PHOTO : tarousite / PIXTA(ピクスタ)

埼玉県東部に位置する東武伊勢崎線・北春日部駅の近くで、大規模な開発事業が始まる。

開発エリアの面積は約40.5ヘクタールと東京ドーム8個分以上。現在は田畑が広がっており、目立った商業施設やマンションなどは見当たらないが、開発後は商業施設や約1000戸の住戸が建設され、新たに3000人の居住者を呼び込む見通しとなっている。

新たな商業施設や住宅街が誕生し、居住者が増えれば、周辺の地価や不動産価格が上昇する可能性もある。そこで今回は、開発地周辺の現状や開発事業の概要を見てみたい。

北春日部駅と、開発エリアの現状

北春日部駅は、東武線の主要駅・春日部駅の隣駅だ。春日部駅は、東武野田線と東武伊勢崎線が乗り入れており、乗降客は1日あたり約6万人を超える。

東武野田線…埼玉県の大宮駅から千葉県の船橋駅を結ぶ
東武伊勢崎線…東京都台東区の浅草駅から群馬県の伊勢崎駅を結ぶ

主要駅ということもあり、春日部駅周辺はある程度賑わっている。西口から通じるメインストリートの「ふじ通り」沿いには中層のオフィスビルや商業施設、マンションなどが立ち並ぶ。駅から徒歩4分の位置には三井ショッピングパーク「ララガーデン春日部」もあり、週末は周辺住民でにぎわう。

今回取り上げる北春日部駅は、そんな春日部駅から1駅。周辺には住宅や低層アパートなどが立ち並んでおり、高層ビルなどは見受けられない。春日部駅と比べると閑散としている印象だ。

開発されるエリアは、北春日部駅の西口から徒歩数分の距離にある。田畑が広がっており、目立つマンションや商業施設はない。

地理院地図Vector」を基に編集部作成

ただ、開発予定地および北春日部駅から東へ約1キロの位置には、交通量の多い国道4号線と16号線の交差点がある。国道4号線を南下すると東京方面へつながり、16号線に沿って南東へ向かうと千葉方面につながる。こうしたことも考慮すると、開発予定地周辺は、交通の面ではある程度の利便性があるといえそうだ。

開発事業の概要は?

北春日部駅周辺地区の開発事業の中身を見ていこう。この事業は春日部市の「土地区画整理事業」として進められている。

春日部市の担当者によれば、開発エリアは数十年以上にわたって「農業振興地域」に指定されていた。農業の推進・発展のために県知事が指定するもので、指定された場合は用途を農地以外に変更することができない。そのため、これまでは住宅や商業施設を建てることができなかったが、今回県が調整を行い、開発に乗り出すことになったという。

昨年11月に「北春日部駅周辺地区土地区画整理組合の設立認可の公告」が出され、今後本格的に工事に着手していく見込みだ。計画期間は10年で、積水化学工業株式会社や清水建設株式会社などに協力を仰ぐ。

開発後のまちのイメージ図。(出典:市発行の「まちづくり通信」。各ゾーンについては筆者記入)

エリア北端には、水害対策として調整池が設けられる予定だ。北春日部は古利根川沿いに位置しており、ハザードマップで見ると、河川が氾濫した際には3~5メートルの浸水が想定されている。

北春日部駅周辺のハザードマップ(出典:楽待「賃貸経営マップ」

北春日部駅西口から西に向かって伸びる「かえで通り」沿いは、「商業ゾーン」と「暮らしの質向上ゾーン」に分けられる。商業ゾーンに入る店舗としては、食料品店やドラッグストア、フィットネスクラブや書店などの店舗例が挙げられている。

暮らしの質向上ゾーンに建設される施設例としては、銀行や保育所、クリニックなどが挙げられる。ただしいずれのゾーンも具体的な施設名は発表されておらず今後の計画次第だ。

そのほか、上記の図の黄色い部分は「低層住宅ゾーン」に設定されている。およそ3000人が居住する約1000戸の住宅が建設される予定だ。

都内の再開発で見られるような高層マンションが計画されていないのは、春日部エリアではそこまでの需要が期待できないためであろう。春日部市の人口は約23万人、世帯数は約9万8000人となっており、春日部駅周辺のタワマンは「BELISTAタワー春日部」(地上26階・地下1階建・152戸)の1棟しかない。

賃貸経営マップで見た春日部市の「人口・世帯数」(出典:楽待「賃貸経営マップ」

開発で周辺地域はどう変わる?

北春日部駅は都心に近いわけではないが、東京駅まで1時間程度で行くことができる。また、国道4号線、16号線のすぐ近くに位置するため、東京や千葉方面への車通勤にも便利な立地といえる。都心に通勤する人々のベッドタウンとしての需要を見込めそうだ。

近年、春日部市では徐々に人口減少が進み、駅周辺市街地の衰退が少しずつ進んできた。春日部駅から2キロ圏内で、唯一人が住んでいなかった一帯を開発する今回の事業が、市の人口の呼び込みに繋がるかもしれない。

また現在、春日部駅西口付近でも再開発計画が進んでいる。エリアごとに小規模な開発を進め、商業施設や私立学校、マンションなどを呼び込む方針だ。今後の動向に注目したい。

(楽待新聞編集部/山口伸)

山口 伸
化学メーカー勤務の副業ライター。本業は理系だが趣味で経済、不動産関連の記事を執筆する。取得した資格は簿記 、ファイナンシャルプランナー。街歩きが趣味で駅周辺の商業施設や開発状況を調べている。