都内を中心に物件を買い進め、10年間で100億円超の資産を築いた投資家・玉川陽介氏。現在は東京や大阪に約40棟を保有し、総資産額は120億円にのぼる。
玉川氏といえば、6年前に発売された著書が、不動産投資家の間で広く支持されてきた。今回、その最新作となる『Excelでできる 不動産投資「資産管理」のすべて』(技術評論社)が発売された。
前作は物件の購入判断に焦点を当てた内容であったが、今作では不動産投資の中上級者向けに「資産管理」のノウハウを紹介。前作と合わせて600ページを超えるボリュームで、「不動産投資について、自分の知っていることをすべて詰め込んだ」(玉川氏)という。
今回は著書の発売に先立ち、著者の玉川氏にインタビューを実施。玉川氏の不動産投資の状況や、著書の見どころなどについて聞いた。
パソコン少年からギガ大家へ
─まずは改めて、不動産投資を始めたきっかけについて教えてください
私は子どもの頃からコンピュータが好きで、中学生の時にはパソコンでいろいろなフリーソフトなどを作って配布したりしていました。
その後、学習院大学に入学して、在学中に統計データ処理に関する受託会社を立ち上げました。業績は順調に伸びて、2006年には約3億円で会社ごと売却し
当時はその資金を幅広く投資していました。リーマンショック後は債券をメインに資産を運用していましたが、債券の利回りが低下していく中で不動産に目を付けました。2012年には、新宿区に最初の一棟物件を購入しています。
そこからどんどんと物件を増やしていき、2020年には保有資産の時価が100億円に到達しました。最近は売却も組み合わせていますが、現在約40棟を保有、資産総額は120億円ほどになります。
─これまでどのような目線で物件を買い、規模を拡大してきたのでしょうか
当時も今も、基本的には全額融資で買うことを重視しています。さすがに最近はそのハードルは上がっていますが、それでも昨年4月と12月に1棟ずつ、全額融資で購入しています。価格は2棟合わせて10億円ほどでした。
それと私の場合、「自分が欲しい物件」ではなく、「融資が受けられる物件」であることを重視しています。もちろん、買ってはいけない物件は避ける必要があるのですが、レインズに載っているような、競争力の高くないノーマルな物件をメインに買ってきました。
エリアも都心一等地はあえて外して、二等地や三等地を狙います。そうした物件は基本的にあまり人気はありませんから、金融機関とゆっくり交渉ができます。
─物件そのものより、融資の可否を重視するのはなぜですか
高利回りの物件が出てくるのを待ち続けて時間が過ぎてしまうより、今買える物件の中からよい物件を選ぶ方が、最終的な投資としての期待値が高いと考えるからです。融資を受けて物件を買い、規模を拡大して、早くスケールメリットを得ていくことが重要だと思っています。
また、これまでのような低金利下であれば、たとえノーマルな物件でも、10年、15年くらい持っていれば残債が十分に減っていきます。
こうした物件を中期保有したのち、多少でも市況のよい局面において、なるべく高値で売却する─。この「コアプラス型」と呼ばれる手法を、ぶれずに実践してきました。物件価格が下がらず、金利が上がらない限りは、利益を十分に出すことができます。
─ここ数年は物件価格が上がり、目線に合う物件も少なくなっているのではないでしょうか
普段の物件探しでは、基本的には表面利回りと借入金利の差(スプレッド)で見ています。表面利回りが借入金利プラス5%以上確保できるかどうか、というのが購入の前提条件になります。詳しくは前著に書きましたが、この基準を満たせれば、市況が崩れても損失に耐えられると考えています。
ただし最近は東京都内の物件だと表面利回りで4~5%ぐらいの物件しか出てこず、目線に合いません。ですからいまは、主に大阪の物件を探しています。東京の物件を一部売りながら、大阪で新たに物件を買っている、という状況ですね。
金融機関70行との対話から導き出した「答え」
─ここからは著書の内容についてお伺いします。今回の新著は、6年前に発売された書籍の続編のような位置付けとお伺いしました
前著は、物件を買う前の収益計算に重きを置いた内容でした。ある物件が検討の土台に上がったとき、買ってもいいかどうかを判断するような内容ですね。おかげさまで3万人近くの方に読んでいただきました。
一方新著の方は、買った後にどう資産を増やしていくか、という内容がメインです。前著の続編であり、完結編といったところでしょうか。
私が過去10年にやってきたことのすべてを詰め込んだ、卒業制作のような内容になっていると思います。不動産投資にはいろいろなやり方があると思いますが、うまくいった手法のひとつだと思いますので、それを共有できればと思って執筆しました。
─今回の著書は、全部で6つのパートから成っています。最初のパートは「融資の仕組み編」で、融資について詳しく書かれていますね
私はこれまで70以上の金融機関、担当者にすると500人以上とやりとりをしてきました。その過程で得た知見を形にしたのが、このパートです。言ってみれば、銀行側の手の内をまとめたものです。
金融機関は相談所ではなく、基本的には決まった仕組み、ロジックで動いています。もちろん担当者による違いも少なからずありますが、割合としては多くありません。債務者の格付けとか、物件の耐用年数とか、そういうロジックに沿って審査は進んでいきます。それであれば、我々投資家もそのことを知っていなければ話が始まりません。
その「ロジック」を一覧にまとめたのが、書籍にも掲載している以下のフロー図です。
私はこれまで100億円以上の借り入れをしてきましたが、ここに出てくる以外の話はほぼ聞いたことがありません。ですからこのフローさえ覚えておけば、金融機関との対話でズレた話をしてしまい融資を断られた…ということはなくなるでしょう。
ちなみに本書に付録のExcelシートは、必要項目を埋めれば物件情報の開示に必要な資料がすべて揃う、というものになっています。これも活用してもらえれば、金融機関への開示資料の部では100点が取れるのではないかと思います。
決算書への苦手意識は致命的!?
─それ以降のパートでは、不動産投資に必要な税の知識についての解説、そして貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)の作成方法について詳しく説明されています
こうした資料については、税理士さんに作成を依頼している方も多いかもしれません。ただ、税理士さんの作成する資料は、税務申告に最適化されていることが多く、必ずしも賃貸業に適しているとは限りません。結果、自分の会社の税務資料なのに、自分で内容が分からない数値が出てくることもあるでしょう。
私の場合、以前は内訳の分かりにくい勘定科目について金融機関から問い合わせが入ることがありました。たとえば、「多額の雑損失が計上されているが、これは何か?」というようなものです。
雑損失が発生していた記憶がなかったので元帳を辿ってみると、実際は消費税の調整額でした。「雑損失」という単語のイメージと中身が異なるため、金融機関も私自身も理解していなかったのです。
そこで、勘定科目を自分でカスタマイズすることを考えました。先ほどの話で言えば、真の雑損失である「雑損失」と、消費税に関する「雑損失(消費税)」に分ければ、金融機関からの問い合わせが来ないのではないかと思ったわけです。
このように、不要な勘定科目を削除して必要な科目をカスタマイズして作ることで、税理士が作成する試算表に「管理会計」の機能を持たせることができます。
実際、勘定科目をカスタマイズしてからは試算表の数値についての問い
合わせはなくなりました。勘定科目のカスタマイズには金融機関が経営実態を把握しやすくする効果があるといえるでしょう。
─自らカスタマイズして、金融機関と対話ができるようになるためには、投資家自身にも十分な知識が必要になりますね
勘定科目のカスタマイズはやや難易度が高く、初心者の方にはハードルが高いかもしれません。
ただ、今はそこまでは必要ないという方にも、本書では損益計算書や貸借対照表の項目を、不動産賃貸業に必要な知識に限定して解説しています。一般向けに書かれた決算書の解説書だと、不動産賃貸業と直接関係のない部分がほとんどで、なかなか身につかないという方もいるでしょう。そういう方向けの知識の習得にも適していると思います。
税金や決算書については、苦手意識を持っている方が多いと聞きます。ただ、実際のところ投資家はその投資の総責任者であり、管理者なわけです。金融機関から見ても、もちろん同様ですよね。
それなのに、自分の会社の決算書がよく分かっていない、でもお金は貸してほしい、というのは問題ですよね。自分の会社の決算書については当たり前に分かっていないと、金融機関からの信頼を得るのは難しいと思います。
─資産規模を拡大するために、なぜB/SやP/L、税の知識が必要なのかを改めて教えてください。
賃貸業は資産管理業ですので、B/Sの内容を理解して自分がどこに何を持っているのか、それに対する借入がいかほどあるのかを把握することは必ず必要です。
また、保有資産がどれだけの利益を生んでいるかなど、P/Lを理解することも求められます。規模が大きくなるとすべての物件の状況やお金の流れを暗記することはできなくなりますので、B/SやP/Lという集計表を読み解く知識は当然に必要といえます。「なぜ数字の理解が必要か」というよりは、「知らないと始まらない」というのが正しい感覚です。
それにとどまらず、賃貸業において最大のコストである税についても深く理解しておきたいと思います。これらの要素をきちんと理解することは、投資の基本ルールを理解することであり、自分が何をしているかを自分で把握することだといえます。賃貸業において財務数値と税は必修科目だといえるでしょう。
─ちなみに玉川さんは、自社のWebサイトに財務状況や取引先金融機関、保有物件の情報などを詳細に掲載しています。これはどのような狙いがあるのでしょうか
あらかじめ見せてしまった方が、話が早いからです。
例えば、当社に対してM&Aのオファーが来ることがあるのですが、その場合に毎回財務資料を提出するのは手間がかかります。それならば先にインターネット上で開示してしまって、これを見てある程度判断をしてから、お話を持ってきていただけたら効率がいいですよね。
そもそも、例えば上場企業にとっては財務資料の公開は当然のことですから、それを考えると特に違和感もないかな、と思っています。
また、情報の開示が重要なのは、銀行融資を受ける場合も同様です。
金融機関との折衝の中で、担当者から追加の資料提出を求められた経験がある方は多いと思います。融資承認までの間に、そういうやりとりで何往復か必要になることがありますよね。
それであれば、銀行が求める情報をすべて含めた資料を最初から提出する方が効率的です。仮に金融機関の担当者がたまたま忙しくて対応が遅れそうな場合でも、完璧な資料があれば「これをそのまま稟議書に使えますから」という一押しになります。
私はもう長らく、資料の追加提出を求められたことはありませんが、そういう資料を作るためのノウハウを、今回の書籍や付録に詰め込んだつもりです。
◇
─改めて、玉川さんが不動産投資を初めて10年で100億円の資産をつくることができたのはなぜだと思われますか
タイミングや運もあるとは思いますが、やはり、正しい知識を持って正しい判断ができるかどうか、というのが大きかったと思います。
おそらく、私と同じ時期に同じ金融機関に行って、思うように融資が受けられなかった方もいると思います。そういう方は、金融機関との折衝の中で、何か判断を間違えてしまったのだと思います。
繰り返しになりますが、金融機関はロジックで動いています。相手のことを十分に知らずにアタックし続けるのは、的が見えないのに矢を放ち続けるようなもので、得策ではありません。
持つべき知識をちゃんと身につけてから、物件選びなり、金融機関の交渉なり、進めていただくのがよいと思います。
玉川陽介(たまがわ・ようすけ)
コアプラス・アンド・アーキテクチャーズ株式会社代表取締役。1978年神奈川県大和市生まれ。学習院大学卒。幼少期にITに慣れ親しんだ経験から、大学在学中に統計データ分析受託の会社を創業。同社を順調に成長させたあと2006年に株式売却。その後は、国内外の株式、債券、不動産など多様な取引をする個人投資家となる。
『Excelでできる 不動産投資「資産管理」のすべて』(技術評論社)
試し読みPDFがこちらからご覧いただけます
プロフィール画像を登録