で、ある人物に声をかけられたのだという。

「10年来の知人で、後輩のB氏です。彼が『木本さん、僕もA氏に同じ手口でお金持って逃げられたんです』と連絡をしてきたんです」

その上でB氏は、木本さんにある不動産投資の案件を持ち掛けてきたという。いわく、「自分がお世話になっている会長という人がいて、その人物しか触ることができないとても特別な土地の売買の話がある。これに出資してくれれば、売買で得た利益を渡すことができる」と。

この頃、木本さんはA氏の被害に遭った投資仲間にお金を返さなくては、ということで頭がいっぱいだった。このトラブルが報じられれば、芸能界での仕事を失うかもしれない、という恐怖感もあった。

「わらにもすがる思いだった」と木本さんは吐露する。

「こんな不動産投資の話を、今日初めて会った人間に提案されたら、僕も『うそつけ!』って言っていたと思うんです。でも、10年来の近しい後輩で、同じA氏の『被害者』だと思ってしまって…」

結局、木本さんはこのB氏の持ち掛けた案件に出資することを決める。同じように話に乗った投資仲間と、合わせて約5億円をB氏に預けた。

弁護士事務所から届いた内容証明

当初、B氏からは「利益が出るのは1カ月後だ」と聞かされていた。ところが、その1カ月が経ち、2カ月が過ぎても、一向にお金が入ってくる気配がない。B氏を問いただしても「絶対に投資は行われる」「今、この案件から抜けられてしまったら、会長が立腹して、僕(B氏)の付き合いも失われるから勘弁してほしい」などと説得された。

利益の配当が遅れていることを理由に、預けたお金のうち3分の1程度をB氏が返金してきたこともあり、木本さんたちはしばらく待つことにしたという。

だが、すぐに木本さんは絶望の淵に突き落とされることになる。

「ある日、急に弁護士事務所から郵便が来たんです。内容証明の郵便でした。中身は、『約束のお金はお支払いできません』『(B氏に)連絡をとらないでください』『払う意思はあります』みたいなことが書いてありました。その瞬間に、『やられた』と思いました」

書面を読んで、思わず床に座り込んでしまったという木本さん。「正直、その時どんな感情だったのかすら、思い出せない」という。

騒動が発覚、相方がかけた言葉は

結局、こうしたA氏、B氏をめぐる一連の騒動が報道され、世間に知られることとなった。報道を受け、木本さんは所属していた松竹芸能を退所。芸能活動を一時休止し、復帰したのは今年の1月だ。

トラブルが発覚し、事務所を退所するとなった時、相方の木下隆行さんにはなかなか打ち明けることができなかったと話す。

「相方も騒動を起こして、先に事務所を退所していました。僕のトラブルがあったのは、そんな相方を、どうにか事務所に戻したいとマネージャーやスタッフに相談し出した矢先だったんです。そういう状況は、木下にも伝えていたから、彼も期待していたと思うんです。なのに、こんな騒動が起きてしまって、落胆させるのが何よりも怖くて…」

打ち明けようと腹を決めたものの、携帯電話を手に持つも、勇気が出ずにまた携帯電話を机に戻す、といったことを何度も繰り返した。「今12時だから1時になったら電話しよう」「3時になったらしよう」「夜ごはんを食べてからにしよう」「明日にしよう」…。そんな風に、3日ほどが経ってしまったという。

ようやく、数日してから勇気を振り絞って木下さんに連絡。「こういう騒動があって、事務所を退所することになった」と告げると、木下さんは「大丈夫か?」「俺は何したらええ? 何ができる?」と言葉を返してきたという。

「その言葉に、本当に救われました。木下は、僕が死んでしまうんちゃうか、と思ったらしいんですよね。なんとかそれを食い止めないと、と思ったと言っていました」

当時、木本さんは心身ともにボロボロの状態だった。「隠していたことが明るみになって、どこかでスッとしたような、ホッとしたような気持ちもありました。ようやくこれで、向き合わなくてはいけない問題にちゃんと集中して向き合うことができるようになった、と思ったんです」とはいいつつ、食欲も失せ、夜もまともに眠れない生活が続いた。今が何月何日の何時なのかすらわからないような状態だったと語る。

「お金を稼ぐ」ことの本質

木本さんの支えになっていたのは、妻の存在だった。投資トラブルになってしまったことを打ち明けた時、最初は「何してんの!」と怒る瞬間もあったそうだが、「それなら、まずは節約しよう」とすぐに切り替えてくれたのだという。

投資仲間にお金を返済しなくてはならない、という状況だった木本さんに、精神的にも物理的にも協力してくれたのだ。

こうした支えもあり、木本さんは活動休止中も投資仲間への返済を進め、さらに、A氏やB氏との交渉もこなすことができた。

実家に戻っていたA氏とは直接話し合うことができ、預けたお金を返済計画に沿って返済することが決まった。合意書も交わしており、現在、順調に返済が進んでいるという。

B氏とは、一時連絡がとれない時期もあったものの、現在は返済に向けて調整を進めているところだと話す。

活動休止中は、生活のためにビルメンテナンスのアルバイトをしたり、動画編集作業に携わったりしていたという木本さん。こうした仕事を通じて、「お金を稼ぐこと」の本質と向き合えたと感じている。

「働いて、お金を生み出すっていうのは本来こういうことなんだ、というのを思い出しました。これまで何十年と、身一つで現場に行って、それなりのお金をもらって…ということを繰り返していましたが、やっぱり、頭が麻痺していたんだと思います。お金の重要性を日々考えていました」

原因は「楽をして稼ごうとした」

今回の一連の騒動。一番の原因を木本さんは「楽してお金を稼ごうとしたこと」だと話す。

「A氏やB氏にお金を預けて増やしてもらおうとしたり、とにかく『楽をしてお金を儲けたい』という発想でした。それが、僕のダメだった部分だと思います」

また、お金儲けの話を投資仲間にしたことも含めて、「欲望に負けた。それが根本にあると思っています。自己顕示欲、『すごいと思われたい』という強欲さがあった」と反省する。

それでも、「すごいと思われたい、感謝されたい、という思いはあります」と木本さん。だが、それを披露するのは、投資の世界ではないと今は感じている。

「お金じゃない別の方法でもっとあるんですよね。だから、今は自分がずっとやってきたお笑いの仕事を頑張るしかない、と思っています。お笑いをがんばって、みんなに『面白かった、ありがとう』って言ってもらえればいい。そのシンプルな、根本に戻れているような気がします」

それを叶えるためにも、TKOとしてコンビで1年をかけ、単独コントライブを開いて47都道府県をまわろうと計画中。現在はネタ作りに精を出す日々だという。

今後、自分自身で投資をするつもりは、今はないと木本さん。ただ、投資の勉強は続けていると話す。

「こういうことがあったからこそ、失敗談はいろんなところで話していきたいです。でも、失敗談だけ話すと、『ちゃんとした投資』に対して失礼だと思うんですね。失敗も、怪しい話も確かにあるけど、投資が怖いというわけじゃない。こういうことに注意しながら投資ができれば、すばらしいものですよ、というお話ができればと思っています。僕みたいな失敗した人間にしかできないことってあると思うので」

「楽して稼げるなんて、うまい話はない」。それが、木本さんが今回の経験で得た1つの大きな教訓だ。

「めっちゃすごいやん、儲かるやん、いいやん、っていう話は、全て嘘だと思ったほうがいい。おいしい話はないです」

(楽待新聞編集部)