PHOTO : けいわい / PIXTA(ピクスタ)

近年、私立大学が郊外にあるキャンパスを都心部に移転するケースが増えています。関東の中堅私大の1つである神奈川大学も、今年3月末、平塚市に位置する「湘南ひらつかキャンパス」を横浜市に移転しました。

しかし、その跡地の売却先が決まっておらず、地域住民からは約31ヘクタールの広大な土地が今後どのように活用されるのか、情報を求める声も上がっています。

そこで今回は、湘南ひらつかキャンパス移転の経緯や現状、今後の見通しについて解説します。

「湘南ひらつかキャンパス」跡地の情報

神奈川大学湘南ひらつかキャンパスは、1989年、神奈川県平塚市土屋地区に開設しました。当時の名称は「平塚キャンパス」でしたが、2001年に現在の「湘南ひらつかキャンパス」へ名称変更しています。

神奈川大学湘南ひらつかキャンパス(出典:神奈川大学公式HP)

キャンパスは市街地から約10キロの市西部の中山間地にあり、約31ヘクタールの広大な敷地を誇ります。移転前には経営学部と理学部の2つの学部があり、ピーク時には約4000人の学生が通っていました。

1~14号館の建物のほか、野球場やサッカー場、体育館や陸上競技場など、さまざまな施設が建ち並んでおり、地域のシンボルとしての役割も担ってきました。

一方、都市部から離れていることから、学生を集めにくいという課題もありました。年間1億数千万~2億円ほど要する維持費も大学にとっては無視できない出費となっており、大学は2021年、横浜市に「みなとみらいキャンパス」(横浜市西区)を開設し、横浜エリアへキャンパスを集約する方針を決定しました。

地域住民からは不安の声も

経営学部は、2年前の2021年4月にすでに「みなとみらいキャンパス」に移っており、残る理学部も今年3月、「横浜キャンパス」(横浜市神奈川区)に移転しました。湘南ひらつかキャンパスは予定通り、2023年3月をもって、34年の歴史に幕を閉じることになりました。

広大なキャンパス跡地については、神奈川大学は2022年9月、売却の方針を明らかにし、2022年10月に地域住民向けの説明会も開かれています。

しかし、約31ヘクタール、東京ドーム約7個分もの広さがあるうえ、市街化調整区域で用途が限られていることなどから、売却活動は難航しているようです。跡地の売却先は2023年現在も確定しておらず、今後の展開が注目されています。

地域住民からは、移転による周辺環境の変化にも不安の声が上がっています。例えば、公共交通機関への影響です。キャンパスからは、JR東海道本線平塚駅などに向かうバスのターミナルが設置されていましたが、学生が不在になれば利用者が大きく減るため、バスが減便されることが懸念されます。また、跡地に迷惑施設が建設されるなど、地域のイメージを下げるような活用がされないか危惧する声もあります。

2022年12月には、学校法人神奈川大学宛てに、地域住民から「湘南ひらつかキャンパスの維持管理と利活用に関する要望書」が提出されています。

【要望書の内容】
1 売却先及び跡地の利活用については、本市の都市計画を踏まえた上で、地域のまちづくりに資するとともに、地域住民の安心・安全な生活環境を確保することに配慮して御検討いただくようお願いいたします。また、利活用の計画について、引き続き、貴大学から、市及び土屋地区住民への情報提供に努めていただくようお願いします。

2 理学部移転後も、貴大学によるキャンパスの敷地と施設の所有が続く間は、貴大学が責任をもって、適切な維持管理を継続していただくとともに、地域の施設利用等の要望などについては、前向きに対応するようお願いします。

こうした要望を受け、2023年3月、神奈川大学は跡地利用について、地域住民や有識者を交えた協議会を立ち上げることを発表しました。5月後半には、大学関係者、地元住民、有識者を交えた協議会を開催し、8月を目標に売却先の方向をまとめる意向が示されています。

今後の展開は?

神奈川大学の2023年度事業計画を見ると、「湘南ひらつかキャンパスについては、跡地利活用協議会を設置し、単に売却ではなく地域社会の発展等も含めた検討を行います」と記載されています。

地域住民など関係者に配慮し、地域社会の発展に貢献できる活用方法が検討されていると思われますが、現段階では進捗は不明です。

ただ所有者としては、買い手が決まらない状態が続くと広大な敷地の維持管理に大きな負担がかかるため、できるだけ早めの売却が望ましいと考えているでしょう。今後の展開に注目したいところです。

今回の事例を振り返ると、キャンパス移転や売却のスケジュール感が適正だったのかについては疑問も残ります。キャンパス移転は2023年3月でありながら、跡地の売却を明らかにしたのは2022年9月、地域住民への説明は10月ですから、急な発表と捉えられても致し方ありません。さらに、移転後の現在も売却先が決まっていないことを考えると、大学側の対応は遅きに失した感があります。

大学を都市部へ集中させる動きは、今後も続くことが予想され、今回のように急に移転が発表されることも考えられます。湘南ひらつかキャンパスの跡地がどのような形で活用されるか、周辺地域にどのような影響が及ぶのか、学生依存物件を持つ投資家にとっても注目すべき事例になるかもしれません。

(伊野文明/楽待新聞編集部)