近年、都市部を中心に不動産価格は高騰している。さらに、日本経済は長期にわたるデフレから脱却し、インフレへの転換点にきている。このような状況下で、不動産を所有することに対する日本人の意識はどのように変化しているのだろうか。
国が土地政策の企画・立案のために実施している「土地問題に関する国民の意識調査」という統計がある。1994年度から毎年実施されている調査で、不動産の所有状況などの変化を読み取ることができる。最新の2022年度版は5月に公表された。
これによると、土地を所有することに積極的な人の割合は近年、減少傾向にあるようだ。筆者は新型コロナウイルスの感染拡大が、住宅や土地に対する意識にも少なからず影響したのではないかと考える。
この記事では、相続などで取得した土地の活用状況や、所有意欲が低下していることなど、調査結果が映し出す日本の土地事情について見ていきたい。
「居住地以外に土地所有」は2割未満
今回の調査は昨年11月22日~今年2月20日、全国の市区町村に居住する満18歳以上の3000人を対象に行われ、有効回答数は1506件だった。
まずは、土地の所有状況から見ていきたい。
自身または配偶者が土地(マンション、田畑を含む)を所有しているかどうかを尋ねる設問に、「現在居住している土地のみを所有」と回答したのは43.9%だった。また、「現在居住している土地とそれ以外の土地を所有」は18.8%、「土地は所有していない」は33.3%だった。
過去の調査結果をさかのぼってみると、「現在居住している土地のみを所有」は1999年度に初めて40%台に上昇。それ以降は年によって増減はあるものの40~50%で推移している。一方、「現在居住している土地とそれ以外の土地を所有」は調査開始直後の1994年度の33.7%をピークに減少傾向。2017年度以降は10%台で推移している。
今回の結果で、所有している土地の持ち分についての回答(複数回答)をみると、「自分または配偶者の単独所有」が73.3%と圧倒的に多い。「自分と配偶者の共有」と「自分または配偶者が、その他の人と共有」はそれぞれ12.6%となっている。
また、現在の居住地以外の土地をどのようにして取得したか(複数回答)では、「相続」が71.7%、「購入」が31.8%と、7割以上が相続によるものとなっている。
相続土地の有効活用進まず
自宅以外の土地がある人のうち、土地の現況について「誰も居住していない」との回答は40%超。その土地が以前どのように利用されていたかをみると、「農地・山林」が44.5%と最も多く、次いで、「自分や親戚が住む住宅」が29.2%、「当初から利用していない」が12.4%と回答している。未利用地の状態は、空き地・空き家の割合が合わせて70%を超え、有効な活用が行われていないことがわかる。
有効活用ができていない理由としては、「遺産相続したが利用する予定がない」が49.6%と最も高く、次いで、「体力的な問題や後継者不足」が21.2%と続く。ほかの回答では「売却・賃貸を検討したが価格面での条件が合わない」が11.7%、「特に利用目的はなく、資産として所有」が10.9%となっている。有効利用をしたいものの、その方法や資金、価格面での折り合いがつかないことで、実現できていない姿が浮かび上がる。
未利用の土地の管理方法については、自主管理が78.2%、自主管理と委託管理の両方が10.0%、委託管理が9.1%となっている。また、未利用地の管理が行き届いていないと答えた人のうち、管理が行き届いていない理由として、コロナ下での行動制限が「影響している」と答えたのは18.2%だった。
土地の所有意欲は減少傾向
土地の所有状況についてみてきたが、ここからは土地所有に対する考え方に注目してみたい。
まず、土地を所有したい、または所有している土地を継続して所有したいかを尋ねる質問に、「所有したい」と答えた人の割合は44.2%だった。一方、「所有したくない」は23.8%、「どちらともいえない」は30.7%となっている。
土地所有に対して積極的な回答は減少傾向のようだ。「所有したい」は2019年度に56.6%だったが、2020年度以降は40%台で推移している。
土地を所有したい理由をみると、「居住用住宅等の用地として自ら利用したいから」と答えた人の割合が64.9%と最も高い。次いで「子供や家族に財産として残したい(相続させたい)から」が25.4%、「賃貸や売却による不動産収入を得たいから」が8.0%という結果だった。
一方、土地を所有したくない理由としては「所有するだけで費用(管理費用、税金等)や手間(草刈等)がかかるから」が41.8%と最も高かった。次いで「使い道がないから」が24.5%、「取得費用がかかるから」が12.0%だった。
土地の資産価値を疑問視
土地の所有意欲が減少している要因の一つは、土地の資産価値に対する考え方にありそうだ。預貯金や株式などに比べて土地が有利な資産と考えるかとの質問に対して、「そう思う」が17.9%、「そうは思わない」が28.1%、「どちらともいえない」が35.7%となっている。
土地を有利な資産と考える人の割合は減少傾向にある。調査を開始した1993年度の結果をみると、土地を有利な資産と考えるかで「そう思う」の割合は61.8%だった。「そう思わない」は21.9%、「どちらともいえない」は12.5%だった。
長期的な傾向を見ると、「そう思う」が明らかに減少していることがわかる。土地に対する資産価値を疑問視する傾向が高まっているといえそうだ。
土地を有利な資産と考える理由としては、「いくら使っても減りもしなければ、古くもならない、なくならない」が36.3%と最も高かった。次いで「生活や生産に有用」が28.5%、「価格の変動リスクの大きい株式等と比べて、地価が大きく下落するリスクは小さい」が15.6%だった。
一方、土地の資産価値を疑問視する意見としては「預貯金や株式などに比べて、維持管理(ランニング)にかかるコスト負担が大きい」が43.3%と最も高い。次いで「株式などと比べて流動性が低く、運用方法が限定的」(21.7%)、「地価上昇による短期的な値上がり益が期待できない」(14.7%)、「地価は自然災害や周辺開発等の影響を受けると、下落するリスクが大きい」(14.2%)の順となった。
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今回の調査結果からは、相続などで取得した土地を持て余し、維持管理のコストや手間に頭を悩ませる人が多い事情が浮かび上がる。一方で、都市部を中心に不動産価格が高騰している影響で、なかなか物件を購入できないという投資家は多いだろう。投資家にとってのビジネスチャンスは意外なところに転がっているかもしれない。
(鷲尾 香一)
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