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近年、「リバースモーゲージ」や「リースバック」と呼ばれる手法が普及してきています。いずれも、所有する自宅を生前に現金化しつつ、自らの住居も確保する、というものです。

一般的には、自分が亡くなるまで自宅を所有し続け、死後にそれが相続の対象となることが多いと思われます。

しかし、すでに家を持ったお子さんたちは親の自宅(実家)を欲していないという場合もあります。かといって、生前に売却処分して新たな住居を探すのがよいかといえば、高齢者にとっては入居審査の問題や、環境が変わることの負担など、さまざまな面から難しいという現状もあります。

そこで、「リバースモーゲージ」や「リースバック」が注目されているわけです。

ただ、「リバースモーゲージ」や「リースバック」には、メリットの一方でリスクも伴います。今回は、この手法の注意点について、取り上げていきたいと思います。

「リバースモーゲージ」の注意点

「リバースモーゲージ」とは、自宅を担保にしてお金を借り、死後に自宅を売却するなどして返済する、というものです。一言でいえば「自宅を担保にした借入」です。そのため、主に金融機関がこのサービスを提供しています。

「モーゲージ」は住宅ローンのことですが、年数が経つにつれて減っていく通常の住宅ローンとは逆に、借り続けることでローンが増えていくことから「リバース(逆)」という名がついています。

自宅の評価を元に借入限度額を決め、その範囲内で、例えば毎月いくらなどのような形でお金を借り続けることになります。こうして溜まっていった負債は、亡くなった後に自宅を売却するなどして一括返済されることになるのです。

このように、「死後に返済すればよい」ということで、返済を気にせず老後の生活資金を手にしながら今までどおり自宅で生活できる、という利点があります。ただし、その仕組み上、気をつけなければならない点もあります。主な注意点を以下のとおり2つ、紹介します。

1.担保価値の下落
リバースモーゲージが、「自宅を担保にお金を借りる」という仕組みである以上、何らかの事情により自宅の担保価値が下がってしまった場合は、借入限度額も下がることになってしまいます。

建物の損傷など物理的な問題のほか、市況の悪化によって価値が下がるということもあり得ます。実際、リバースモーゲージの契約においても、定期的に担保価値を見直す旨の内容が定められています。

万一、担保価値が大きく下がり、借入残高を下回った場合、その時点でもうお金を借りられなくなってしまうだけでなく、差額をまとめて返済しなければなりません。それができなければ、家を手放すしかなくなってしまいます。

2.予想外の「長生き」
一般的には長生きすることは良いことかもしれませんが、リバースモーゲージにおいてはそれがリスクになり得ます。

お金を借りられる限度額は最初から決まっているわけですが、当初想定していた期間よりも長く借り続けて限度額に達してしまえば、これ以上借りることはできません。この場合にも、先ほどと同様に家を手放すしかなくなってしまいます。

もちろん、安全性を考えて余裕を持った限度額を設定すればよいのですが、このようなリスクがあるということは念頭に置いておくべきでしょう。

「リースバック」の注意点

「リースバック」とは、自宅を売却した上で賃貸してもらい、その後は賃料を払いながら住み続けるというものです。自宅を売った相手から再び借り戻す(バック)ことから、この名前がついています。

自宅を売却することが前提になりますので、こちらはリバースモーゲージとは異なり、主に不動産会社が提供しているサービスです。

自宅を売却するので、まとまったお金を手にすることができます。それを老後の生活資金としつつ、そこから賃料を払いながら生活していきます。生前にまとまったお金が手に入るという点がこの方法の特徴です。

ただし、こちらについても、その仕組み上、気をつけなければならない点があります。主なものとして、以下の2つがあります。

1.定期建物賃貸借(定期借家)契約ではないか
売却の後に締結される賃貸借契約が、普通建物賃貸借(普通借家)契約ではなく、2年や3年の定期建物賃貸借(定期借家)契約である場合は、注意が必要です。この場合、亡くなるまで住み続けられることが保証されているわけではありません。

普通借家契約の場合は本人が望むだけ住み続けることが可能である(貸主は原則として更新を拒否できない)のに対し、定期借家契約の場合は必ずしも再契約が保証されているわけではないのです。期間が満了したタイミングで契約を打ち切られてしまう可能性すらあります。

また、再契約の際に賃料アップを要請されたら断れないというリスクもあります。

実際に、リースバックを案内する不動産会社のサイトの中には、定期借家であることが分かりづらく書かれているものもあります。賃貸借契約について「再契約が可能です」と書かれていても、定期借家の場合はあくまでも「両者が合意すれば再契約が可能」という意味ですので注意が必要です。

2.予想外の「長生き」
実は、リースバックにおいても「長生き」が問題になります。

売却の際にまとまったお金を手にして、それを元に賃料を含めた生活費を払い続けていくわけですが、この場合においても、想定外に長生きしてそのお金が先になくなってしまえば、その後の賃料も払えなくなってしまいます。

そのため、売却後は慎重な資金管理が必要になります。また、そもそも売却価格が適正であるかについても十分に検討すべきです。

このように、リバースモーゲージとリースバックはともに、所有する自宅を生前に現金化しつつ住居も確保する手段だという点では共通しますが、両者にはその仕組みの違いからそれぞれメリットやリスクがあります。また、実際のサービスの内容は業者ごとにまちまちですので、詳細な条件も含め慎重に検討する必要があります。

さらに、実は「長生きリスク」は両者に共通するリスクです。そのため、リバースモーゲージとリースバックのどちらを選ぶべきか、という観点とともに、そもそも今の時点で自宅を現金化することが本当に必要なのかという観点での検討も必要です。

将来の相続にも関わる話ですので、一度ご家族で話し合ってみるのがよいでしょう。

(弁護士・関口郷思)