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日経平均株価は、1990年以来のバブル後高値を更新し、バブル絶頂期である1989年の史上最高値に迫る勢いを見せている。値幅にすると8000円弱とまだ距離があるように見えるが、今のペースでの上昇が続けば、あと1年ほどで到達してもおかしくないところにまで回復してきているのである。

Yahoo!ファイナンスより筆者作成
この日本株の堅調さは、中国経済の回復鈍化懸念、欧米のインフレ率高止まりと景気後退懸念といった状況の中で達成されたものであり、いわば日本株は一人勝ちの状態である。
この日本株上昇の要因として考えられるのは以下の諸点である。
・景気が底堅く推移する中、とくに米国株に対して割安感が強い
・バフェットによる日本株投資の波及効果
・グローバルサプライチェーンの見直しで日本の存在感が高まっている
・日銀の金融緩和修正観測が弱まり、為替市場で円安が進行している
以下、これらの点を順次見ていこう。
米国株に比べ、日本株は割安に見える
まず第1に、米国株に対して日本株の割安感が強いという点について。米国では最大の懸念事項であった債務上限問題がなんとかクリアできそうな状況になっているとは言え、経済見通しは悪化している。そんな中で、割高感が強い米国株から投資先を多様化しようとする動きが強まっているのだ。
欧州や中国もやはり経済見通しが悪化しているので、比較的経済が堅調な日本は代替投資先の有力候補となりやすい。そのうえ、日本株はいくつかの指標でとても割安に見える。
現在、米国S&P500指数は、収益に対する株価の比率である「株価収益率(PER)」で23.8倍、自己資本(=純資産)に対する株価の比率である「株価純資産倍率(PBR)」で4.1倍であるのに対し、日本の東証上場株の加重平均PERは15.4倍、PBRは1.28倍である(いずれも実績ベース)。
株価収益率(PER)=株価/1株あたり純利益
株価純資産倍率(PBR)=株価/1株あたり純資産
実際の数値については、日本株は日本取引所グループHPのデータより筆者が計算したもの。米国株はYahoo!ファイナンスより。
日本株のPERは、大体14~15倍が適正とされており、それと比較すると現在の水準は必ずしも割安ではないが、今期も日本の上場企業は微増益が見込まれていることを考えると、少なくとも割高感は感じられない。
つまり、今の日本株の上昇は、利益に支えられた健全な株価上昇の範囲内であり、バブル的な動きとはいえない。
米国株は、世界経済の牽引役としてPERも高めになるのが普通ではあるものの、景気後退懸念が色濃く残る中では割高感が強く感じられる水準とみてよい。
一方、日本株のPBR1.28倍は、一見するとかなり割安に見えるが、この点についてはやや注意する必要がある。PBRは「解散価値に対する株価の比率で、1倍を割れるのは異常」と解説されることが多く、多くの1倍割れ企業が存在し、全体でも1倍ちょっとでしかない日本株は割安であるという論拠にされる。
だが、企業は破綻しないかぎり解散することもなく、したがって現時点での計算上の解散価値を株価の下値の目安とみるのは間違いである。ではPBRとは何かというと、企業の現在の利益率と将来の利益成長期待を掛け合わせた数値なのだ。その両方の要素とも低ければ、PBRはごく自然に1倍を割れる。
もちろん、利益率の改善や、利益成長期待を高める経営施策によってPBRを高めていくことはできるし、大いにそれを期待したいところであるが、「PBRが低いから株を買うべき」ということには、必ずしもならないのである。
PBRは、自己資本利益率(ROE、=純利益/純資産)とPERを掛けた値と一致する
PERは利益成長への期待を反映していると考えられるので、PBRは、現在の利益率(ROE)とその将来における成長期待の度合い(PER)を掛け合わせたものといえる
バフェット効果、サプライチェーン見直し、金融緩和継続
第2に、ウォーレン・バフェットを始めとする大物投資家の日本株への投資が増えていることによる波及効果である。
前項で、PBRが低いだけでは株価上昇の原因にならないとしたが、企業の実際の実力に対して投資家の評価が低すぎる結果として、低PBRに甘んじているのならば、その評価が変わることで、株価もPBRも上がっていくはずである。全体はともかく、少なくとも日本企業の一部には、そうした意味での割安株が存在していることは間違いない。それがバフェットらの目のつけどころだ。
いずれにしても、このような海外の大物投資家の投資は、国内投資家の追随投資を招き、株価の上昇要因となる。ただし、日本株に関心を向ける海外投資家に広がりが見られなければ、こうした要因の影響はごく短期的なものにとどまるだろう。
一方、短期的なインパクトはそれほど強くないかもしれないが、もっと息の長い効果が見込めるのが第3の点である。中国を主要な鎖の和の1つとしてきたグローバルなサプライチェーンの見直しが進む中、非中国かつ西側先進国の同盟国で、技術力が高いわりに相対的に賃金が安い日本は、確実にその存在感を高めている。
最後に、4月に就任した植田日銀総裁が、金融緩和の早期修正に慎重な姿勢を示し、当面は従来の緩和政策を継続する方針を表明したことも大きい。それを受けて為替市場では円安が進んでいる。貿易収支が赤字基調となっている今の日本経済にとって、円安は日本全体でみると決してプラスとは言えないが、少なくとも上場企業の利益にはプラスの効果が十分に残っており、したがって株価には上昇要因となる。
とくに直近では株高と円安が足並みを揃えた形となっており、円安が株高を支える効果が強く表れているように見える。
真の復活にはなおハードルが残る
では、日本株の上昇はいつまで、そしてどこまで進むのだろうか。
まず、米国株と対比した相対株価をみると、長年にわたって低下してきた日本の相対株価には底打ち、反転の兆しが見られる。これを見ると、割高な米国株から、相対的に割安な日本株への流れは、まだまだ続く可能性が高いといえるのではないか。

investing.comより著者作成
したがって、米国株が大きく崩れさえしなければ、しばらくは日本株が今の勢いを維持する公算は十分にある。ただし、相対的なパフォーマンスがよくても、日本株には世界の株式市場を牽引する力まではない。もし米国株が下落基調に入れば、日本株もつられて下がるのは間違いないだろう。
それは中国についても言える。中国株も現在、非常に頭が重い展開となっている。グローバル・サプライチェーンの見直しなどもあって、中国株に対する日本株の相対パフォーマンスは良好に推移すると見込まれるが、中国株が大きく下がる展開になれば日本株も下がらざるを得ない。つまり、海外株と比較した相対的なパフォーマンスはよくても、結局は海外株に足を引っ張られるという展開は十分に考えられるのである。
7月には収束? 問われる日本企業の真価
しかし、日本株が継続的に上昇するうえでの真の課題は別にある。
今の日本株の上昇は、海外投資家の買いが原動力となっているが、その海外投資家が今まで日本株に見向きもしなかったのはなぜか。
人口減少などにより国内市場の成長が見込めない中、企業が成長するためには思い切った海外展開やイノベーションが不可欠だが、そうした経営能力を兼ね備えた日本企業は決して多くないからだ。
たとえば、今ブームとなっているAI(人工知能)分野で日本企業の存在感は極めて低い。現時点で日本企業にとって数少ない有力産業分野である自動車産業でも、新たな潮流であるEV(電気自動車)化では日本勢は守勢に回っている。
日本企業が機動的な経営力を備え、グローバルなイノベーションの中で存在感を見せるようにならない限り、たとえばPER17~18倍といった水準にまで株価が上がるのは至難の業であろう。そうすると、近い将来における史上最高値の更新はかなり難しくなる。
そう考えると、短期的とみられるバフェット効果が剥げ、早ければ7月頃と見込まれる日銀の金融緩和修正観測が再浮上するタイミングで、日本株の上昇もいったんは収束するのではないだろうか。そして、その後の展開は、日本企業の経営改革がどれだけ進むかにかかる。
もちろん、米国でインフレ懸念が払拭され、金利が大幅に低下して金余り相場が世界的に復活でもすれば、話は別である。1989年の史上最高値はまさにバブルのたまものであった。それを超えるにはやはり別のバブルが必要なのかもしれない。いずれにしても、日本株の見通しには依然として海外頼みの部分が多いのである。
(田渕直也)
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