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損害保険大手の東京海上日動(以下、東京海上)が、築年数の古い住宅などについて、火災保険の引き受けを厳格化した。5月22日、日本経済新聞が報じた。

主な対象は、築50年超または築年不明の戸建て、共同住宅、および空き家。保険引き受け時の審査を代理店に任せず、自社で契約条件を決める運用に切り替えたという。築古物件の個人向け契約を自社で審査する運用に切り替えるのは、東京海上が初めて。

住宅向けの火災保険は、これまでたびたび値上げが行われてきた。背景には、相次ぐ自然災害の発生による、保険会社の収支状況の悪化がある。直近でも、2024年度から損保各社が火災保険料を1割以上引き上げることが発表されている。今回の契約条件の厳格化の裏にも、保険会社の厳しい経営状況がある。引き受けを厳格化することで、保険金の支払いを抑える狙いが透けて見える。

また火災保険を巡っては、不正な手段で保険金を得る、いわゆる「火災保険スキーム」の問題も取り沙汰されてきた。

保険会社が苦しい状況に置かれる中、火災保険のあり方も変化していくのだろうか。また、築古投資などへの影響は。専門家や投資家に話を聞いた。

投資家の新規加入減らす意図も?

「(引き受けの厳格化は)やっとか、という感じだ」

こう語るのは、不動産オーナー専門にコンサルティングを行う保険代理店、「保険ヴィレッジ」の斎藤慎治氏だ。斎藤氏は今回の報道について、「なるべくしてこのようになった」と受け止めている。

「赤字が続いている業界ですから、保険料と保険金のバランスをとるために、保険料の値上げはやってしかるべき。そもそも、損害が起きやすい築古物件を避ける方針になるのは、至極当然の対応だと思います。いざ損害が発生した際に保険金を支払えないとなると、保険会社の社会存在意義が損なわれます」

また斎藤氏は、今回の東京海上の対応について、要因の1つに、一部の不動産投資家の存在があるとの見解を示す。

「今回、東京海上が厳格化の対象としたのは、空き家、築50年以上の戸建てやアパートです。これらを自ら住む目的で購入し、火災保険を申請する人は少ないですよね。そう考えると、賃貸目的で購入している投資家向けの規制という側面もあると思います」

新築に住み始めた一般の人と、投資家など築古物件を買った人が同じように保険料を支払う中、保険金を受け取るのは築古物件の所有者ばかり、という状況は「不公平感を生む」と斎藤氏。こうしたことを踏まえて、「築古物件を賃貸する不動産投資家の、新規保険加入数を減らしていきたい意図が感じられました」という。

今回の東京海上の変更により、保険会社はどのような基準で新規の引き受け判断をするようになったのか。斎藤氏に、保険代理店に開示されている物件の審査資料を見せてもらった。

東京海上が保険代理店に開示している物件のチェックシート(斎藤氏提供)

上記のようなチェックシートの他にも、物件の写真の撮り方、劣化・損傷の確認方法などについて、詳細な審査項目が並ぶマニュアルもあった。

「このようにかなり細かい調査が必要で、物件所有者や保険代理店にとっても負担が大きいのではないか」と斎藤氏は話す。

また、今回の引き受け厳格化について、保険代理店への周知が遅れている状況とのことだ。斎藤氏によれば、いまだ保険代理店側のシステム対応が追いついていないため、見積書や申込書の作成が従来通りできてしまうという。保険代理店の一部では、厳格化を知らずに申込書が作り続けられてしまっている可能性は高いと推測される。

「1年以内に、他の損保会社も同様の変更を行う可能性は高いと思います。保険料の引き上げは利用者からの反発が伴いますが、契約引き受けの条件を厳しくするだけなら、そうした状況を回避できますし、既存の契約者に通知をする必要もありません。各社とも、徐々に新規加入のハードルを上げていくと予想しています」

また、いわゆる「火災保険スキーム」で不正に保険金を請求する業者については、「今後減っていくだろう」と斎藤氏は考えている。2022年10月1日以降の契約から、保険金が後払いになったためだ(参照記事)。

そもそも火災保険スキームとは、経年劣化の損傷を災害によるものだと偽って申請し、保険金を得る手法のことを言う。2022年9月までの契約だと保険金は前払いで、かつ損傷がいつできたものなのかを判別することは難しい。このような理由から、不正な申請も通ってしまうことがあった。古い契約が新しい基準の契約に順次更新され、置き換わることで、火災保険スキームが通用しなくなっていくのではないかと考えられている。

不動産投資家が取るべき対策は

専門家の視点では「妥当」だという今回の変更。築古物件を保有する不動産投資家は、どのように受け止めているのか。神奈川県などに複数の築古戸建てを所有する「しげお@」さんは「投資家にもそこまで大きな影響はないのでは」と語る。

「厳格化に踏み切ったのは、思ったよりも遅かったなというか、やっと来たかという印象です。今はまだ他社の保険を検討できますので、そこまで大きな影響はないと思っています。損保1社の保険加入が厳しくなったからといって、物件価格や、築古戸建ての新規参入者が大きく減少する、ということも考えにくいと思います」

一方、保険料の値上げや厳格化の背景にある、保険金の不正な請求に関しては「(正しく利用する人にとっては)とばっちりで腹立たしい」と話す。「不正請求を主導する業者だけでなく、必要な情報収集をせず安易に話に乗ってしまう投資家にも責任があるのではないでしょうか」

保険金の請求を代行する業者について、インターネットで調べたり大家仲間に評判を聞いたりすることで、不正な保険金請求に加担するのを防げる。「まずは自分で調べてみてほしい」としげお@さんは促した。

またしげお@さんは、今後の火災保険料の値上げについて「既定路線であり、避けられない」と考えている。投資家が取れる対策としては、今ある火災保険プランの中から、築古でも長期で加入できるものを探し、今のうちに加入しておくことを挙げた。しげお@さんも、普段から街の保険代理店に足を運んだり、自身で情報収集を行ったりして、値上げ前の今のうちに長期プランに切り替えられないか検討をしているという。

自然災害の多発や不正請求などを背景に、値上げが続く火災保険料。不動産投資家にとっては収益に直結する話であり、頭の痛い問題だ。不正請求については今後、減少していくと見られるが、今後さらなる値上げ、あるいは加入のハードルが上がっていくことは避けられそうもない。

そうした中でも、情報収集を続け、どうすれば適切に保険が活用できるのか、その時々で正しい判断を下せるように備えておきたい。

(楽待新聞編集部)